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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部 第一章 アクスム総督
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軽便鉄道

 昭弥が病院から自ら退院して数日後、アムハラ周辺に設立された軽便鉄道の工場に向かった。


「結構小さめですね」


「元々小さいからね」


 製造されている機関車を見たセバスチャンに昭弥が答えた。

 軽便鉄道は、通常の鉄道より軌間を狭くして建設費と維持費の低減を目的とする鉄道だ。

 小さいため輸送量は大きくないが、使いやすいという利点がある。


「今あるのは、五〇〇ミリだが、二五〇ミリと七五〇ミリを追加しようと思っている。この三種類で十分なはずだ」


「間の軌間が欲しいという人が居たらどうするんですか」


 セバスチャンの懸念はもっともだった。

 五〇〇ミリでは足りないが七五〇ミリだと能力過剰だ、という事業者が居ても不思議はない。


「そこは運用で工夫するしかないね。貨車の数を増やしたり、操車場を増やしたりね」


「良いんですか?」


「要望に合わせたいけど、生産力が無いんだ。下手に軌間のラインナップを増やすと生産設備の種類が増えるし、在庫も増やさないといけない」


 AとBとCの商品を揃えようとすると三つの生産ラインを作る必要が出てくる。

 それぞれのラインに人や機械が必要になるからコストがかかるので、割高になる。

 在庫を一〇個ずつ置いておくようにすると総計三〇個も必要となる。それだけスペースも必要だ。

 だが、ラインナップを一つに絞っておけば在庫は一〇個で済むし生産ラインも二つで済みコストダウンとなり、安く供給出来る。

 さらに軌匡、鉄製のレールと枕木を固定した物の種類が少なく済む。機関車が合ってもレールがなければその上を走る事が出来ない。軌間のラインナップを増やすと軌匡も増やさなければならないので、この生産コストも大変だ。その分安くなる。

 何より交換部品や改良した機関車の開発がし易くなる。

 軌間のラインナップが多いと機関車の開発もラインナップ毎に作らなければならないので、開発コストが非常に多くかかる。それらは商品の価格に跳ね返ってくる。

 なので商品のラインナップを限定して供給すれば安く大量に送り出す事が出来る。


「購入者が運用で不利益を被りませんか?」


「その分、周辺設備を充実させようと思う。手回し式のクレーンや貨車毎倒して積み荷を降ろす装置とか、ターンテーブルとか。使い勝手を良くする設備があれば問題無いよ」


 ゲーム機を複数種類作るよりソフトのラインナップを増やしたり、付属の機器を開発して顧客を獲得するようなものだ。

 昭弥としてはそこからの収入も考えていた。


「しかし、安価に売るだけでは意味が無いのでは? 売ったらそれで終わりですか?」


「そこも考えてあるよ」


 昭弥は隣の工場に移った。


「ここは?」


「軽便鉄道の整備工場だ。ここで整備を行う」


 昭弥はセバスチャンに説明した。


「購入した機関車は整備しないと直ぐに性能が低下する。日常検査やボイラーの清掃程度なら簡単にできるだろうが、分解整備などの大規模整備は不可能だ。そこで難しい大規模整備をここで行うんだ。確実に必要な上に、定期的に行う必要があるから安定した収入が入ることになる。それに駅の設備の検査も行う必要があるからその費用も入ってくるよ」


「ここまで運ぶのは大変では?」


「ああ、標準軌の列車に乗せてここまで運んできて整備して、終わったらまた列車で運んで返すんだ」


「長期間、機関車が使えない状況になりませんか?」


「そこも考えているよ。代車といって整備会社が保有している機関車を貸すんだ。いつもとは勝手が違うので戸惑うだろうけど、無いよりマシなはずさ」


 そう言って昭弥は、工場を後にした。




 次に向かったのは、軽便鉄道の建設現場だ。

 密林を切り開いてレールを地面に置いていく。普通ならバラストを設置するが、軽便のため省略。

 高低差が大きくて機関車が通れないような場所には木材を組み合わせて作った高架を作りレールを設置。小高い山は、迂回する。

 兎に角、とっとと開業させるために時間省略優先で建設している。

 険しくて標準軌で作ると時間がかかりすぎるというのも理由だが、部族に別れているアクスムを統一するため、一体感を作り出すためにもこの鉄道が必要だ。


「やれやれ、非常に疲れる」


 アクスムは高地が張り出してきた土地で海岸部には平野が少なく、川は直ぐに急流となる。そのためルテティアと違い、開拓出来る土地が少なく都市は発展しなかったし、谷や尾根が発達しているので交通や流通の障害となっていた。

 そのため国としての発展が遅れていた部分がある。


「だが鉄道を開業すれば問題が無くなる」


 一旦線路を建設すれば、大量の物資を格安で短時間で運ぶことが出来る。

 今は沿岸部の標準軌とそこから支線のように別れる軽便鉄道。

 荷物の載せ替えで時間がかかるが、今はこれで十分。

 十分収益が得られそうな路線が出来れば、後々標準軌に代えれば良い。


「はじめから標準軌で建設すれば?」


「そうしたいんだけど技師が足りない」


 技師は居るがアクスムの暑気と風土病により倒れる人間が多いし、疲れやすい。交代要員を増員しているが、それでも足りない。

 簡単に敷設出来る軽便鉄道で急速に路線網を拡大するしかない。


「もっとも獣人の技師の養成も進んでいる。数年後には彼らが主力となって路線開設に邁進してくれるはずだ」


「楽しみですね」


「ああ、彼らが立派にアクスムの発展に寄与してくれるはずだ」


 彼らは何処に何があるかをよく知っているはず。

 彼らに鉄道建設に必要な知識を与えれば、より良い鉄道になるはずだ。


「無事に育ってほしいものだ」

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