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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部 第一章 アクスム総督
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皇帝の呼び出し

 ユリアとケンカした翌日、昭弥はルテティア滞在中の帝国皇帝に会うことになった。

 朝になっていきなり昭弥の元に勅使が訪れて、皇帝が会見したいと言ってきたのだ。

 服装を整えて、直ぐに向かうことにする。


「しかし、何でまた」


 先日、セント・ベルナルドが不通になったお陰でようやく到着した帝国軍の司令官としてきている。しかし、その前に王国軍が全て片づけたため、王都に到着した直後、帝国軍共々いらない子状態になっている。

 だが、周と戦争をするかも知れない状態だと、兵力は多い方が良い。

 九龍王国が出来たとは言え、周が攻めてこないとも限らず、戦争になったら直ぐに帝国軍を送り出さないと拙い。

 しかし、先日周と和平条約を結ぶことが出来たため、その必要も無くなった。

 後は、調印して終わり。

 皇帝がここに居たのも、条約の締結に参加するためだ。

 全てを終えたのは王国だが、王国は帝国の下にあり、外交は帝国政府の仕事だからだ。

 王国が外国と交渉を纏めても、帝国の承認が無ければ発効しない。拒絶される事はないが、王国が帝国内にある事実がそれを必要としている。

 だが、その役割も終わったはずだ。

 なのにどうして昭弥に用があるというのか。

 王城にある皇帝専用の宮殿に向かう。

 帝国の果てにある王国は度々皇帝親征の拠点になるため、いつ皇帝が来ても良いように王城内に宮殿が用意されていた。

 昭弥もそこに向かう。

 女王のユリアより豪奢な建築物で、王国が誰の支配下にあるかよく分かる建物だ。

 儀仗兵が警備する門を通り、侍従の案内で部屋に向かう。

 部屋に入ると直ぐに皇帝が現れた。


「ご尊顔を拝し恐悦至極にございます」


 昭弥は、ひざまづいて会釈した。

 昭弥は帝国ではなく王国の閣僚だが、上位者である皇帝に進化の例を取らなければならない。

 何より無礼を働いて王国に迷惑を掛けたくない。


「そんなかしこまらずともよい。楽にせよ」


「ありがとうございます」


 顔を上げると皇帝フロリアヌスは笑顔で昭弥の目の前に立っていた。

 気に入らない笑顔だ。

 昭弥はそう思った。

 何も知らず、兎に角笑顔を振りまいておけば良いと考えている笑顔。自分が正しいと思い相手のためになると信じて相手に貧乏くじを押しつける最悪の笑顔。

 昭弥はそのような人物を信用していないし、生理的に毛嫌いしている。

 なので一刻も早く出ていきたかったが、我慢する。


「実は、其方に喜ばしい決定を伝えたいのだ」


「何でしょうか?」


「帝国は貴公を帝国伯爵に叙任することを決定した。この度の戦いにおいて多大な功績を果たしたからな。また、アクスムの平定に尽力した功績、何より鉄道を普及させた功績は誰もが認めるところだ。よって授けることとする」


「ありがとうございます」


 昭弥はとりあえず礼をいった。

 王国公爵の地位だが、王国公爵は王国内でしか通用しない。帝国から爵位を与えられるのは帝国内で通用する地位を与えられたということだ。


「領地は今王国が公爵として与えているチェニスの領有を承認する形で与える。今日からチェニス帝国伯爵だ」


「はあ」


 帝国の役割の一つに貴族の領地の承認というものがある。封建社会は基本的に契約社会で貴族は国王から領地の領有を承認、お墨付きを貰う代わりに国王に軍事力を提供する形になっている。

 貴族同士の争いがあったときの調停を行ったり、貴族領内のもめ事、家督争いを捌いたりすることだ。

 今回は昭弥は王国からチェニスを貰ったが、それを帝国が承認したという形になった。


「ところで、鉄道に関して博識な卿に一つ相談があるのだが」


 予想通り、皇帝が昭弥に何か提案してきた。


「何でしょうか?」


「余の代理人として帝国の鉄道全般を任せたいのだが」


 その言葉に昭弥の血が一瞬にして沸き上がり、高揚した。

 帝国全土の鉄道の指揮指導。

 鉄オタである昭弥にとってこれほど素晴らしい役職はない。

 王国鉄道を復活させた昭弥にとって、強力な勢力を誇る帝国鉄道を更に発展させるなど簡単な事だ。

 これまでに無い鉄道を作る事が出来るだろう。


「お断りします」


 しかし、昭弥は断った。


「何故だ」


 フロリアヌスは、怒るように言った。


「お断りします」


 再び昭弥は答えた。

 皇帝が怒るのは当然だが、昭弥には仕方の無いことだ。

 これまで甘言を色々言って、誘ってきた人間は多く居る。この世界ではなく前の世界でだ。

 これをやって方が良いよ、進学に有利だよ、就職に有利だよ。

 親、教師、塾教師、勧誘業者、セミナー経営者、カルチャーセンターの案内人。

 だが、それらが役に立ったことなど一度も無い。

 そんな人間と同じ匂いがしたので、昭弥は断った。

 入る前に甘いことを言っていても、入った後で手のひらを返す。それで時間と金をどれだけ無駄にしたか。

 皮肉にも一番役に立ったのは、心からやりたいと思い、自学自習した鉄道関連の知識だ。

 一事をもって万事に通ず、と誰かが言ったか創作したかは知らないが、一つの事に通じていると万事に通じると言うように、鉄道を理解しようとすると色々知らなければならないので、視野も視点も広がり、今様々な面で役に立っている。

 彼らは特定分野なら役に立つのかも知れないが、様々な分野を結びつけるのは素人以下であり、昭弥と相性が悪かった。

 皇帝も同じであり、昭弥を使いこなすことは出来ず、いずれ昭弥を捨てる。だから、昭弥ははね除けることを決めた。


「私は王国の鉄道大臣であり、王国から辞めるよう言われない限り、離れる訳にはいきません」


 だが、表向きには波風を立てないように丁寧に断ることにした。


「私の元に来れば帝国の鉄道は思いのままだぞ」


「お断りします」


「貴様……」


 皇帝の顔が怒りに満ちようとしたとき乱入者が来た。


「これ以上私の大臣を虐めないで下さい陛下」


「ユ、ユリア」


 皇帝の顔が引きつった。

 従兄弟とは言え、勇者の血を引き、帝国最強と噂されるユリアだ。

 皇帝だが、身体能力的には凡人と変わらず、ユリアに大きく劣る。

 まともに戦ったら確実に、文字通り消滅する。


「謁見を許した覚えはないぞ」


 なので地位を笠に着て問い詰める。小人のやり口だがそれ以外に方法が無い。


「私の大臣が虐められていると聞いて」


「帝国伯爵の地位を与えただけだ」


「そして帝国に無理矢理連れだそうと」


「それは、本人の自由だ」


「ならば、行かぬのも自由です」


「そもそも、お前にとって昭弥卿とは何なのだ。家臣以前に何なのだ」


 ストレートに問われてユリアは黙り込んだ。正直に言うのは恥ずかしい。


「パトロヌスとクリエンテスか」


 皇帝の言うパトロヌスとクリエンテスは保護者と被保護者という意味だ。

 一方的なものではなく、クリエンテスは普段パトロヌスから庇護を受けていても、パトロヌスが困ったときは、クリエンテスは力を貸さなければならない。

 もし、困窮してパトロヌスを見捨てるようなクリエンテスは、信義の無い人間として帝国内では信用されない。


「はい、ユリアさんのクリエンテスです」


 思わず昭弥は言った。

 クリエンテスのことは知っていたし、今でも王城に住まわせて貰っているので事実上、パトロヌスとクリエンテスの関係だ。


「ならば致し方ない」


 皇帝は引き下がった。

 この関係は帝国の秩序の一つであり、それを乱すならば秩序の維持者としての皇帝の権威に傷が付く。だからフロリアヌスは引き離すことを諦めた。


「私からは昭弥に対しては以上だ。ただ今回の戦いで功績の大きな王国貴族も多いだろう。戦いで活躍したハレック、ラザフォード、スコットの三人の大将に対し帝国は元帥号を与える事とする。また、彼らにも伯爵号を与え、領地も認める。他にも功の有った者を賞しようと考えている」


「有り難きお言葉と多大なる恩賞。与えられる物に変わりお礼を述べさせて貰います。王国一同、皇帝陛下の思し召しに感謝するでしょう」


 ユリアは深々と礼をしたが内心疑問に思っていた。

 なぜこれほど恩賞の大盤振る舞いをするのか帝国貴族ならともかく、王国内に行うのか。引き抜き工作の一環だろうか。

 だがそれ以上の事は考えなかった。それ以上に腹立たしいことがあるからだ。


「二人とも下がれ」


 皇帝の一言で昭弥とユリアは下がった。


「いや、驚いた」


 久方ぶりで話しかけようとしたが、ユリアは何も言わず先に帰ってしまった。

 仲直りの機会と思ったがダメだった。


「やれやれ」


 一方のユリアは黙り込んだままだった。昨日の事もそうだが今日のことも。


「何が私のクリエンテスよ」


 確かに嬉しいが他にも言葉があり言って欲しかった。そう思うユリアだった。

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