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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部 第一章 アクスム総督
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方針の討論

4/20 誤字修正

「それはそうと、一つ話があるんだが」


 閣議の後、ラザフォードが昭弥に話しかけてきた。


「何でしょう?」


「奴隷政策の事だ」


 予想された事だ。そんとあめ昭弥は落ち着いて聞いた。


「奴隷解放を行っているようだが」


「その通りです」


「だが、奴隷制は帝国の基本だ。これを脅かすのは帝国に歯向かうことを意味する」


「ですが、奴隷制を無くそうとする人がいますよ」


「君がか?」


「他にも出てくると考えています」


「何故だ」


「鉄道によって大量の物資を輸送出来るようになりました。そのため少ない物資を分配する、という仕組みではなく大量の物資をいかに売り切るか、という仕組みに変わります」


「それで奴隷が邪魔だと」


「奴隷が買い物をする事は出来ませんから。主人が買い与えることはあっても、奴隷と解放奴隷では購入量が違います。奴隷にも私有は許されて居ますが非常に微量ですし」


「金持ちの主人を相手にした商売を行えば良いのではないのか? 彼らの使う金が下に回る方が効率が良いのでは?」


「いいえ、それはダメです。一人の金持ちと十人の市民では、十人の市民のほうが消費が大きいですから」


「? どういう事だ?」


 ラザフォードの問いに難なく昭弥は答えた。予想された質問だったからだ。


「例えば、ある場所で一年で金貨五〇〇〇枚分の収入があるとしましょう。一人当たり生活に必要な金貨は三〇〇枚です。もしこれを独り占めしたら、三〇〇枚だけ使ってあとの四七〇〇枚を貯金してしまうでしょう」


「贅沢品に向かわないか?」


「多少は行くでしょうが、多くは貯金でしょう。三倍使ったとしても使う金貨は九〇〇枚でしかなく、残り四一〇〇枚は貯金、死蔵されます。そして、貯金は消費に回らず不景気になります」


「ふむ」


「一方、十人で分けたら一人当たり五〇〇枚です。生活に必要な金貨は合計で三〇〇〇枚。一人の時より遥かに多い金貨が消費に回り、世の中を潤します。それに余った金貨も消費に回す可能性は高いです。どちらが良いかおわかりでしょう」


 経済は人、物、サービス、金が動くことによって回る。

 それを大きく回すことが出来る様に仕組みを変える必要があった。


「奴隷制度廃止による利益については分かった。だが、どうやって変えるというのだ。いきなり解放は危険だろう」


 何の能力も技能も無い奴隷が巷に溢れたら危険だ。


「そこで奴隷税を作ります」


「何?」


「奴隷を所有することにコストがかかるようにします。そうすれば問題無いでしょう。奴隷の所有には逃亡時の手配のために登録が必要となっていますそれを利用します。累進課税、所有数に応じてドンドン増えていく仕組みにします」


「手放す人間が増えたらどうするんだ」


「大農場ほど多いでしょうが今は開拓などで労働力が必要ですし、鉄道のお陰で市場が増えています。吸収することは可能なハズです。あと、ウチでも奴隷の乗車料を高くする予定です」


「結構悪辣だね。だがそんな税金の導入、認めるかな」


「戦争の戦時国債償還のためと言えば良いでしょう。最近は市民の勢力が増していますから、すんなり通るはず。奴隷所有者は上流階級者が殆どですし、中流以下は奴隷の数が少ないはずですからすんなりと通るはず」


「確かにね」


 近年、鉄道の発展により物価が安くなったこともあり、市民レベルの生活が改善されつつある。生活に必要な費用が少なくなった分、高級化したり余暇に使ったりするようになった為、彼らの力が増しつつある。

 それは議会の勢力にも反映しつつあり、市民の力が強くなっている。


「さらに高所得者への所得、収入に関しても累進課税を行うべきです」


「増税は納得しないと思うけど」


「いいえ、市民レベルの収入の増大は少なめで大丈夫でしょう。自分たちの税金が増えないなら導入に抵抗はないでしょう。それに彼らの収入は今後増えていくことが予測されますから今のうちに課税しておく必要があります」


「政治家っぽくなってきたね」


 ラザフォードは、にっこり笑いながら答えた。


「しかし、君は本当に冷静だね。奴隷制度が儲からないと知るや直ぐに潰し新たな体制に持ち込むための方策を考える。中々出来ない事だよ」


「いいえ、これは私が本心からやりたいことです」


 昭弥自身は奴隷になったことは無い。だが、前にいた世界は息苦しかった。決められたことを行わなければ、叱られ非難され、馬鹿にされる。さらに自分の時間も無い、自由にして良いと言いながら、決められた勉強しなければ、怒られる。そんな生活は奴隷以下だろう。

 そんな生活など勘弁だ。

 他人にも同じ事をしたくない。

 だからこそ、昭弥は奴隷制を廃止したいと思っていた。

 昭弥が真面目に言うとラザフォードは一瞬呆気にとられ、次いで大笑いした。


「夢に向かって突進する奴はいるが、その過程の事まで考える奴は早々いない。たいがい無理強いしたり、無理矢理行おうとして失敗する」


「からかわないで下さい」


「嫌々褒めているんだよ。夢を実現させるため冷徹に現実を見据えて策を立てるというのは嫌いじゃないよ」


 ラザフォードは昭弥に親しく話す。


「できる限りの協力はしよう。まあ、今はいろいろと忙しいからね。東方の九龍王国の対応とかね」


「独立国でしょう」


「条約により様々な権益が我が国にはある。それらを守るために行動しなければならない。ところがどうも協力的でない人間が居る」


「職務怠慢ですね」


「堂々と言っているんだから処置なしだな」


「私ですか?」


 心外とばかりに昭弥は言った。


「きちんとやるべき事はやっていますよ」


 昭弥の言った事は事実だ。

 九龍王国に認めさせた鉄道敷設権をフルに使い、九龍山脈の九つの峠に向かって手それぞれ鉄道を敷いている。

 更にそれらの鉄道とルテティア王国鉄道を結ぶべくユーフラテス川に掛ける橋の建設準備を進めている。それまでの間、向こう側へ列車を運ぶ蒸気機関を搭載した鉄道連絡船も送っている。

 これだけのことをしてまだ足りないのか。


「確かに仕事は完璧だ。だが、全力を出している様に見えない。他に労力と資材を回しているように見える」


「優先順位がありますからね。ルテティア本国、アクスム、九龍王国。この順番で建設しています」


「西方は重要でないと?」


「鉄道的には重要じゃ有りません」


「周が居るのだぞ」


 ハレックが言ったように、現在周はルテティア、ひいては帝国にとって最大の仮想敵国となっている。

 先の大戦の痛手により、大人しくしているがまたいつ攻勢に出てくるかわからない。

 なので、平和な今のうちにできる限りの用意をしておきたい。


「そのためには周本国に通じる九つの峠を塞ぐ必要があるのだ。増援を送り込むためにも鉄道を敷く必要がある」


「それだけでは経済は発達せず、赤字を垂れ流します。収入以上の支出を行う気ですか」


「それは拙いな。だが、沿線を開拓すれば良いのでは? 現に沿線は発達しつつある」


「で、発達するのは何の産業ですか?」


「農業だな。あの辺りは」


「ええ、主に小麦と大豆、トウモロコシ、ジャガイモと言ったところでしょう。それはルビコン川周辺でも同じです」


「値下がりが心配か」


「はい」


 鉄道によりルビコン川周辺の農業が盛んになりつつある。王都の人口増加などで食料の需要が増えているためだ。

 ルビコン川周辺の農家から小麦や大豆などを買っているのだが、供給元にルビコン川周辺の農家が増えるとどうなるか。

 供給が大きくなるため、商品にあまりが出てくる。

 余った商品を売るにはどうするか。

 品質が同じなら値下げしかない。

 そして客は戻ってくるが、他の商品にあまりが出てくる。

 以下繰り返しで、値段は下がり続ける。そして得られる利益は非常に少なくなる。


「王都の民にとっては良い事ですが、王国の農民にとっては良い事ではありません」


「では、どうするか」


「農地を増やすのなら、購入先を増やすしか有りません。王都や町の人々を増やすか、王国の外に売り出すか。そのどちらかです」


「売り込み先を見つけない限り増やしても意味が無いと言う訳か」


「はい」


「非常に為になった。検討しよう。しかし、本国やアクスムを開発する必要があるのか?」


「本国は開発すればそれだけ王国が繁栄します。アクスムは、ルビコン川周辺とは違う産物があるので、競合しません。むしろ、豊かにしてくれます。開発するべきだと考えます」


「わかった、アクスム総督の意見を尊重しよう。閣僚の説得は私があたるから、啓発を進めるように。ところでどれくらい役に立つ」


「鉄道会社で言えば、恐らく利益が最低でも倍以上。王国にもたらす利益は計り知れないとしか言いようがありません」


 ラザフォードは絶句した。

 あまりに膨大な数字に驚いた。

 昭弥の戯れ言とは思わなかった。

 彼はいつも現実的で具体的、予想を言うことはあっても妄想を言うことは無い。

 彼が倍と言えば必ず倍以上になってきた。

 それが今回は計り知れないという。


「どんな事になるか楽しみだよ」


 ようやく我に返ったラザフォードは笑って答えた。

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― 新着の感想 ―
そんとあめ 上は、何を表現しているのでしょうか? 誤字の類かと頭を捻ってみましたが、思い付きません。
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