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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部 第一章 アクスム総督
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閣議

 王城にやって来た昭弥は、そのまま閣議の行われる部屋に案内された。

 途中で後続の馬車が止められて心配したが、エリザベスが後は任せるように言って聞かせて、向かうことになった。

 彼女たちが脱走しないか心配だったが、とりあえず閣議に出席することにした。

 閣議室には既に、宰相にして昭弥の養父であるラザフォード公爵が座っており、他の大臣も席に着いている。

 ただ軍務大臣のハレック上級大将だけは昭弥を睨んでいた。

 先の捕虜を買い取るという話しで、大戦時の輸送費を盾に半ばハレックを脅迫するような交渉を行ったことを根に持っているのだろう。

 他にも色々、軍と対立することが出来てきている。なので険悪な雰囲気になるのは仕方ない。だが、王国の中でも有力な勢力である軍が抵抗勢力、反対勢力になるのは宜しくない。

 そのことを考えると、頭が痛くなる。


「女王陛下ご入場」


 儀典長の報告と共に全員が一斉に起立して女王陛下を迎えた。


「座って下さい」


 玉座の前に立って指示すると閣僚達は席に戻り、ユリアも座った。

 ただ、笑顔なのだが、何処か不機嫌そうだ。見えないはずなのに、ユリアの背後にどす黒いオーラがメラメラと炎のように立っているように感じる。

 霊感も超能力も無い普通の人間なのにどうしてそんなことを感じるのか、分からなかった。


「では、閣議を始めたいと思います」


 ユリアの開会宣言により、閣議は始まった。


「最初にアクスム総督玉川昭弥から現状報告と今後の計画を説明して下さい」


「は、はい」


 昭弥は急かされるようにして説明を始めた。

 現状としては十大部族と協定を結び、従わせる事に成功したこと。ゴムの生産により産業が拡大しつつあること。香辛料の生産が行えることが分かったことだ。

 今後の計画としては、産業の育成と産物の輸送の為に鉄道網の拡大を行う事。アクスムの中心地であるアムハラと入り口であるチェニスの再開発を行い、発展を飛躍させること。それらの費用を確保するために公債を発行し、今後も発行することを報告し、アクスムの経済安定化のためアクスムに定額手形(事実上の紙幣)の発行を行う銀行の創設を考えていることを伝えておえた。


「銀行が二つ出来るのは好ましいことではないと思いますが」


 財務大臣兼王立銀行総裁のシャイロックが答えた。

 経済の番人でもある彼にとって、資金供給源となる銀行が二つに増えることが混乱の元凶になるのではないかと不安を漏らした。


「寧ろ混乱を回避することが出来るでしょう。通用する範囲をアクスムに限定すればルテティア本国に影響を及ぼすことなくアクスムの経済的発展をもたらすことが出来ます。手形の交換を行うことでアクスムとルテティアとの間で行われる通貨の動きを見ることが出来ます」


 一番怖いのは資金の流れが見えなくなることだ。過剰に資金がアクスムに流れ込めば本国もアクスムも混乱する。それを防ぐためにも交換という監視兼調整役となる交換が必要と昭弥は考えていた。


「アクスムは発展途上で経済が混乱しやすいと考えます。そのため、王国に影響がないよう、アクスム限定で定額手形を発行出来る銀行を創設しようと考えています」


「確かに、穴の開いた樽に酒を入れる訳にもいきませんからね」


 経済担当者として一番怖いのは、発行した通貨が手の届かないところに行き動いていることだ。王国内だったら、完成しつつある銀行網により貸出額を調整することで制御することが可能だ。だがアクスムは銀行をこれから創出する必要がある。それに王国とは違う習慣のあるアクスムで同じ通貨を使うのは危険だ。換金という手間はかかるが、混乱を防ぐには良い案だ。


「わかりました。銀行と公債発行については了解しました。ただ、発行額については遵守を頼みます」


「勿論です」


 シャイロックの承認を得たお陰で昭弥の計画は承認された。


「では東方問題を報告させて頂きます」


 続いての問題は、東方問題で報告者は軍務大臣のハレック上級大将だった。

 これは、今後の最優先で対処するべき相手が周に変わったためであり、軍を最優先で増強する必要が出てきたため、軍部の力が強まっていた。

 九龍王国には駐留軍が配置され、要所を固めていたし、激戦を繰り広げたユーフラテス川周辺には王国軍の元将兵達が入植した開拓村や屯田兵村が建設され、食料生産と勢力拡大、戦時の兵力源として活躍することが期待されている。


「このように開拓は順調に進んでおります。しかしながら、鉄道建設遅れており、特に九龍王国内の鉄道が全くないため九龍山脈への兵力展開、輸送、補給に多大な時間がかかることが予測されます。それらを解決するべく東方への鉄道建設の優先順位を上げて貰いたい。また戦時の軍事輸送拡大のため、路線変更、駐屯地への引き込み線建設、ダイヤ編成権の一部移譲、軍事輸送列車のダイヤ上の優先権を求めます」


「反対します」


 昭弥は直ぐに断った。


「東方への建設は行っておりますが、現状必要とされる鉄道建設は行っており、これ以上の配分変更は必要ないと考えます」


「周との戦闘は恐らく避けられないでしょう。何時戦争になっても良いように早急に東方の鉄道建設の速度を上げて貰いたい」


「主要な路線に関しては開業を早めることは承諾します。しかし、不要な路線まで建設する必要は無いと考えます」


「不要とはどういう事だ!」


「計画されている路線の大半は、人口希薄地帯であり、産業が興りそうにありません。輸送需要がないために列車を走らせても黒字を達成することは不可能に近く、赤字となり、負担を掛けることになります。採算の取れる路線のみ建設し、他は計画の見直しを」

「国の一大事に何が採算だ。国家の防衛は何にも勝る」


 典型的な軍国主義者だな。

 と昭弥は思ったが、間違っても居ない。先の大戦で見る限り、戦争での敗北は国家を非常に不利な立場に追い詰める。

 ルテティアに原因の一端があるとは言え、国が負ける事の無いように手を打つのは当然と言える。だが、このような軍事優先の方法は経済的な損失、特に平和なときには赤字を垂れ流す厄介者になる。そして戦争の時も、想定外の事態に陥って結局役に立たないという事態になることが多い。

 役に立たないことに労力をつぎ込む必要は無いと昭弥は考えていた。


「駐屯地や補給基地への引き込み線建設には協力しますし、軍用列車の運用協力も行います。ただダイヤ作成権を譲る訳にはいきません」


「何故だ」


「一般の列車が運用出来なくなります」


 というのは建前だった。もし素人の軍人がダイヤを作成したら安全係数や給水給炭、整備を考えず過密ダイヤを作成するに決まっている。その結果、途中で立ち往生したり、衝突事故を起こす列車が続発するに決まっている。

 戦いに関しては専門家だろうが鉄道に関しては素人だ。

 そんな連中にダイヤの作成権を渡す訳にはいかない。


「国家に協力出来ないというのか」


「何をもって非協力というのですか。先の大戦では全力を挙げて協力いたしました。もし、大戦において非協力的な行為があったというなら示して貰いたい」


「うぐっ」


 そこでハレック上級大将は黙り込んだ。

 先の大戦で鉄道が果たした役目が大きいことは誰もが知っている。いや、誰よりも知っているのがハレックだ。

 ハレックが立てた計画は全て鉄道あっての事であり、鉄道がなければ軍の拡大計画は不可能だった。


「平時、戦時を問わず可能な限り鉄道は軍に協力します。なので軍への権限移譲はご勘弁を」


「だが……」


「王国としても鉄道は必要だ」


 ハレックの発言をラザフォードが遮った。


「だが、それは王国全体が必要としているのであって軍のみが独占して良いものではない」


「ですが」


「分かっています。私も先の大戦では軍を率いて前線で指揮をした身です。鉄道の戦争における有効性は分かっています」


 先の大戦で主力軍司令官として出征し主要な会戦において常に勝利してきたラザフォードの言葉にハレックは逆らえない。


「鉄道会社には協力要請を行えるようにしましょう。そして、鉄道会社は可能な限り協力するように。これでゆきましょう」


「しかし」


「良いですね」


「……はい」


 ラザフォードに言い寄られハレックは妥協した。

 閣僚の間でも安堵の溜息が出てくる。王国の他の分野でも鉄道の影響力が大きくなっており、鉄道なしには成り立たないレベルになっている。そんな鉄道が軍に独占されることが防がれて良かったと安心した。




「ほっ」


 閣議が終わって昭弥はホッとした。鉄道が他人に渡ったらどんなことになるか分かった物ではない。メチャクチャなダイヤ編成や無意味な施設を作られて赤字を垂れ流すことになったらたまらない。

 そういう意味では安心した。


「油断できんぞ息子よ」


 話しかけてきたのはラザフォードだった。


「先の大戦で鉄道が勝利の立役者になったが故に、その力を手に入れようとする人間が多くなっている。これからも鉄道を狙ってくる人間は多くなる」


「そうですね」


 昭弥のいた世界もそうだった。

 鉄道が有用だと証明されると人々はこぞって鉄道を敷こうとしてきた。その利権を巡って収賄や疑獄がおこり、悲喜こもごもの事件を起こし新聞を賑わせてきた。


「気を付けることだ。無防備では負ける。味方を一人でも多くするよう努力しろ」


「はい」


 実の父ではないが、こうしたアドバイスに昭弥は感謝した。

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