エリザベスの尋問
出口に向かおうとした昭弥達の前に三〇名ほどの集団が現れた。
全員銃を持って武装している。
揃いの黒地に銀縁の制服。ルテティア王国近衛軍の服装だ。
「な、なんだ」
思わぬ集団の登場に昭弥は驚く。近衛軍が出てくるのはよほどの時以外ない。
「反乱の謀略でも立てていたんですか?」
「そんなことする訳無いだろう」
セバスチャンの下手な冗談に昭弥はツッコンだ。確かに、近衛軍は反乱を行った貴族を討伐する任務が付与されているが、昭弥はそんなことはしていない。
だとすれば飛んだ濡れ衣だ。
しかし、彼らは現実の存在であり、昭弥達を捕らえるような行動をしている。そのため昭弥は警戒せざるをえない。
後ろにいるケモムス達も警戒し、昭弥を護るように回りに展開した。
混乱する昭弥達を囲むように展開した一団から一人の女性が現れた。
「エリザベスさん」
「お帰りなさいませ玉川総督」
冷たい視線を浴びせながらユリア女王付侍女のエリザベスが言葉をかけた。
「お迎えに上がりました。ユリア陛下がお待ちです。さあどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
そう言いつつ、周りに居る近衛兵を見る。全員、一瞬たりとも昭弥を見逃さないぞ、という気迫で昭弥を見ている。
「けど、モノモノしい雰囲気ですね。こんなに必要だったんですか?」
「必要でしょう。総督任命の辞令を受けて速攻、列車に飛び乗り現地に行き、女王の代理の名の下、色々行う人ですから。逃さないようにこうして囲まなければ」
事実を言われて、昭弥の反抗心は薄れていった。まあ当然だな、と。
「必ず行きますので」
「いえ、直ぐに連行せよとの命令です」
「……何か拙いことでも行いましたか?」
「していないかこれから調べます。どうぞ、こちらへ」
エリザベスは強引に連れ出そうとした。さすがに昭弥も抵抗を見せる。
「自分で行くので下がって貰っても」
本社に行って決済しなければならない書類が溜まっている。何としても本社に行きたかった。
「拒否は反逆と見なしますが」
だが、エリザベスが冷徹に伝える。
本気の目だった。拒否すればその場で銃殺しかねない。
「連れていって下さい」
運命と諦めて、昭弥はエリザベスに従った。
「ではこちらへ」
エリザベスの先導で昭弥達は貴賓用の通路に出て改札を出る。
改札の先は馬回しがあり、既に馬車が待機していた。
「総督と秘書のセバスチャンはこちらに、他の随員の肩は後ろの馬車にお願いします」
「一寸、私たちも一緒に」
「残念ですが、こちらは勅命で指名された方しか乗せられない規則になっておりまして、他の方は後ろにお願いします」
それでもケモ娘たちは、エリザベスに抗議の声を上げる。が
「みんな、従ってくれ」
「はーい」
昭弥が頼み込むと、彼女たちは渋々、後ろの馬車に乗り込んだ。
全員が乗り込むと、馬車は動き出した。
「で、どういう事? お兄ちゃん」
とエリザベスが昭弥に尋ねた。
「急に兄扱いしないで下さい」
エリザベスの父親のラザフォード伯爵が昭弥を急に養子にしたためエリザベスとは兄弟という関係になっている。
ただ、手続きの関係上兄か弟か微妙な状態が続いている。
「じゃあ弟よ、姉の質問に答えなさい」
にっこり笑っているが、目が全然笑っていない。
「あの、怖いんですけど。何の事ですか?」
「分かっているんでしょう」
冷然と尋ねた。美人だけに余計に怖い。恐る恐る昭弥は答えた。
「……後ろの彼女たち」
「当たり前です」
一刀両断にエリザベスは答える。
「知っていたんでしょう。なら分かるでしょう」
こうして人数分の馬車を用意して待ち構えていた事も含めればエリザベスは事情を知っているはずだ。
「それでも本人の口から聞かなければなりません。噂とか、報告とか聞いても嘘が混じっていることがありますし」
「必要ですか?」
「総督権限を使って各部族から娘を献上させて、総督府で夜な夜なベットの上で奉仕させていると言う噂が本当だと認めるのですか」
「天地神明に誓ってありません」
昭弥は背筋を伸ばして姿勢を正して、正確に報告した。
とんでもない尾ひれが付いて回っているようだ。きちんと誤解を解かないと命が危ない。
だから嘘偽り無く、虚勢を廃して正直に昭弥は話す。
「彼女たちは友好の証として送られてきており、秘書として使っているだけです。社長だけで無く、大臣、総督、公爵を兼任しているため仕事の量が増えていますし、増員であると判断しました」
噂は変に改変されるという事を身にしみて実感した。
女王付侍女とはいえ、タダのメイドに大臣である昭弥がかしこまる必要は無いのだが、異様な迫力がエリザベスから放たれており、条件反射的に答えてしまった。
「それを信じろと」
「以上が事実です」
「朝、ベットの上で獣人の娘を重ねるように寝ていたという報告もありますが」
「勝手に入り込んできたんです」
昭弥は深夜まで仕事を行っており、ベットに入るときは一人なのだが、朝目覚めると彼女たちがいつの間にか、べったりとくっつくように横で寝ている。それも飼い猫や飼い犬が主のベットに上がってくっつくような感じだ。
疲れて寝ているのにそれを振り払う余裕などない。
「甘すぎるんです。少しは躾けて下さい」
「そんな犬猫みたいに」
「人間の子供だって躾は行います。車内マナーを教えないと車内で乗客が迷惑します」
「それもそうだな」
鉄道に例えられて昭弥は納得した。
それをみてエリザベスは、小さくガッツポーズをした。ようやく昭弥の操縦方法が分かりかけてきた所だ。
「では、そのことを踏まえてユリア陛下にお伝えするようお願いします」
「え?」
「昭弥にはこの後、閣議に参加して貰います。そこでアクスムの現状報告と今後の計画。鉄道に関してもお願いします」
にっこり笑ってエリザベスは昭弥に言った。
だが、その目は笑っていなかった。
「一寸休ませて」
「いいえダメです。昭弥は身の回りに無警戒すぎます。こうして監視しませんと」
「うへい」
馬車は止まること無く一直線に王城に入っていった。




