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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部 第一章 アクスム総督
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王都帰還の車内

「公爵、チェニスから保養地開発への予算凍結を求める要求が来ています」


 先日秘書に任命したティナ・ティーグルが昭弥に届いた要望書を読み上げた。


「町の復興に予算を流用したいとの理由です」


「却下、保養所開発は必要です。予算流用は認められません」


「町の復興が遅れるよ」


「公債を発行して予算を作るから安心するように書いてください」


「はーい」


 昭弥の左腕を掴みながら答える。

 秘書にしてから妙にティナはべったりしてくる。口数は少ないが身体を密着させ匂いを嗅いでくる。


「社長、鉄道建設の技師の数が足りないと九龍支社から来ています」


 今度は兎人族のハンナ・ハーゼナイが伝えた。青白い長い髪をツインテールにしてその前に長く白い耳がぴょんと出ている。


「技師の育成は行っている。送った分で対処するように伝えるんだ」


「はい」


 彼女は普段清楚でお淑やかだが、今は身体を昭弥の右腕にぴったり付けている。


「大臣、新規鉄道建設の嘆願書が届いています」


 猫人族のカティ・カッツァーが鉄道大臣宛にとどいた議員の手紙を読み上げる。


「却下。計画が既に策定されて変更予定はないからね。丁寧に無理だと返事を」


「はーい」


 そう言って右足下で丸まりながらペンを走らせる。


「総督、ゴムを運ぶ鉄道を敷いて欲しいとの部族長の嘆願書が来てますう」


 今度は羊人族のシャーラ・シャーファがアクスム総督府からの文章を伝えた。


「直ぐに技師を派遣して建設すると伝えてくれ」


「はーい」


 彼女はそのままの姿勢で答えた。

 ホワホワとした雰囲気で答えるのが特徴の彼女だが、意外と力が強く左足をがっちり掴んで離さない。


「お茶が入りましたよ」


 そう言ってきたのは狐人族のフィーネ・フックス。大人びた雰囲気の長い金髪とぴょんと伸びた長い耳が印象的な人だ。


「ゴメン、手が伸ばせない」


 両手両脚共に獣人の女性に掴まれて身動き一つ採れない。


「なら飲ませて上げます」


「へ?」


 そう言ってフィーネカップのお茶を飲むとそのまま、自分の口と昭弥の口を合わせて口移しにお茶を飲ませた。


「ずるーい!」


「フィーネ、抜け駆け」


「両手が塞がっていたので」


「あたしも」


「ちょ、一寸待って」


「皆さん、やめなさい」


 フィーネの行動に暴動寸前になった獣人を止めたのは龍人族のドロテア・ドラッヘだった。


「昭弥さんが困っています。困らせるような事をしてはいけません」


「抱いているドロテアに言われたくなーい」


 ドロテアは、自分の膝に昭弥を乗っけて腹の辺りでがっしりとホールドして動かないようにしていた。


「これは、社長が揺れで疲れないようにするために抱き上げているんです。貴方たちのようにべったりしている訳ではありません」


 ドロテアは非常に大柄で高身長だ。

 そのため昭弥を膝に乗せても平気で、余裕で頭に顎を乗せることが出来るほど。


「ウチの列車はそれほど揺れないよ」


 昭弥は抗議の意味も込めて伝えた。

 列車の台車にはスプリングとショックアブソーバーを装備しており、しかも二軸ボギー車を使っていて揺れにくい。直接車体に結合させている帝国鉄道の二軸車と比べものにならないくらい揺れが少なく快適だ。


「それでも揺れます。きちんと衝撃を吸収して上げます」


 そう言って自分の身体に引き寄せた。

 丁度、後頭部が大きな双丘に位置するため非常にクッション性と、心地よさとほんのり温かい感じが非常によい。

 グランクラスの座席でも再現できないような感触だ。


「あー、ずるい」


「私たちも」


 だが、それが彼女たちの競争心に火を付けてしまったようで、我も我もとくっついてくる。

 書類整理をしていた残り四人も刺激されて昭弥に迫ってくる。

 あっという間に昭弥は十人の獣娘に埋もれてしまった。


「ちょ、やめ。あ、そこ触らないで。尻尾で触れないで」


「失礼します」


 その時、セバスチャンが部屋の扉を開けて入って来た。


「……失礼しました」


 と同時に扉を出ようとする。


「ま、待って! この状況で一人にしないで! 助けて!」


 そんな出ていこうとしたセバスチャンに昭弥は助けを求めた。

 それから一悶着合った後、昭弥は彼女たちの居る部屋から逃れる事が出来た。


「た、助かった」


「まんざらでもないのでは?」


「こちらの意志はガン無視だよ。そんなのが良いのかい?」


「ちょっと遠慮しますね」


「だろう。まったく、部族から送り込まれてきたのに何であんな事を」


「送り込まれてきたからですよ。ああでもしてあなたの関心を買わないと部族の立場や地位が落ちると思っているのでしょう」


「そんな事しないのに」


 と昭弥は言っているがアクスム総督の地位が彼女たちをあのような行動に押しやっている。


「留守番させたらよかったのに」


「連れて行けと五月蠅かった。人数を絞ろうとしたら、殺し合いでも始めるかのような殺気が彼女たちの間で出ていてしょうが無いから全員連れていくことになった」


 出発前の一悶着を思い出して昭弥は冷や汗が出た。


「で、何か用でも?」


「ええ、外交交渉が成立して九龍王国が周にも承諾されました。これ以上の反乱を抑えるためでしょうが。あと、講和も成立しました。国境を接していないのに戦争状態はおかしいと言うことでね。新国家成立の祝いという理由で成立しましたよ。これで平和が戻るでしょう」


 元周の将軍を捕らえて国王に据えた事実上ルテティア王国の傀儡国家だが、せめて周との緩衝国となってくれることを祈っていた。

 だが、これにより王国とも講和が成立。平和が戻った。


「これで九龍王国への投資も進むでしょう」


「そうだね。鉄道敷設権を誰かがもぎ取ってくれたお陰で九龍王国にも鉄道を敷く必要が出てきたしね」


 何処か嬉しそうに昭弥は言った。


「さて、今後について検討しよう」


 そう言って隣の部屋に入ろうとした。


「社長の部屋はそこでしょう」


「あそこに居たいと思う?」


「私の部屋も荷物やらなんやらで一杯ですので余裕はありません」


「そこを何とか」


「無理です。すいません。社長の用事が終わったので仕事に戻して下さい」


「はーい」


 中から獣人の秘書達がやって来て昭弥を部屋に連れ込んだ。


「裏切り者!」


 昭弥の呪詛を聞き流し、セバスチャンは自分の部屋に戻り、ソファーからベットを引き出してゆっくり休むことにした。

 王都に行ったら本来の仕事で忙しくなるからだ。

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