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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部 第一章 アクスム総督
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虎人族の娘

 ティナ・ティーグルは、虎人族の族長の娘である。

 虎人族特有の人間に近い体格に尾てい骨付近から出てくる長い尻尾と頭部から出てくる尖った耳、それらを覆う黄色地に黒の縞柄の毛。典型的な獣人の特徴だ。

 鮮やかな金髪のショートカットが美しくティナも内心自慢している。

 族長の娘として、それなりの教育を受けた。そして、各部族の掟に従い、中央政府軍への志願者として政府軍に入った。

 他の部族とは時に同盟し時に敵対し交戦状態になることもあるが、ルテティア相手にだけは一致団結する。そのため、いちいち周りに気を配らなければならない部族にいるより中央政府軍に入った方がマシだとティナは考えた。

 新兵教育は持ち前の身体異能力により問題無く、それまでの我流の格闘術が洗練されより高まった。

 すぐさま指揮官として任命され、一部隊を率いて小規模な戦いにも参加し徐々に頭角を現す。そんなとき起きたのがあの大戦だ。

 これまでに無い大部隊で攻め込み沿岸をがむしゃらに進んだが、王国に後方を脅かされ撤退。

 結局、チェニスで降伏することになった。

 脱走も試みるが、連中の警戒が厳しいのと、新たに作られた鉄の茨が厄介で失敗していた。

 そんなとき、ティナと他数名だけ連れ出され、鉄道に乗せられた。

 半日ほど揺られた後、アムハラとチェニスの中間地点と思われる場所に建設された軍の砦で降ろさる。

 そのまま砦の中に入れられ、それまで一緒に居た仲間と分けられ彼女だけは高級将校用の建物とおぼしき場所に入った。

 新鮮な木の香り、まっさらな壁、机と棚と椅子以外無い室内。ここ最近作られたことを物語っている。

 他の建物は少なく、テントで兵士達が寝泊まりしていることから、この建物が高級将校用途思われる事は明らかだ。

 そこに一般庶民の服を着た少年とも思える年若い男が立っていた。


「はじめましてティナ・ティーグルさん。私は玉川昭弥。鉄道会社の社長でアクスムの総督をしています」


 丁寧に自己紹介して、いたが同時に怪しく思った。こんな年若い人間があの会社を一代で建ててアクスムの総督をしているというのか。


「まあ、不審に思っているのでしょう。どうして自分を連れ出してきたのか分からないと」


「ええ、けど見当はつくわ」


 ティナは、精一杯胸を張って答えた。


「虎人族と同盟を結ぶためでしょう」


 ティナと一緒に連れ出されたのは、族長の家族かそれに連なる親族の男女だった。

 人質として交渉材料にする気では無いかとティナ達は推測していた。

 それは正解だった。

 チェニスでサラが昭弥に渡した高価な奴隷リストは、捕虜に含まれる族長の親族のリストであり交渉に使えると、用意してくれたものだった。


「少し違います。総督府の下に付いて下さい」


「虎人族は屈服しない」


 上から目線に反発してティナは叫んだ。


「貴方方の自立は可能な限り尊重させて貰います。ただ、総督府への反抗、襲撃などを行わず総督府の秩序に従って下さい」


「そう言って奴隷にするつもりだろう」


「違います。貴方方を奴隷扱いしたくない」


「本当に?」


「ええ、一旦人材派遣会社に入って貰って鉄道会社、総督府、軍などいずれかに五年ほど行って貰い、その後は自由にします」


「そんな都合の良いこと信じられない」


「ここに公文書を用意しています。女王の代理、アクスム総督として実行します」


 そう言ってティナに公文書を見せた。

 対王国教育として帝国公用語の教育も受けているティナは読める。


「本気なの?」


「はい」


「ならどうして今すぐ解放しない」


「問題は脱走です」


「どういうこと?」


 昭弥は説明を始めた。


「勤務地は主にアクスムとその周辺です。そのため、彼らの居住地に近く。場合によっては居住地に勤務して貰う事もあり得ます。その時、脱走されると困ります。一応、脱走は一回につき一年間勤務が延長されるようにしていますが、部族ぐるみで匿われると発見は困難ですし、反乱の火種になりかねない」


「そうなるでしょうね」


 ティナには昭弥の言っていることが理解出来た。

 このまま彼らが、解放された一斉に脱走するかそのまま反乱を起こす可能性が高い。


「そこで各部族と話し合い、この条件について承諾して貰いたいのです」


「手始めに虎人族と交渉。その材料が私」


「はい」


 ティナは昭弥の意図を正確に理解した。


「それで私はどうなるの?」


「言い方は悪いんですが、手土産みたいなもので部族の村まで送りそのまま解放します」


「このまま逃れたら?」


「まあ、追いかけますが、追いつかないでしょう。それにチェニスに残った虎人族の人達の扱いも考えないと」


「……交渉術が上手いのね」


 言外にチェニスに残った虎人族将兵の事を臭わすことで、従順にさせようとしている。


「分かったわ。従ってあげる」


 ティナにとても悪いことでは無かった。

 彼らの手で村まで安全に運ばれ解放されるというなら願ったり叶ったりだ。

 チェニスに残した仲間が心配だが、この交渉で解放されることもありえる。決裂しても収容されている場所の情報を虎人族に渡す事が出来る。

 それから救出作戦を考えることも可能だ。


「では、早速行きましょう」


「え?」


 突拍子もない言葉にティナは驚いた。


「今から?」


「はい、時間もありませんし。接触は既に済んでいます」


「用意が良い事ね」


 半ば呆れつつ、ティナは準備した。




 ティナの準備が整うと同時に、昭弥達は出発した。

 随員は執事兼秘書のセバスチャン、軍を代表してブラウナー准将。それに護衛に一個小隊三〇名と荷物持ちだけ。五〇人以下の小さな集団だ。

 向かうのは、彼らの居たところから更に内陸部にある虎人族の本拠地だ。

 結構奥地にあるためティナの案内が欠かせない。安全な道や途中の見張や巡回の虎人族を説得して貰うといった事が必要だからだ。

 軍による攻撃も検討されたが、内陸部にあり補給や行軍に問題ありとして、実行できずにいた。


「歩きにくいな」


 一応道はあるが、アップダウンが激しいし、巨大な根っこが張り出してきて歩きにくい。

 目の前に大きな根っこが現れ、昭弥は跨ごうとした。


「跨がないで」


 ティナが注意した。


「どうして?」


「跨ぐと根本で寝ていた蛇に気づかず踏んで噛まれる可能性がある。跨がないで必ず根の上に立って」


「ひっ」


 恐ろしい所にいる、と昭弥は感じた。


「ねえ」


 道案内をしながらティナは昭弥に尋ねた。


「なんです?」


「どうして優しくしているの?」


「そりゃ総督として治める土地の人達を護るのは統治者として当然じゃ?」


「……頭がおかしいとか言われない?」


「どうして?」


「王国じゃあ普通そんなこと考える人間なんて居ないわよ」


「王国生まれじゃないからね。訳あってここに来てお世話になったんだ」


「だから、総督やっていると」


「総督もやっていると言った方が正確かな。僕的には鉄道会社の社長の方が本業に思っている」


「鉄道会社の社長としてどうしてこんなことしているの?」


「鉄道は利用者が多い方が儲かるからね。奴隷だと主人と一緒じゃ無いと乗れないだろうし。許可を貰って乗ることもあるだろうけど、利用する人は一般庶民の方が多いから。奴隷が解放奴隷となって市民になれば、利用者が増えるからね」


「……本当に変わり者ね」


「まともな事を言っているつもりだけど」


「そうでしょうけど。受け入れられるかしら」


「とりあえず王国のほうは総督権限で抑えるよ」


「それもあるけど、虎人族いえ、アクスムの獣人達が受け入れるかしら」


「? どういうことだい?」


「見えてきたわ。着いたわよ」


 見ると、山間の川の畔に幾つ物建物が建ち並ぶ村が見えた。


「あれがティーグルの村だ」


「思ったより小さいな」


「どういう意味?」


「いや、虎人族を束ねるにしては小さいなと」


「虎人族の多くは親族単位で村を作っている。年に一度くらい集まって、方針と族長を決める。族長が早急に必要な決断を行う。族長が決めたら虎人族は一糸乱れず従う。だから、あれぐらいで十分」


「なるほどね」


 族長を虎人族全体で決めると言うことか。もし、族長を潰したとしても虎人族は別の族長を立てるに違いない。なので何時までたっても終わらない。

 虎人族全員を殺すか降伏させない限り。

 だから何としても今回の交渉を成功させなければならない。


「さて、行こうか」


 昭弥は村に向かって歩き始めた。 

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