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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部 第一章 アクスム総督
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連絡線確保

 チェニスでの仕事を終えた昭弥は、チェニスでサラが持ってきた土産、鉄道会社の社長決裁の必要な書類を二日かけて処理した後、アムハラへの軽便鉄道建設現場を視察しながら戻っていった。

 工事は順調に進んでいた。

 何しろ枕木と一緒になったレールを運んでおいて繋げるだけ。高低差が大きければ仮の木橋を作れば良い。小さいからそんなに大きな橋はいらない。

 なので簡単に工事が進む。


「この分だと、一週間で開通できそうですね。アムハラまで一〇〇リーグあるのに、こんなに簡単にできるなんて」


「馬車でも簡単に輸送できる様にしましたから。同時多発的に建設が可能です」


「標準軌が敷設される予定のコースでも順調に進んでいます」


 ブラウナーが昭弥に言う。

 最初の路線は、既に作られていた軍用道路の一つを使用して建設している。

 標準軌は本格的な土木工事が必要なので、土台を作りつつ敷設しているため、時間がかかっている。だが、軽便鉄道で物資を運べるので建設はかなり早い速度で進んでいる。


「工兵隊の標準装備にしたいぐらいですね」


「農家や鉱山、工場で物品の輸送用として販売する予定ですから。軍にも購入して貰えれば嬉しいですよ」


 総督府でも大規模土木工事で使う予定であり、販売規模は、順次拡大していく。


「しかし、不安もあります」


「線路そのものですか」


「はい」


 鉄道はレールが繋がっていてこそ意味がある。九九.九パーセント繋がっていてもほんの一メートル途切れるだけで通行不能になる。


「獣人の妨害工作と破壊工作が心配です。街道ならそれほど心配ないのですが」


「線路が一箇所爆破されたり、列車が襲撃されたら大変ですからね」


「はい、かといって線路全てに兵を付けることは不可能です。兵力分散となり各個撃破されます」


「分かっています。鉄道の防衛に全力を尽くして下さい。こちらも協力します。つきましてはこちらで用意したものがあります」




 数日後、無事に開通を迎え、一番列車が出発することになった。

 多くの将兵は列車の通過に歓声を上げたが、息を潜めて待っている連中がいた。

 反乱を起こした獣人の一団だ。

 彼らは、列車がやって来るのを待っていた。

 一番列車を襲撃し撃破すれば、アムハラを干上がらせることが出来ると考えていた。

 密林の中で行きを潜めて待つ。

 地形的に見張りにくい場所で、監視部隊とも離れている。

 襲撃するならここしかない。

 爆薬を使って吹き飛ばしても良いのだが、火薬が勿体ない。

 線路の上に設置して煙で怯ませ停止させ、襲撃。奪ったら放火して使用不能にする。

 これが、彼らの立てた作戦だ。


「来ました。連中の列車です」


 見張をしていた部下が叫んだ。

 煙を吐いているから直ぐに分かる。


「銃撃用意」


 爆薬も準備完了。爆破して止まるのを待つだけだ。


「敵接近!」


「おう」


 カーブから現れた敵の列車を見て仰天した。


「なんだあれは」


 レールを大量に山積みした貨車を何両もつらね機関車が後ろから押している。

 そしてその後方の列車は、分厚い鉄板を重ねている。噂に聞く装甲列車か。


「見せかけだけだ。攻撃開始!」


 爆薬を投げ放ち、線路の上で爆発し派手な煙を上げた。

 思った通り列車は停止し、周囲を警戒している。


「撃て!」


 列車に銃撃を始める。

 装甲列車は止まり反撃を行う。


「落ち着いて狙え、連中の銃は少ないしあんな小さい車両に乗せられる兵士の数など僅かだ。確実に殺せば……」


 そこまで言って絶句した。

 列車の銃口から放たれる銃撃が止まない。普通の銃より射撃速度が速い。


「一体どんな銃を使っているんだ……」


 だが直ぐに思い直す。


「一旦後退しろ。連中を引き込んで反撃する」


 部下達は直ぐに銃撃をやめて密林の奥に引いた。

 列車の方はこちらを探すべく、分散して向かってくる。


「狙い通り」


 この密林ではフリントロックを生かせる密集隊形が出来ない。立ちながら装填するという弱点をカバーするため、密集し弾幕を張るというやり方は無理だ。

 一方こちらは、地の利を生かして物陰に隠れて銃撃できる。


「確実に仕留めるんだ」


 敵は、各所に別れ、伏せて銃撃してくる。これなら、敵を封じることが出来る。

 だが、王国軍は銃撃を続けてきた。


「何故だ。何故銃撃できる。それも、装填なしで」


 獣人達の間に動揺が広がった。

 敵は伏せたまま射撃してくる上、射撃速度が速い。しかも射程が長く、遠くの敵もこちらを射程に収めている。倒そうとしても、狙えない。

 動揺して味方の動きが鈍っている。


「突撃だ!」


 敵の射撃速度は速いが、こちらの倍程度。まだ、対処できる範囲だ。

 それに遮蔽物も多く、弾よけになる。接近戦になれば身体能力が高いこちらが有利だ。

 それに前に向かう方が闘争心が出る。

 指揮官の合図で、獣人達は前に進んでいった。

 上手く遮蔽物を利用して接近する。

 思った通りこちらを捉えられない。遠くの敵も味方撃ちを警戒して、射撃が鈍っている。

 いける。

 勝利を確信して獣人の一人が襲いかかったとき、敵が腰から短銃を抜くのが見えた。

 一発撃つが、動きが見えたので避けた。撃たれる前に射線から離れれば当たる事はない。 敵はそれでもこちらに狙いを付けるが遅い。ナイフを首に滑り込ませようとしたとき、短銃から発砲炎が広がった。


「ば、馬鹿な……」


 短銃も一発しか撃てないはず、装填の動作も見えなかった。どうして、撃たれたのだ。

 見ると周辺の味方も短銃で撃ち殺されている。

 何が起こったのか、彼らには分からなかった。


「撤退しろ」


 勝算が無いと判断し、見切りを付けて獣人達は撤退した。




「敵の撤退を確認しました」


「周辺捜索、列車の安全を確保。深追いはするな」


 ブラウナーは部下に命令すると昭弥に向き直った。


「予想以上の効果ですね」


 防御用に装甲列車を走らせて正解だった。さらに新兵器も良かった。


「ですが後装式のライフル銃とは凄いですね」


「ええ、間に合って良かった」


 薬莢を使って後ろから装填するライフル銃だ。

 列車や駅が襲撃される事件が増えたために、対抗できるように昭弥が開発を命じた。

 これまでは、銃口から装填して撃つため、射撃速度が低く、装填も立たないと出来なかった。

 しかし、後装式は伏せたまま装填でき、訓練で一分間に七発まで撃つことが出来る。


「まだ改良の余地はあります。一発撃つ毎に装填しなければならないので」


 欠点としては、撃つ度に手で弾を装填する必要がある。レバーを引いて薬莢を出させたあと弾を手で入れてレバーを戻して閉鎖して撃てる。

 本当なら弾を数発纏めるクリップを銃に入れてレバー操作だけで装填できるようにしたかった。出来れば自動小銃にしたかったが、技術限界から単発式の小銃になった。

 それでも機関車製造で得た精密加工技術が無ければ完成しなかった。


「出来れば全員に配備したいですね」


「そうしたいんですが、今までより格段に構造が複雑ですので製造に手間とコストがかかります」


「高くなるのはキツいな、王国軍の人数が増えているのに。弾も大量に必要になりそうなのに高くなりそうだ」


「ええ、真鍮の筒と雷管が必要ですから」


 最も苦労したのが雷管だ。

 雇った錬金術師に強い衝撃で爆発する薬品の開発を頼み、それを金属の筒の中に入れる作業だ。下手をすれば爆発するので苦労したが何とか完成させた。


「でも、使えますね。拳銃も」


「リボルバーですか」


 ブラウナーは渡された銃、リボルバーを昭弥に見せながら話した。


「銃身の後ろに弾倉を付けてそれが回転して、次の弾を撃てるようにしてあるんです。短銃なら使いやすいですよ」


 狭い車両内や駅構内で必要と考えて作った。射程が短いので接近戦にしか使えないが、確実に殺傷できるので有力な武器になるだろう。


「ライフルにも使えないかな」


「出来ますけど、威力が落ちますよ。それにリボルバーの耐久性が悪いので短銃程度にしか使えません」


「それは残念」


 獣人相手の接近戦にも有効なので使える。


「これで多少は連絡線の確保が出来るようになるでしょう」


「ええ、任せて下さい」




 それから数日間襲撃が行われたが、いずれも失敗した。

 線路を外すなどの事が行われたが、一緒に乗り込んだ工兵隊と積み込んだ資材により短時間で復旧された上、襲撃箇所には監視塔が建設されたので襲撃は不可能になってしまった。

 こうして準備を整えた昭弥は次の準備を始めた。


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