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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部 第一章 アクスム総督
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アムハラ到着

4/20誤字修正

 チェニスを出発してから三日目。

 馬車に揺られて、昭弥達はアクスムの旧首都アムハラに到着した。

 軍による臨時の道路が作られていたが、舗装されていないため揺れが酷く、あまりスピードを出せず、時間がかかってしまった。

 これでもかなりマシになった方で、かつては道か泥濘か分からない状態が続いていた。

 鉄道の建設が工兵隊により始まっているが、進んでいない。

 専門の技術者が少なく手探り状態だからだ。

 一応、王国鉄道が肩代わりすることになっているが、具体化するのはこれからだ。


「何としても鉄道を通さないとな」


 決意も新たに馬車を降りた昭弥は


「何じゃこりゃ」


 絶句した。

 とても首都とは言えない。

 精々寂れた市場のなれの果て。かつての世界で言うなら祭りの後、閉店した屋台が破壊されていると言ったところだろうか。

 そんな物が、川と山に挟まれた狭い平野に広がっている。


「兎に角、駐留軍の司令部があるはずです。まずは、そこに行きましょう」


 セバスチャンに言われて昭弥はその通りにする事にした。

 護衛の騎兵隊の案内もあり、昭弥は駐留軍の司令部に赴いた。

 司令部の建物は焼け残った建物。掘っ立て小屋のようなもので、周りに点在する野営地の大天幕のほうが立派に見えてしまう。

 その中で昭弥は駐留軍司令官に面会を申請した


「総督閣下に敬礼!」


 昭弥を迎えたのは、ブラウナー准将だった。


「司令官、現状を説明して貰えませんか」


「申し訳ございません総督。私は司令官では無く参謀長です」


「? どういう事ですか?」


「司令官であるユーエル大将が離任され、新司令官が着任するまで参謀長の私が司令官代理を務めています」


「離任って……急すぎないか?」


「王都で凱旋式に赴いたらそのまま軍務省主計局長に転属が決まったそうです」


 吐き捨てるようにブラウナーが言った。

 後から分かったことも含めると、起こったことはこうだ。

 南方軍司令官と同時にアクスム駐留軍司令官となったユーエル大将だったが、近衛軍団にアデーレが就任したため、王都に残りたいと言ってきた。

 当然普通なら断られるが、ユーエルは諦めず策を練り実行した。

 現在王国軍は急激に膨張し必要な物資の量は増えている。

 調達に必要な官僚組織はあるが、急膨張のため必要な人数が足りずパンク寸前だった。そこにユーエルが補給や調達の計画案を軍務大臣のハレック上級大将に献策した。

 経費削減に取り組んでいたハレックにとってその献策は素晴らしいものだ。

 商家出身であり、変わったとはいえ王国経済界に明るいユーエルの提言は、即実行されて非常に多大な経費が削減された。

 これに喜んだハレックは補給、調達、予算管理などを担当する主計科、そのトップである主計局長にそのまま任命した。

 それで、代わりの司令官がやって来るまで参謀長だったブラウナー准将が代理司令官を務めている。


「……あのガチレズ百合アマ。お姉様目当てに仕事ほっぽりやがった……」


「ブラウナー准将」


「あ、すいません総督。今のはなしで」


「ああ、ところで准将。堅苦しいのが苦手なようだね」


「まあ、貧乏な家の出身で士官学校でていなくて、一兵卒から来たんで」


「なら、砕けた言葉で良いよ。その方が僕も楽だ」


「じゃあ、お言葉に甘えて。しかし、とんでもない時に来ましたね」


「とんでもないとは?」


「獣人の一斉蜂起っす」


 ブラウナーが言うには、獣人達が武装蜂起して襲いかかって来たそうだ。

 正確には、旧アクスムに対する反乱のとばっちりを受けたという所か。

 昭弥達も移動途中で襲撃され、騎兵中隊の護衛が無ければ死んでいた。


「知っての通り、アクスムは無数の獣人部族の集まりで王国のような中央集権じゃ無くて各部族が緩やかに同盟する部族連合国と言った方が正確ですね。一応、政府はありましたけど調整機関みたいなもので反ルテティア王国で無ければ、力もありませんでした。それが主力軍を失い、王国に降伏したんです」


 その結果、政府は力を失い、部族を押さえつける力を失った。

 主力軍の殆どは部族から送られてきた兵士や戦士だから、部族達の怒りは凄まじいだろう。

 その怒りがこの首都アムハラの政府に向けられたというわけだ。


「なるほどね」


 フセイン政権崩壊後のイラク、と言えばわかってくれるだろうか。

 強い中央政府が無くなって、各地にいる部族の力が強くなったということだ。


「で、状況は」


「まあ最悪よりマシって所っすね。とりあえず、駐留軍は合計すれば一個軍団規模の兵力はありますし、食料も備蓄があるのでしばらくは持ちます。ただ後方、チェニスとの連絡線を分断されていて王都との連絡が取れません」


「アクスムに攻め込んだときは十数万の兵力が居たはずだが」


「降伏後に周と戦うために東方に大半が移動して、一個軍団以外残しませんでした」


「ああ、確かに部隊を移動させたんだった。魔術師の連絡網は?」


「鉄道管理に使っている奴ですか? あいにくと軍では採用されていません」


 魔術師に対する不信感もあり、軍の中では採用が遅れていた。


「この前の大戦だって鉄道会社が協力してくれて会社の中のシステムを使ってようやく一部構築できたもので、こんな新しい軍には配備されていません。駅もありませんしね」


「そういえばそうか」


 大戦で司令部列車があったが、主に王都や各戦域の軍と連絡を取るのが精一杯だった。それも駅にいる会社の魔術師を通じてだ。とても軍が独自に配置する事は出来ない。


「馬車に何人か居るから、使うと良いよ」


「有り難いっす」


「ところで合計と言ったね。首都に兵力はいないのか?」


「連絡線の確保と復旧に分散しています。それに各部族の動向調査のため偵察させに分散行動をさせており、予備の三個連隊ほどを残しているだけッス」


「それだけで大丈夫なのかい?」


「ええ、幸い陣地構築が出来てますんで偵察の部隊が戻るまではもちます」


 最悪、彼らを収容した後、チェニスに撤退することも、不可能な場合、麾下の三個連隊のみで撤退することもブラウナーは検討していたが口には出さなかった。


「じゃあ、彼らに挨拶をしておきたいんだけど」


「分かりました。直ぐに呼びます」


 ブラウナーが呼び出したのは三人の若い連隊長だった。


「歩兵第六〇三連隊連隊長のメッサリナ・アグリッパ大佐です」


「歩兵第四〇二連隊連隊長のローリー・ミード大佐だ! よろしく!」


「ちょっと、相手は総督よ。もっと穏やかな言葉遣いをしなさい。騎兵第一〇四連隊連隊長のノエル・スコット大佐です。宜しくお願いします」


「宜しく。……皆結構若いですね」


 自分の事を棚に上げて昭弥が言った。


「全員、士官学校を卒業して、先の大戦で活躍した優秀な指揮官です」


 頼りなげにブラウナーが答えた。


「総督になった玉川昭弥です。宜しくお願いします」


「こちらこそ」


「よろしくな!」


「お願いします」


 それぞれ答えた。


「現状はどうですか」


「守備を整えており、防衛はお任せ下さい」


「このまま一気に攻撃して潰しちまおうぜ」


「やめなさい。敵が何処にいるかわからないのに。騎兵で偵察を行っています。間もなく敵の位置が分かるでしょう」


 それぞれが答える。


「どう対処するべきだと思いますか」


「歩兵の密集隊形で進み、殲滅するべきです」


「突撃して撃破! これだ!」


「騎兵による機動力で撃破するべきです」


 言った途端に、三人が互いにいがみ合った。


「歩兵の密集隊形による守備は完璧です。蛮人など蜂の巣にしてくれます」


「そんなめんどいこと出来るか! 突撃して一気に蹴散らそう」


「獣人は機動力があるわ。騎兵による突撃で片付けるべきです」


「待て待て」


 三者三様に答えカオスになりかけたが、ブラウナーが止めた。


「兎に角、もうすぐ情報が入るから精査して対処方法を計画する。それまで待機しているんだ」


「分かりました」


「おう! 待ってるぜ!」


「はい」


 三人は部屋から出て行った。


「すごい指揮官達だな」


「いや、まだ可愛い方ですよ」


 もっと酷い上官を持ったことのあるブラウナーは感慨深く言った。


「彼らはアクスムに来たは初めてのようだけど」


「正解っす。恥ずかしながら大戦の初期に経験のある部隊があらかた壊滅したんで、実戦経験のある連中があらかた戦死。アクスムに来たのは初めての奴らが多いっす。まあ、それでも生き残りとか以前来ていた連中を中心に部隊編成して送り出しています。連中はこの首都で情報収集や守備を行いつつ慣れて貰っています」


 不安のある連中を隔離して監視している、と昭弥は頭の中でブラウナーの言葉を翻訳した。


「さて、偵察の部隊が戻りつつあるみたいです。情報を纏めたあと、お知らせします」


「ああ、ありがとう」


「では、失礼します」


 そう言ってブラウナー准将は出ていった。


「大変な所に来たな」


「何を今更」


 昭弥の呟きにセバスチャンが突っ込んだ。


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