凱旋式後
とりあえず、ここで区切りと言うことで第一部を終わらせて貰います。続けて第二部を始めますのでお楽しみに。
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「やれやれ、見せつけてくれたな」
最前列で、女王の祝福を見ていたガブリエルは、ご馳走様と言う気分で、会場を後にした。
式典が終わり、ホッとして本音が出たのだ。
だが、本心としては羨ましいと思う。莫大な富を築き、王国最高の地位に上り詰めとは夢のような話しだ。
「あやかりたいものだ」
「おい、ガブリエル」
愚痴るガブリエルに話しかけてきたのはアデーレだった。
「あ、大将閣下」
「いい、いい。いまはいい」
咄嗟に敬礼したガブリエルをアデーレは制した。
「この後、予備役編入するんだろう」
「はい」
ガブリエルは躊躇いなく答えた。
王国軍少将にして近衛軍団の幕僚という素晴らしい地位にいる。
義勇軍に大尉として参加し度重なる戦いに出て昇進していった。
女王陛下から直々に勲章を授与されたこともある。
王国軍にいても将来は明るいだろう。
「やっぱり農民なんで、農協の仕事もありますし」
だがガブリエルの選んだのは農民に戻る道だった。
「ここで幕僚をして欲しかったんだがな」
「優秀な人は多いでしょう」
「クリスタとテオを見て言えるか」
「あー」
中将に昇進している二人の姿を思い出してガブリエルは黙り込んだ。
二人とも戦績は素晴らしく戦場では優秀だが、たがてんでダメだ。
今日も式典直前まで酒をかっくらって大の字になって寝ていたところを部下に手伝って貰って礼服を着てギリギリ間に合った。
落馬しなかったのが奇跡だった。
「まあ、頑張って下さい」
「手伝ってくれ」
本心からアデーレは懇願したが、無理だというのはアデーレ自信も分かっていた。
「……わかったよ。店を閉めることになるから済まないが店じまいを任せる」
「荷物はどうしますか?」
「適当に処分してくれ。軍隊時代の習慣が抜けなくてそんなに物を持っていないんだ。必要な物は現地で調達するしな」
照れるようにアデーレは答えた。
さばさばした性格のアデーレらしいやり方だ。
「少しは手伝うよ」
そこに声を掛けてきたのはトラクス大将だった。
「おう、トラクス。出世したな」
「お互い様だ」
西方での戦いを評価され、スコット大将が上級大将へ昇進。トラクス大将も昇進していた。
「スコット上級大将が中央に移動することになって、私も移動する事になりました。中央で仕事をする事になったので、少しは助けられるでしょう」
「そうか、有り難い」
アデーレはにこやかに笑った。
二人が同期でありトラクスがアデーレに気があることを知っているガブリエルは、一歩下がった。
行動の支援を受けてトラクスはアデーレに正対する。
「アデーレ」
「なんだ?」
穏やかにアデーレは答える。
「実は」
「お姉様!」
トラクスの告白は、乱入してきた闖入者により阻まれた。
「ユーエル」
「はい、お姉様。ユーエルです。お久しぶりです」
ユーエルは新設された南方軍の総司令官として就任したが、今回の式典に参加するため王都に来ていた。
「南方戦線から離れられてしまって寂しかったです。でもこれまで倒せなかったアクスムを降伏させた上、他の戦線でも戦果を上げて昇進されるとは、さすが姉様。いえ、お姉様なら当然のことです。予備役編入した王国軍は何処に目を付けているのでしょう」
「予備役に入ったのはあたしの意志だ」
「でも復帰なさるのでしょう」
「大将になってしまったんだし、近衛軍団の軍団長にすると言われてはな。やめる訳にもいかん」
これまでの戦功によりアデーレは大将に昇進し、臨時に指揮していた近衛軍団の軍団長となった。
さすがにこれだけの栄誉を与えられてはやめる訳にはいかないだろう。
「アデーレが困っているから離れたらどうだユーエル」
「あら、トラクス先輩お久しぶりです。あ、私大将に昇進したんで宜しく」
「俺も大将に昇進したわ! お前と同日付で!」
「そうでしたかおめでとうございます。では、一寸離れて下さい。お姉様とお話しがあるんで」
「俺の方が重要だ! いつも邪魔しやがって! アデーレ! おれは」
「お、トラクス久しぶりだな」
と、トラクスの首に腕を絡ませたのは北方軍総司令官に就任したフッカー大将だった。
「よおフッカー、相変わらずふらふらしているみたいだな」
「そうしたいんだけど、総司令官となって北方の治安維持をしなくちゃならない立場だとどうしてもふらふらする訳にはいかなくてな」
「こらフッカー! お前も邪魔するな! お前はいつもいつも邪魔しやがって」
「めんどくさいことを処理できるのがお前ぐらいなんだよトラクス」
「お陰で苦労しとるわ。自分で処理しろ」
「え、お前、苦労するの好きだろう。色々な分隊の雑用していたし」
「あれはだな……」
トラクスが分隊の雑用をしていたのは確かだ。分隊長だったアデーレに良い所を見せようと頑張ったためであり、フッカーの為では無かった。
「兎に角だな。俺は」
「あー、面倒な事はやめて飲みに行かないか?」
「コラながすな」
「ああ、そうだな。何かツマミになる物作るよ。トラクスもどうだ」
「……行きます」
「おう、行こうか。じゃあなガブリエル達者でやれよ」
「は、はあ」
離れて行くアデーレ一行をガブリエルは、少々唖然としながら見送った。
「また上手くいかんかったのか」
「スコット上級大将閣下!」
現れた王国軍の最上級階級者にガブリエルは敬礼した。
「よいよい、今はタダの老人と思って聞いてくれ」
「は、はあ」
「というより、愚痴の類いじゃがな」
「四人の事、いやトラクス大将の事ですか」
「そうじゃ」
スコット上級大将は答えた。
「トラクスが士官学校からずっとアデーレの事をおもっとったことは知っておるな。」
「ええ、聞きました」
「で、今まで告白できんかったのも」
「あの四人の関係が原因だと」
「そうじゃ、勘の良い若者は好きじゃ」
スコット上級大将は正解を解説する教師のように答えた。
「トラクスが告白しようとすると直ぐにユーエルが邪魔をする。ユーエルは、お嬢様育ちで士官学校に入ってカルチャーショックを受けていたからの。当時先輩で姉御肌だったアデーレが面倒を見て慕ってしまったのだ」
慕うレベルじゃ無いと思ったが、ガブリエルは黙っていることにした。
「それで告白しようとするトラクスを自分とアデーレの仲を裂く邪魔者と考え排除しようといつも阻止しておる。ユーエルの方がこの件に関しては行動的でトラクスは失敗しておる。時折排除に成功するんじゃが、その時にはフッカーの奴が割り込んできよる」
「同期なんですか」
「ああ、同じ分隊じゃったしな。性格はトラクスとほぼ真逆で会えばいつもケンカするような間柄じゃ。まあ、仲は良い方だと思うがの。そんな二人いや、ユーエルを含めて三人、
後輩のクリスタやテオをつなぎ止めておけるのもアデーレの人徳かの」
トラクス大将にとってははた迷惑な人徳だろうが、その人徳が無ければアデーレに恋をすることも無かっただろう。正に矛盾だ。
「卒業後も、告白しようにも部隊が違ったり、ユーエルに妨害されたり、フッカーに邪魔されたり。負傷して予備役編入の時も止められ何なんだ。店に何度も行ってなじみになり、ようやく告白というときに、ユーエルの来店が激しいあまり店を移してしまったしの」
だから王都から移ってきてのかとガブリエルは納得した。
「折角の場だったのに無駄にしおって。場を取り持って欲しかったんだがの」
ガブリエルの方を見ながらスコット上級大将は呟いた。
「済みません。お役に立てなくて」
予備役になるガブリエルは素直に謝ったが、同時に予備役編入を後悔しはじめた。あんな面白い四人のやりとりを間近で見れないのは、残念だからだ。