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最弱達との訓練 前編

「…どうぞ宜しく、じゃないわよバカァ!冗談じゃないわ何でこんな新人に隊長を任せないといけないのよ、しかも私達と年齢変わらないじゃない!どういうことなのよ!」


最初に我に返った明莉が蓮夜に対して酷く文句を言い付ける。まぁ、自分達と同じ年齢位のしかも新人で男が隊長を務めるなんて少女達からしてみれば普通に嫌なのは目に見えていた。

是非ともその言葉をうちの姉に聞かせてやりたいものだ、と蓮夜はうんうんと頷いてる。


「……なんで頷いてんのよ、あんた」


「……いや、是非ともその言葉を聞かせたい人がいてな、共感して頷いていたんだ」


「バカにしてんのあんた!?」


共感すれば少しは収まってくれると思ったのだが、逆効果だったらしい。他のメンバーもだんだん我に返っているようだ。


「…文句があるならお前らの担任に言え、俺も援護するから」


蓮夜の言葉に全員が固まるが、一人、蓮夜に声をかけた人物がいた。


「…えっと、神宮寺、先生にですか?…それは、ちょっと…ってあれ?神宮寺?そう言えばあなたも同じ名字ですけど…、神宮寺ってそういませんよね?」


雛子と呼ばれていた少女が蓮夜に声をかけた。


「お前らの担任の神宮寺真昼は俺の姉に当たる人物だ。だからもし言いたいことがあれば援護するぞ」


「「「はぁぁぁぁあ!!!!?」」」


少女達が一斉に声を上げるフードを被った少女も声は出してはいなかったが、相当驚いているのがわかる。


「…えっ!?お、お姉さん?本当、なんですか?」


「ああ、そうだけど。…言ってないのかよ姉さん…。まぁいいや、取り合えずお前らついてこい。訓練場を一つ貸し切ったからそこでお前らの実力を見る」


蓮夜は借りてきたカードキーをくるくると回すと少女達は驚きを隠せずにいた。


「えっ!?訓練場を一つ貸し切ったって…Dクラス部隊が出来るような事じゃ…」


「いいからついてこい、貸し切ったって言っても朝限定だ。時間は少ないぞー」


そそくさと行ってしまう新人隊長に全員不安を感じるが、反論が今一つ出来ないため仕方なくついていくことにした。






◇◇◇◇◇






「……へぇ、中々広いんだな。これなら大丈夫か」


蓮夜はこのニルヴァーナの訓練場の大きさに感嘆の声を上げていた。確かに大型の幻獣種などを考えるとこれくらい無いと足りないではあるが…。


「で、あんたさっき私達の実力を見るって言ってたけど…何?私達に模擬戦でもさせるつもり?」


少しは冷静になったのか、明莉も落ち着いた様子で蓮夜を見ていた。それに対し蓮夜は、


「そう言えば、お前らの名前聞いてなかったな。順番に教えくれ」


明莉が言った言葉を軽く受け流してしまった。それも見事にスルーである。


「…って!無視すんなー!!」


今にも取っ掛かりそうな明莉を抑え、一人の少女が前に出る。


「ちょっと落ち着けよ明莉。名前くらいいいじゃないかを私達の隊長なんだし」


前に出たのは長い髪を後ろで括っている活発そうな少女だった。どうやらこの少女は頭がよく回るらしい。皆の前では笑顔でいるものも、こちらを見るときの目は何かを探っている、そんな目をしている。


「じゃあ、私からだな。私は宮本凛、この部隊の前衛兼中衛を担当している。魔装具は槍だ、宜しく隊長サン」


心の中を探ってくるような目。蓮夜は覚られないように宜しく、とだけ答える。

確かに疑うのは当然の事で、逆に疑わない方がおかしい。

次に声をかけてきたのは茶髪のセミロングの大人しい少女だった。


「わ、私は、桜風雛子と言います。部隊では中衛兼後衛を担当していて、魔装具は盾です。よ、よよ、宜しくお願いしましゅす!…噛んじゃった…」


「…あ、うん、宜しく」


どうもこの子はあがり症気味らしい。別に人見知りという事では無さそうだが…。魔装具が盾?珍しい魔装具だな。

蓮夜がフムと考え込むとゴホンと咳払いをする金髪の少女が目の前に立っていた。どうやら、自己紹介をするから他の事は考えるな、という意味なのだろう。


「次は私の番ですね。私はセリア・フランロックヘルト。部隊では後衛を担当しています。魔装具は銃。宜しくお願いしますわ隊長さん」


口振りからするとどこぞのお嬢様みたいだ。というか、本当にお嬢様なのだろう。

次に出てきたのはフードを被った銀髪の少女。眠いのか、閉じる瞼を擦りながら欠伸をしてくる。


「……ふぁあ…。…黒瀬唯、担当は中衛。…魔装具は鎌。……まぁ、宜しく」


もう一度大きな欠伸をすると、その場に座り込み寝てしまった。


「(…ここで寝るのか…?何なんだこの子)」


何やら個性が強そうな少女達である。そして最後に残ったこの少女が一番の個性だと思うのだが…。


「…仕方ないわね、いいわよ、自己紹介してやるわよ。私の名前は紅坂明莉。部隊では前衛を担当しているわ。魔装具は剣。……私は認めないわよ、あんたが隊長だって事」


睨み付けてくる明莉を見ながらため息をつく蓮夜。というか、明莉が言っていることは正論過ぎる事である。他のメンバーも同様に頷く。

蓮夜は当然だよな、と考えつつも、一発で認めさせる方法を考えていた。


「…まぁ、お前の言う事は当然の事だ。いきなりきた新人が隊長、しかも同年代の男。認められないのはわかるが、決まった事だしょうがない。…というか、お前らが元々チームワークをちゃんとしていればこんなことにはならなかったんじゃないか?寧ろそうだろ?俺だってここには呼ばれなかったし、最弱部隊の汚名も着せられなかったんじゃなか?」


うっ!?と呻く明莉達。これには流石に反論が出来ないのか、黙るままの明莉達である。


「…それに、この前のランキング戦だっけ?あれが個人戦方式ならお前らが5ー0で、圧勝してたんじゃないか?」


更に呻く明莉達。明莉に至ってはプルプルと顔を震わせていた。


そして――。


「…ふざけんじゃないわよ!いきなり来た新人が何知ったような口聞いてんのよ!確かに私達の部隊のチームワークは私達が『強すぎる』せいでグダグダもいいところだわ。本来なら勝てる部隊にも全く勝てない。それでも――」


「…あのさ」


明莉が喋っている途中ではあるが、蓮夜は明莉の言葉を止めた。


「紅坂、お前はさっき強すぎるって言ったよな?『強すぎる』ってのは何だ?」


「…えっ!?…そ、それは…」


「まさか、自分達が強いから格下の相手に負けても個人だったら自分の方が強いから大丈夫…とか思ってないよな?」


「そんなの思う筈ないでしょ!?」


「…じゃあ、『強すぎる』ってのは何だよ、説明してみろよ」


「………っ」


明莉は口を紡ぎ、下を向いてしまう。他の四人も視線を逸らしたり、俯いたりしている。


「確かにお前ら一人一人は各部隊のエースを務めててもおかしくないような人材だ。素質もある。だけどな、正直お前ら程度なんて世界には腐るほどいるし、この学園にも何組もいる。その例が今の『生徒会』や遠征に行ってるAクラスの上位部隊とSクラス以上の部隊だ。お前らはそいつらと戦うときも『強すぎる』からチームワークが取れない、とか戯れ言をぬかすのか?」


全員口を紡いだまま黙っている。蓮夜はもうちょっとだなと思いつつも更に『追い込んでいく』。


「お前らにも事情の一つや二つ位あるんだろうけど…お前らさ、この部隊になって、『自分達より強い部隊』と戦った事無いだろ?」


蓮夜の言葉に全員ビクリと体を震わせる。寝ていた筈の唯も先程起きたのか蓮夜の話を聞いており、先程までとは比べものにならないくらいの表情をしていた。


「そりゃそうだよな。いくらお前らが強かろうが、チームワークがダメすぎてDクラスの底辺をさ迷っている最弱部隊だ。お前ら自身と対等に戦える人物なんていないだろ」


「…何が言いたいのよあんたは」


明莉は先程とはまた違った表情で蓮夜を睨み付けていた。本気の怒りで蓮夜を見ている。他の四人も同様だ。

こんなもんか、蓮夜は全員の表情を見て心の中で呟く。大人しそうな雛子でさえ蓮夜を睨んでいる。大人しい子が怒ったら怖いとは本当の事らしい。五人の中で特に威圧感を感じる。


「そうだな、まぁ簡単に言えば…」


蓮夜は空中から支給品の魔装具『ブレードtypeα』を取り出す。それを見ていた全員が何をするんだろう?と疑問を思いながら蓮夜と魔装具を交互に見る。


「お前ら全員自分の魔装具を出せ、今から模擬戦を行う」


「…あんた、本気で言ってんの?」


「ああ、そうだが?」


「…あんたこそ戯れ言ぬかしてんじゃないわよ。私達全員『専用』の魔装具を持ってるのよ?そんな支給品の魔装具で勝てるわけないじゃない。…それに全員って言ったでしょ?まさか、その状態で私達『全員』と模擬戦をするって訳じゃ…」


「その通りだけど?五対一だ。俺がハンデとして支給品で戦う。文句は?」


「ありまくりよバカァ!!先ず何でそんな事しなくちゃいけないのよ!?こんな見え透いた勝負するわけ…」


「確かに俺の勝ちが決まってる勝負だな」


この言葉にキレたのか明莉がいきなり姿を消して、


パシン!!


目の前に現れ蓮夜に殴りかかろうとしていた。先程の音は蓮夜が明莉の拳を止めた音である。


「いいスピードだな。一瞬消えたかと思ったぞ」


「…あっそ、この拳をちゃっかり止めてるくせに」


蓮夜が手を離すと明莉も距離を取る。そして、


「…天穿つ星々の剣『メルトリウス』。これが私の魔装具。…本当に行くわよ」


明莉の右手に一振りの剣が顕現する。赤と金の装飾に先端が鋭く尖った剣。あまり見たことがないような形だが、あの剣から発せられるとてつもない威圧感に冷や汗を流す蓮夜。追い込み過ぎたか?と思うが姉から『現実を見せてやれ』と言われているのでこのくらいがちょうどいいのだろう。


「ああ、実力の違いってやつを見せてやるよ」


明莉が魔装具を出したと同時に他の四人もそれぞれの魔装具を取り出す。


「…敵を貫く神の槍『グングニル』。本気で行くぞ」


凛が取り出したのは大きな槍。緑を中心とした色合いに金色の線が何本も入っている。多分あれは、『天敵』だ。


「……怠惰の死鎌『ベルフェゴール』。…殺すつもりでいく」


唯の頭上に自分の背丈を越えた鎌が現れた。怠惰と言うことは『七大罪』の魔装具の一つだ。そんなものを持ってるなんて蓮夜は驚きを隠せずにいた。『七大罪』の魔装具は使用が厳しいと聞いていたのだが、何者なのか…、あの子は。


「全てを守る女神『ヴァルキリー』。…本当に知りませんよ」


白く大きな盾を片手で持っている雛子。盾という魔装具は正直見たことが無いのだが、ただ単に攻撃を防ぐ、というだけのものでは無いだろう。それに明莉達の資料を見たときに一番魔力量が多いのは雛子であった。『魔法』による援護射撃もありえるだろう。


「神殺しの魔銃『フェンリル』。…今さら泣いても遅いですわよ」


セリアが両手で持っているのは青を特徴とした狙撃ライフル。完全に後衛用の魔装具だ。だが、昨日見たときはライフル『以外』のものもあったような気がしたが…。

戦えばわかるだろう。


蓮夜も戦闘態勢を取る。


「…それじゃあ、始めようか」


蓮夜は昨日言われた姉の言葉を頭の中で思い出すのであった。






◇◇◇◇◇






時間が遡ること昨夜。部屋が用意出来なかった為に姉の部屋にお邪魔する事になった蓮夜。

蓮夜はこれから指揮を執る少女達の資料を姉から貰い、各個人の特徴を覚えていた。正直まだ、やる気にはなれないがやる気にならないと姉から理不尽という名の制裁が蓮夜の頭に飛んで来るので必死になってやる気を出していたのだが、姉からとんでもないことを言われ、一瞬頭の中が真っ白になってしまった。


「…はぁ!?あの少女達を追い込めだ?一体どういうことなんだ姉さん」


真昼は缶ビールを片手にグイッと喉に入れ込むと、少し酔っているのか頬を赤くしていた。


「…ふぅ、ああそうだ。どうせ、あいつらはお前の事を隊長と認めないだろう、十中八九な。それに、気が強い連中ばかりだからな。認めさせるにはお前の『実力』を見せるのが一番だろう。…それも徹底的に追い込んで、だ」


「…まぁ、言いたいことはわかるけど…、追い込むってのは何?精神的にってこと?」


「そうだ。あいつらはあの部隊になって自分自身よりも強い相手と戦っていない。だから格下に負けても『チームワークで負けてるだけだからまだ大丈夫』だと思ってしまう。だから、その概念をぶっ壊せ。徹底的に実力の違いを見せろ」


姉はそれだけ言うとバタリとベッドに倒れ込んでしまった。どうやら完全に酔ってしまい、睡魔が来たのだろう。

蓮夜はため息をつきながら真昼に布団をかけてやる。そして一番大事な事を聞けずじまいだった。


「…徹底的にてどのくらい?『アレ』使っていいのか?」


その言葉は姉に届かず返ってくるのは姉の安らかな吐息だけだった。






◇◇◇◇◇






そして時間は戻り、現在。


蓮夜は『上』を見ていた。


「最初から全力全開で行く!」


訓練場の天井に明莉が『立っていた』。『魔法』による身体能力強化。『魔法』には大まかに分けて二つに分かれている。


一つは自らに掛ける補助魔法。もう一つは相手へと攻撃する攻撃魔法。


魔剣士は攻撃魔法をあまり『使わない』。攻撃魔法を使うより魔装具で戦う方が楽だからである。それに、攻撃魔法は牽制や目眩まし程度であって、メインで魔法というのはほぼあり得ない。補助魔法で身体を強化した後、魔装具で戦うのが今現代の主流である。

だが、それはあくまでもAからDランクの魔法を使うときのみ。Sランクを越える魔法、国で指定されている戦術級や超戦術級といった大人数で放つ攻撃魔法は別だ。


つまり攻撃魔法は一撃必殺みたいなもので、大人数ではないと撃つことは出来ない。





ある『イレギュラー』を除いては。





そして、今明莉のメルトリウスに集まっているのは明莉が持つ莫大な魔力。『魔法』について話したが、もう一つ方法がある。


「雛ぁ!全力で行くから盾宜しく!」


「わかりました!」


明莉の叫び声に雛子が反応し、ヴァルキリーを上へと翳す。すると、いくつもの魔方陣が現れその魔方陣が明莉と蓮夜を除く四人の前に現れる。


「準備OKです。明莉さん、いつでもどうぞ!」


「了解……。あんたなんか燃えカスにしてあげるわよ」


明莉の魔力がメルトリウスの刃に集まり、光だした。


「メルトリウス八式」


刃に八つの魔方陣が現れると、それらが合わさり、巨大な魔方陣となる。


「本気で来いって言ったのはあんたよね、じゃあ全力でやっても問題ないわよねぇ!!」


そのもう一つの方法は、自分の魔力を魔装具に送り込み、相手へと打ち出すこと。


「墜ちろおぉ!!『星落とし』!!!」



剣を振り下ろし、巨大な魔方陣から『星』が落ちてきた。



「……いや、まぁ、確かに本気で来いって言ったけどさ……」


蓮夜は姉から言われたことを思い出す。


『徹底的に実力の違いを見せろ』


「…充分じゃね?こいつら……」


落ちてくる『星』を見ながらため息をつく蓮夜だった。














どうでしょうか?

おかしい所がありましたらご指摘お願いします。作者のガラスのハートを壊さない程度に…。


感想お待ちしておりますm(__)m

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