11、あのとき伝えられなかったこと
「ふへへ。起きないな」
「それは当たり前でございます。私の幻は天下一品です」
あたしは眼を瞑ったまま動かないりゅうりゅうの周りを周り、眺め続ける。
「でも少々味気ないな。こうもあっさりいくと」
「それはしょうがないことです。私を誰だと思っているんですか?」
「・・・・・」
あたしはその問いに答えられなかった。なぜなら、目の前にいる声だけが聞こえる存在の全身をあたしが見たことないからだ。知らない者は答えられない。答えられるはずがない。だって知らないんだから。
でもこれだけは知っている。あなたは裏切らない。絶対に裏切らない。なぜならあたしを復讐に導いた張本人でもあるんだから。
そう決意を込めた表情であたしはそのみつめられているであろう眼差しの生物に向かってこう答える。
「ゾイド」
だってあたしにはあなたが神様にしか見えないんだから。
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「なっなんでこんなものを見せられているんだ。これは俺の記憶。記憶なのか」
俺は頭を抱えながら考える。
それは忘れよう忘れようと思って、頭の片隅に追いやっていた記憶。アルギノと俺との最後の別れの記憶。
「なんで今こんなものが?」
俺は見たくない。見たくないと思って目をそらし続ける。そう思って目をそらし続けると幻聴まで聞こえ始めた。
「ねーなんで眼ー瞑ってるの?ねーねー。なんで?」
なんでアルギノの声が聞こえるんだ。なんで俺の記憶の声そのままなんだ。
「こっちむいてよりゅりゅう。あたしをみてよ」
そんな懐かしい声に俺は見ちゃいけない見ちゃいけないと思いながらも抗うことができず、結局目を開けてしまうのだった。
「ありがとりゅうりゅう。あたしを見てくれて」
そして俺は見てしまったのだ。あいつの姿を。昔とちっともかわらないあいつの姿を。やんちゃで元気いっぱいで無鉄砲で空気が読めなくて泣き虫で。
「・・・ねーなんで泣いてるの?」
えっ!?俺泣いてる?泣いてるのか?こんなにたくましいのに。
「あっそうか!!あたしのダンスを見て泣いてくれたんだ。ありがとね。りゅううりゅう」
そうじゃない。そうじゃないんだ。そうじゃ。
「・・・泣き虫だったんだね。りゅうりゅうって。あたし知らなかった」
でも、泣いているだけでちっとも声にならない。
「長年付き合ってきたけどあたしの知らないことっていっぱいあるんだね」
なんで声になってくれないんだ。畜生。畜生。
「これからも一緒にいようね。ずーっと一緒だよ。ずーっと」
でも、これだけは伝えたいだから応える。
あの時伝えられなかった大切な大切な俺の気持ち。