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馬を引く者  作者: 江鋼太値
馬を引く者                   第三幕 悲憤慷慨
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7、宴

 


「はあはあはあ・・・やった・・やったのか?」

 あたしは見えない眼の中ゆっくりと敵のほうへ向かっていく。

「・・・・・」

 これが敵の正体!?

「・・・・・」

 あたしは絶句した。目を疑った。こんなのにてこずってたんだって。

 もっと強そうななりだと思った。

 目の前にいたのはあたしの思い描いていた奴の像には到底およばないものだった。

 なぜなら、無残にも原型をとどめていなかったからである。

 一つ一つの銀色の鱗が粉々に裂け、バーミリオンの鰭が大破したように折れ曲がり、眼があると思うところには眼がなく、砂の地面と残骸が散らばっていただけだった。

「うーん、これは・・・・いったいどんなやつだったんだ?あたしにはもっと強そうななりだと思っていたんだが・・・・」

 そうだ。戦っていたときはもっと強そうななりをしてたんだ。あたしが最後の一撃でかろうじてつながっていたであろう鱗と鰭の部分を無残にも打ち砕いてしまったせいでこんなになってしまったんだろう。

 そうしておこう。

 じゃあ祝杯として

「や・・・」

「ぎゅんぎゅんぎゅんぎゅん・・・」

 おたけびをあげようとしたが、悪い予感がして途中で遮る。

「なんか今聞こえなかったか?」

 あたしの予感はあたる。いつも無鉄砲な言動や衝動で動いているような感じだが、こういうのはあたしの才能のような気がする。

 あたしは勘だけはいいのだ。だっていつもそれで動いているようなものだし。

 あたしは耳を凝らす。

「ぎゅんぎゅんぎゅん」

 水と水が掻きわけられるような音がする。

 それがどんどん大きくなってくる。跳ね返りの音があたしの耳に届くまでの長さがどんどん短くなっている。

「こりゃあもう一戦あるかもな。でも、ほんとだったらやばいかも」

 あたしの勘は的中する可能性が高い。でも、敵というわけじゃない可能性もある。

「ぎゅんぎゅんぎゅん」

 だって一体じゃなく、集団のようだからだ。

「ぎゅんぎゅんぎゅん」

 どんどん近くなってくる。

 掻き分けの効果音の反復の間髪がどんどんなくなってくる。

「もう見えてもいいはずなんだけどな」

 あたしはそう思い、用心のために受け身の姿勢をとる。

 首と曲げの上半身を敵のほうに向け、途中から曲げを後ろへといざない、縦にカーブを描くようにして待つ。

「こうしておけばたぶん一発は耐えられるような・・」

「ぎゅんぎゅんぎゅん・・・」

 あたしは眼をこらす。敵の集団の正体を見極めるために。

「でも、それがわかったとしてどうする?あたしにはもう倒す手立てがというか、体力が残って・・・・う~~~ん・・・」

 あたしは考える。一瞬目を閉じ、精神を集中させることにする。

「こりゃあ私の出番か?」

 そう思い、ゾイドは同化させたまま躰を移動させ、アルギノを護るようにして彼女の目の前に彼女よりも大きな躰を移動させる。

「これはバックアップだ。用心だ。用心。決して部下を護るとかそういうものじゃ」

「わかってるってゾイド。ありがとな」

「おう」

 やっぱりわかっていたか。でも、呪いの元凶にも敬意を払うんだな。

 今は違うかもしれないが。

 私はそう思い、彼女の目の前に立つ。彼女を護るようにして。

「・・・・これは!!」

 私は目を疑った。

 なぜならそいつらは敵!!というような目をしていなかったからだ。

「お前もそう思うか」

 私は問うた背後のアルギノに。

「ああ。あたしにもそう見える」

「なら、私はいらないな」

「ああ、どいといてくれ」

「了解」

 それからは早かった。

 敵と思っていた集団があたしの目の前に群がり、全員が一回真下を確認したと思ったら、

「お前が次の竜宮王?いや竜宮女王」

「女王様だ~~~!!」

「誕生だ~~~!!」

「みんないっせいのーで・・・」

「「「「「「「「・・・・ばんざーい・・ばんざーい・・」」」」」」」」

 なんかあたしの理解が追いつかない内に祝杯のように盛大にお祝いされてしまったのである。

「「「「「「「「・・・・ばんざーい・・ばんざーい・・」」」」」」」」


                     ▲


 それからあたしは周りに群がる生物達に担ぎ上げられ、竜宮王朝なるところへ連れていかれた。

 見たところ、一番上には、朱塗りの瓦屋根が置かれ、真ん中に門があり、周りをレンガの塀が取り囲んでいるようだ。

 門は、とても大きく、全体的にブリックレッドで塗られ、等間隔にバーミリオンの奥に引っ込んだ四角い装飾が施されている。

 観音開きになっているようで、タツノオトシゴなる金色の生物がうんしょうんしょといいながらゆっくりと押している。

 水圧が高いのか、とてもゆっくりしか進まず、難儀しているようだ。

「早くせぬか、女王様が待ちくたびれておるぞ」

「すいません。道運様(どううんさま)。何分門自体が重く、私達ではどうにも」

「そういうことをいっているから使えないといっているんだ。おまえら、手伝ってやれ」

「はい、道運様」

 ウナギのような形をしたフォレストグリーンの生物が命令すると、あたしを盛大に運んでいた奴らの中から、蛇のような形をしたブラックとダークバイオレットの縞々の生物が二体と親しみやすい顔をしたナマズのような胴体とオタマジャクシの尻尾が特徴的なスレートグレーの生物が二体の計四体が、前に出てきて門を押すのに加わります。

 門を押す生物が増えたことで飛躍的にスピードがあがり、あたしはそのまま宮内へと連れていかれる。

「でっかいなー」

「はい、女王様。ここは、先代が竜宮王朝と呼んでいた国で、百年以上続くとても歴史のあるところになります」

「ふーん。して、なぜあたしを女王様と呼ぶ?」

「この国のならわしで、国一番の手練れのものが王になることが決まっており、先程あなた様が倒したもの、竜宮様が王であったためです」

 そうか、だからあれだけ強かったのか。まてよ、さっき竜宮王朝と呼んでいたといってな、ということは、

「国の名前も王がつけるならわしなのか?」

「さようでございます」

 やはりな。

「どのような名前をご所望ですか?」

「どうしようか」

 これは考え物だ。あたしの出した結論で国の名前が決まるのだから。

 なので、質問をしてみることにした。

「先代の前の王はどんな生物だった?」

「その問いにはわしが応えよう。王は、李我路(リガロ)様と言ってな、とても強靭なセラドンの鱗を携えた青龍の一族出身の者で、わしが知る限り、代々龍関係の生物が王となってきたそうじゃ」

 先程のはっきりした声の主とは違う、しわがれたような声の主が応える。

 ならば、龍にちなんだ名前のほうがいいな。

「マンドラなんてどうじゃ」

「マンドラとはどのような意味でございますか?」

 あたしはゆっくりと意味の伝わるように応える。

「マンドラとは、万の龍なる生物が治めてきた国ということだ」

「なら万と龍を取って、万龍(マンドラ)ということでよろしいですね」

「そなたたちがいいならそれでいいぞ」

「わかりました。では、明日にでも門に飾られている装飾名の変更ができるように手配しておきます」

 門にそんなものが飾られていたのか。あとで確認しておこう。

「よろしく頼む」

「では、まずはお怪我をされているので、皆の者、女王様を医務室へお通しせよ」

「はい、道運様」

 次は医務室かと思い安心すると、戦いの疲れもあったため、急激に眠気が襲ってきて、あたしは、誘われるように眠ってしまったのだった。


                     ▲


 あたしが目を覚ますともう治療は終わっており、目の前には豪華な食事がならんでおり、頭部には代々受け継がれてきたであろう壺のようにかたどられた真珠の真ん中にアクアマリンが輝く王冠が乗っていた。

 周りではもう宴が始まっているのか、給仕係の生物達が料理運びにてんやわんやしていた。

「皆の者席に着け~。女王様がお目覚めになったぞ~」

 ここはあたしが挨拶をするところかと思い、

「あたしはアルギノといい、水龍の一族の生まれである。だが、あたしが生まれる前に両親は死んでしまったため、あたしは両親の姿を見ていない。

 また、育ての親もすぐに死んでしまったため、あたしはこれまで一人で生きてきたようなものだ。

 だが、あたしには、復讐したい奴がいる。そやつは赤龍と言い、紅い鱗ととてもおおきな翼を携え、強靭な肉体を持っている。

 だからお前たちもあたしの復讐に加勢してもらいたい。頼めるか?」

「皆の者異論はないな」

「はい、道運様」

 道運様を含む会場にいる全ての生物達が一斉に立ち上がり、拍手が巻き起こる。

 それは異論などあるはずもないという証しであり、あたしが万龍の女王となった瞬間でもあるのだった。

「では、宴を再開するとしようか」

「はい、道運様」


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