6、竜宮VSアルギノ
「俺の獲物だ~」
「わしのだ。わしが食べるんだ」
「いいや、あっしだよ、あっし」
先程あたしが殺した蛇の前に群がり、口々に言い争いを始めてしまう。
それを見てあたしは、
「これは好機だ。あたしが目の前の敵を殺したことで注意がそれた。あやつらには今や獲物しか見えていない。これを逃すものか」
そう思い、大きな尻尾を器用にくねらせ、後方へと大きく振りかぶり、ねじるようにして奴らの背後から解き放つ。すると、尻尾の長さと遠心力と勢いを利用した巨大な竜巻が奴らの背後に生まれた。
獲物の取り合いに勤しむ奴らには、背後から迫る竜巻になど気づく様子もなく、ただただ喧嘩を行うのみ。
「俺のじゃ~~」
「いいやわしのじゃよ」
「離せ離せ。力ではあっしが一番ぜえ」
背後に迫りくる竜巻に気づきもせず、獲物の前でかぎづめを激しくかちあわし、大きな口や牙で相手を仕留めようと躍起になる。
「ははは、もう終わりだな。案外あっけなかったな」
「えっ!?」
「なんだこりゃ」
「ぐわおぉー」
次々に背後から迫る竜巻に飲み込まれていく生物達。
声をあげる者もいれば悲鳴をあげる者もいる。
「ううー。しくしく。がみざま~~~~」
中には助けを乞うものもいる。
アルギノにはそれらの惨事がとても幸福に思え、今までにない歓喜の渦に飲み込まれる。脳の全てが笑いと幸せで満ちていく。
「ははは、はは。ゆかいだ、ゆかい。もっとだ。もっとまわれ」
竜巻に巻き込まれていく奴らを見て、その場で笑い続ける。
アルギノの目からうれし涙が零れ落ちる。あふれる涙を拭いもせず目の前が見えなくなるまで笑い続ける。それは獲物にとっては好機であり、アルギノにとっては油断していたことだった。もう敵はいない。全員仕留めた。目の前にいる敵だけで全てだと思い込んでいたのだ。それが油断だったのだ。
いつなんどきも精神を研ぎ澄ましておかなければならない。そう想い生物に教わったではないか。それを教わった本人が忘れるとは、つくづくばかなやつじゃ。
そう思ったが最後。作者が予感したアルギノの油断の隙に背後から迫りくる敵によって己の首を絡めとられてしまう。
「ぐっぐわ・・・なん・・」
驚きの声を出す暇もなく自身の首を絡めとられ、上空へと誘われる。
「なっ・・なにを」
首を絞められている性でとぎれとぎれしか声を出すことができず、思うように言葉を発することができず、もどかしい思いをする。
徐々に勢いが上がっていき、それにプラスされるように回転力も加わり、脳の機能をも奪っていく。また、首を絞められていることで、脳への酸素の補給もままならなくなり、いつしか意識も遠のいていく。
「あっあたしはこれで終わりなのか・・・」
アルギノがそう思ったとき、先程体をくねらせていたことと敵の遠心力の性で徐々に下へ下へと滑るように肢体がするするっと敵の尾から抜けていく。
「しっしめた。しかも奴は気づいてないぞ」
好機を確信したアルギノは、未だ滑り続ける肢体を利用し、敵の尾から軽やかに体を抜いていく。
「気づかれないように、気づかれないようにっと」
そう思いながらも悠長にはせず、素早く肢体を動かし、抜け出すことに成功する。
「よしっ、やったぞ。じゃあ次は」
まだ油断はできないため、未だ上空へと昇り続ける敵へ照準を合わせ、一気に臨戦態勢へと持ち込み、体をどくろをまくようにくねらせていく。
「まだだ、まだ。敵があたしがいないことに気づいたときが好機だ。必ず一瞬体の動きを止めるはずだ。絶対にその時を逃すんじゃない」
アルギノはけっして目をそらさぬように獲物に狙いを付けた蛇のように目を見開き、必死にその時を待ち続ける。それはまるで一匹の狩人のように見える。
けっして敵を逃がさないという精神の現れでもあるのか、まばたきもせず、ずっと狙いを定め続ける。
「まだだ、まだ。まだ気づかないのかあやつは」
あたしがいないことに気づきもせずどんどんとあたしから遠ざかっていくように上空へと昇りつづける白光りする肢体とバーミリオンの鰭をもつ使いのもの。それはまるで地球に飛来する隕石のように見える。
「なっなぜ気づかないのだ。そっそれとももう気づいているのか?気づいてそのまま回り続けているのか?」
アルギノに敵の意図はわからないが、けっして歩みを止めることなく回り続けているのは確かだ。
「んっ?変だぞ。徐々に回転力が上がっているぞ。んっ?今度は軽やかに弧を描き始めたぞ」
アルギノは敵の動きを見て確信した。これは気づかれている。次の手を読まれている。やつは決して弱者などではなく強者なのだと。そのことに頭を抱えてしまう。
「こりゃあまいったな~。この戦い長引きそうな予感がするわ」
アルギノは徐々に回転力を上げながらこちらへと迫りくる強者を見て、そう思わざるをえなくなり、もう一瞬の隙も作らぬという決意を込め、自身の首と頭をもねじり、精神を研ぎ澄まし、狩人のような瞳で持って敵を睨みつける。
狩人と狩人の戦い。それは気を抜いたほうが負け、勝機を確信したほうが負け、決して油断してはならぬ戦いなのだ。戦いに勝利し、勝利の美酒を味わう強者は果たしてどちらになるのか。それは誰にもわからないのだった。
▲
アルギノは待つ。
勝利を勝ち取るために待ち続ける。
「緊張で汗が止まらない。顔じゅうから汗がしたたり落ち、とめどなく流れてくる。どうしよう。どうすればいいんだ」
「あれを思い出せ。思い出すんだ」
「誰だ!?誰なんだ!?答えろ」
「復讐だろ。復讐したいんだろ」
「だから誰なんだよ。復讐ってなんだよ。今は関係ないだろ」
「関係ない?関係ないわけないだろ。お前を突き動かしている原動力はなんだ!?」
「原動力!?・・・・それは・・・・」
あたしは思い出した。この状況を作り出した張本人を。それは・・・・りゅうりゅう・・・
「おまえだ~~~~」
あたしは何も考えず無我夢中で敵の手中へと飛び込んだ。一瞬前までは緊張で汗が止まらなくなっていたはずなのに。
「なぜだ!?なっなぜ??」
しかもそれを自分の意志では止めることができない。これはもう興奮状態を通り越して狂進状態を突破しているといっても差し支えはないだろう。
あたしの精神は今そんな状態なのだ。
そんな状態のあたしを止めることなど誰にもできないのだ。止められるはずがない。この世界に存在する全能なる神全員をこの場に呼んだとしてもだ。
目の前には敵がいる。でもそんなことはあたしには関係ない。いま必要なのはりゅうりゅうを殺すことだけだ。あいつさえ殺せればそれでいい。それでいいんだ。
そう思ったらあたしを包み込んでいた緊張なんてするりと消え失せ、周りに存在する水とすぐに同化してしまった。
そうか、こんなに簡単だったんだ。
敵に勝つことなんて。
そう思ったとたんあたしの眼は覚め、現実へと強制送還され、目の前にバーミリオンの物体が出現する。
「こっこれは!!」
あたしは驚いた。驚いて攻撃するのも忘れ、無我夢中で避けてしまった。
これは痛い。これは。
このあとどうすればいい。どうすればいいんだ。
そんなことを考えている間に敵が周りの水を切るような水切り音をさせながら回れ右をしてあたしの懐へと向かってくる。
「どっどうすれば・・・」
またあたしは考えてしまった。今が修羅場だというのにだ。
こんなんじゃだめだ。いつまでたっても復讐なんてできっこない。また一人に逆戻りだ。それはいやだ。絶対にいやだ。死んでもいやだ。
そう思ったら悲愴感なんてするりと消え失せ、嫌悪感で脳が満たされていく。
「そうだそうだ。嫌え!!嫌うんだ。あいつのことなんて嫌いになれ。私はそう言っただろ。私を信じろ。信じるんだ」
その声は聴いたことのある声だった。でもなぜかそいつの正体だけが思い出せない。名前はわかる。でも、でもだ、姿だけがわからないのだ。
なぜなんだ。でも、今はそんなこと重要じゃない。聴いたことがあるのが大事なんだ。聴いたことがあるということは少なからずも知り合いということ。知り合いが声をかけてくれている。それが重要なのだ。ということは・・・
「あたしは今一人じゃない!!」
そう思ったらどこからともなく勇気がわいてきて、不思議と笑みが零れる。
「ふ・ふっははは・ふはっ。もう倒せる気しかしないではないか」
あたしの目の前にはもう勝利の二文字しか見えていなかった。
▲
あたしはこの戦いに勝利を確信している。でも、確信していたとしても実際に勝つのは難しい。
なぜなら、勝利を確信するのと戦いに勝利するのは必ずしもイコールではないからだ。
勝利と勝利。一見同じ言葉にも見える。実際同じ言葉だ。でも、意味することは違う。どちらも同じ勝利でも、実際にやるのと確信してそれに導くのとでは雲泥の差だ。
地獄に行くのよりも難しいかもしれない。
でも、やらねばならないときがある。生物には絶対に避けては通れない事柄というものが存在しているのだ。
それが今だ。今なのだ。
あたしはそんな苦境に立たされている。でも、これを乗り越えれば人生良い方向に転がるかもしれない。いや、そうなるだろう。あたしはそう確信している。いや、そうなることを望んでいる。だからそうなるように叶えなくてはならないのだ。
あたしは眼をめいいっぱいあけて向かってくる敵を正面から見据える。あたしと敵の衝突はもう避けられない。ならあたしはそれに対処するだけだ。それならことは簡単だ。もう逃げられないのなら逃げなければいい。避けられないのならば避けなければいいのだ。誰しもやらなければいけないときが必ず来る。絶対に避けられない戦いの狭間に立たされるときが必ず来る。
あたしの場合は今がそうなのだ。
だから避けないし、逃げない。そう、逃げちゃいけないのだ。
あたしは強い。そして誰よりも好奇心旺盛だ。だから勝つ。絶対に勝たねばならないのだ。
負けられない戦いが今始まる。
あたしと敵の距離はもう三寸もない。一言発するだけで会いまみえる差だ。ならもう迷ってなどいられない。あたしはやる。やるんだ。
あたしは一瞬の躊躇もなく、体をその場で勢いよく回転させ、眼下にある砂を巻き上げ、砂嵐を作りだす。
「ぐわっ、なんだこれは。目の前が・・・」
敵が混乱している。あたしはその一瞬を逃さない。
尻尾を振り上げ、敵の頭めがけて振り下ろす。
「ぐえっ」
一発で終わってはだめだ。与えられるうちに差を広げておかなければいつやられるかわからない。一瞬の判断ミスが大きなミスにつながるかもしれない。でも、敵との差を広げておけばミスしたとしてそれが小さなミスで済むのだ。
だから今はダメージを重ねる。重ねなければならないのだ。
「ぐえっ。ぐおっ。どごっ」
いだい、いだい、いだい。でも、今は耐えるんだ。耐えれば絶対に勝利が見えてくる。だから耐えろ。竜宮。
俺は相手の強襲に耐える中、敵をあざ笑うために痛い中めいいっぱい笑顔を作る。
「ふっ負けられないんだろ」
俺は砂塵の中、一瞬見えるブルーセレストの鱗光に狙いを定める。
耐えろ。耐えるんだ。そうすればおのずと勝利は見えてくる。
確信すれば絶対に叶う。俺にはそれを叶えるだけの力がある。
実際そうだ。俺に付き従う仲間はいっぱいいる。それを裏切ることなんかできない。俺は竜宮王朝の長なのだ。だから勝たねばならないのだ。負けたら最後。俺は追い出される運命なのだ。
先代の長もそうだった。そのまたの先代の長もそうだった。そのまたのまたの先代の長も・・・・だから俺が負けたらあいつが長に、目の前の綺麗なブルーセレストの輝きを放つやつが・・・・。
「ぐわっ・・・・・どんっ」
「・・・・・・もう動かないのか?」
あたしは迷いながらも、敵の死を確認するために、回転するのをやめ、自身の周りにまとわりつく砂塵の嵐が晴れるまでその場でゆっくりと待つ。
思えば長い闘いだった。勝敗などつかなかったかもしれない。
でもあたしは勝った。勝ったんだ。
「・・・・よっしゃあ~~~~・・・・・どごっ」
今何が起こった!?
頭上を何者かにひっぱたかれたような衝撃が・・・。
そうだ。やつはどこだ!?今目の前に横たわって・・・・っていない!?
なぜいないんだ。今倒れていたはず・・・。ここに横たわっていたはず・・・。
どこだ!?いったいどこだ!?さがせ・・・。
「どごっ」
また頭に衝撃が。
ということはくたばってなかったということか。油断した。
攻撃などやめなければよかった。敵の頭と体が離れるまで安心するんじゃなかった。動かなくなったからって安心するんじゃなかった。
「・・・・って今はそんなことどうでもいいか」
敵は死んでない。あたしも生きている。今は戦いの最中。やつもあたしもいきている。
そう。今の奴とあたしは戦闘中なのだ。
遭いまみえている最中なのだ。
油断したあたしが悪い。敵に悪気などない。カラスが嘘をつくのなんて当然の行為だ。
それを見極められなかったあたしが悪い。悪いのは全部あたしだ。
だから今度は・・・奴の番だ。そして、あたしが耐える番だ。
奴が勝利の福音を呼び出したようにあたしにも勝利の福音を呼び出さねば。
「見ていてねりゅうりゅう・・・絶対あんたに復讐してやるんだから!!」
▲
「どごっ、ぶごっ、ぶえっ」
あたしは耐える。
速い、速すぎる。目で追うことができない。なんだこの速さは!?
さっきまでのはお遊びだったとでもいうのか!?これがあいつの本当の実力なのか!?あたしは遊ばれてたということなのか!?
いやいや、そうじゃないはずだ。なぜならば先ほどまではあたしのほうが優勢だったから。
ならなぜ、あんなことをしたのだ!?これほどまでの実力を秘めていたのなら、最初っから本領発揮であたしにぶつかってきていてもおかしくなかったくらいだ。
あいつの意図はなんだ!?なぜ待った!?あたしに自分は弱いと認識させたかったのか!?倒せる存在だとわからせたかったのか!?
そうなのか!?それが狙いだったのか!?ある意味そうなのかもしれない。
そうならばいままでの行動も納得がいく。
でも、あいつの自信はどこから湧いてきた!?あたしにはそれがわからない。
でも、今はそんなことどうでもいい。
あたしも好機を探さなくてはならないのだ。
なぜならあたしもこの闘いには絶対に勝たなくてはならないから。
なぜなら、これは生死をかけた闘いなのだから。どちらかが死ぬまで続く永遠の闘い。デッドエンドなのだから。
「ははははっ。ゆかいだゆかい。さっきまでいたぶられていたのが嘘みたいだ。
なんだこの状況は!?おれの独壇場じゃないか」
俺は笑っていた。闘いを楽しんでいた。竜宮王朝の王座の剥奪がかかっている大事な闘いだというのにだ。
本当は笑ってなどいけないのに。でも、俺は楽しんでいる。楽しいのだ。笑いが止まらないんだ。なんなんだ!?この快感は!?
「死ねー。早く死ねよ。おらおらっ」
俺は器用に尾っぽを動かし、敵の頬をなぶる。
「ぐえっ、ごわっ」
愉快だ愉快。こんなに闘いが楽しいものだとは思わなかった。
なんだこの快感は!?今までの人生の中で一番かもしれない。
俺の体は今、歓喜の渦に巻き込まれている。脳の中で喜びが溢れかえっている。もう誰にも止めることはできないだろう。たとえ自分でさえ。
「愉快だ愉快!!」
「ぐえっ、どっ、うえっ」
吐きそうだ。
「どわっ」
本当に吐いた。吐いてしまった。
体から禍々しいほど青いインディペンデンス・ネイビーの血が流れ出る。
おいおい。あたしはどうしちまった。ここがあたしのデッドエンドなのか!?
いや、違うだろ。あたしはまだあいつに復讐してないだろ。殺しの福音を押してないだろ。そんな状態で死んでたまるか。なら、死なないために今何ができる!?
何をしなければならない?最善の手はなんだ!?
考えろ考えろ。いつも行き当たりばったりじゃだめだ。人生は苦難の連続なんだ。今までだってそうだったじゃないか。りゅうりゅうといるときはそうじゃなかったかもしれないが。そんなの一時だ。あたしにしたら流星程度だ。そんなもの数える程じゃない。でも、でもだ。悲しい。悲しいんだ。あたしの人生の幸福ってそんなやせっぽちなんだ!
「うえっ、うえっ。うえ~~~ん」
泣くなアルギノ。泣くんじゃない。泣いても何にも変わんない。
痛いのがなくなるわけじゃない。血なまぐさい現状に一筋の光が現れるわけじゃない。未来は自分で勝ち取るんだ。
だから今は泣くな。涙なんて安売りするもんじゃない。女の子の涙はけっしてそんなに安いもんじゃないんだから。
「そうだよね。泣いちゃダメだよね。今は闘いの最中なんだよね。だったら泣き止むべきだよね」
あたしは自分に言い聞かせる。泣いちゃだめだと。涙は勝ってから流すものだと。嬉し涙以上の喜びなんてこの世には一つもないんだから。
「よっしゃ!!やってやる。きなさいこの外道!!」
あたしは眼の前に映る自分自身の青い血を見ながら、決意表明のために敵に向かって牽制を贈るのだった。
▲
「ぐえっ、ぐおっ」
ここからはあたしが頑張る。
「そこだー・・ぐおっ」
痛い。
「こっちかー・・どごっ」
見えない。
なんでだ。なんで見当違いなんだ。これじゃだめだ。もっとだもっと。自分を追い詰めるんだ。そして追い抜くんだ。突き詰めたら最後まで行く。突破口が切り開ける。いや、切り開いて見せる。あたしは輝く未来を掴みたいんだ。そのために今は頑張るしかない。でも、ここを切り抜けたとして、あたしにとっての輝く未来って何!?復讐すること??そうだな。今はそうだろう。でも、それをやり遂げた後はどうする?一体あたしはどうなるんだ!?
いや、そんなことどうでもいい。今は闘いに集中しろ。邪念を捨てるんだ。そしたら勝てるはずだ。さっきまで追い詰めていたんだ。なんで今はあたしが追い詰められているんだ?血を吐くのはあっちじゃないか。あたしなはずがない。
だってそうだろ。あたしは水龍なんだ。海底に生きる伝説の龍の生き残りなんだ。その時点で勝利は約束されているんだ。
「あんなやつーー・・・あんなやつーー」
あたしは見えない敵を睨み付ける。
眼をこらせば見えるはずだ。敵はどんなやつだ。どうやったら勝てる?どうやったら打ち負かせる?考えるんだあたし。やめちゃだめだ。あきらめちゃだめだ。絶対後悔する。そんなこと起こさせない。起こるはずがない。これからの未来は自分で勝ち取るんだ。誰かがやってくれる。そんなんじゃなんにもできない。今もこれからも。
だからやる。あたしは勝つ。勝ってあいつに報いを受けさせるんだ。
それが今のあたしの野望。願い。思い。真意。生きてる証。ソーシャライゼ―ション。
何も失うものなんてない。怖れる必要なんかない。だってあたしはあたしなんだもん。あいつを倒すって思ってるんだもん。
「こんなところで死んでたまるか~~~~~~」
あたしは無我夢中で尻尾を勢いよく回転させ、ダイレクトアタックを叩きこむ。
やらなきゃ勝てない。見えなくてもあてることはできる。だってそれを教えてくれたやつがあたしに幸せをくれたんだ。その報いなんだ。あいつには相応の報いを受けてもらわないと気が済まない。だってあたしのこころを盗んだんだから。
「ぐちゃっ・・・どんっ・どんっ・どんっ」
竜宮の顔に敵の尾っぽがクリーンヒットする。
顔の骨が折れたようなものすごい音がしたあと俺は吹っ飛ばされた。
一・ニ・三・四・五・俺はどこまで飛んでいくんだ。終わりはあるのか。それとも・・・・。
俺の視界はそこで途切れ、その後も戻ってくることはなかった。