3、悪魔のささやき
「すいません。アルギノ様。私を許してください。こんなことしかできない私を・・・」
私には透明になる能力がある。いや、違うな。透明ではないな。周囲の環境に適応し、体の配色を変化させる能力がある。皆が知っている生物で言えばカメレオンやタコなどがそれにあたるだろう。そう、私はタコ。タコなのだ。
しかも伝説級の存在。通称クラーケン。海の魔物。船の天敵と呼ばれている存在。
そう、それが私なのだ。それが私なのだ。
これで皆もわかったことだろう。私が突然アルギノ様の前から消えられた理由が。
そして、あの時私のことをアルギノ様が覚えていない理由が。
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「りゅうりゅう~・・・りゅうりゅうや~い?どこにいったんだーい」
あたしは今日もりゅうりゅうを探して海の底を泳いでいた。
「・・・・ここだ~。・・・りゅうりゅうみっけ~・・・」
あたしはかくれんぼでもしているのだと思い、大きな生物の骨の後ろへ回り、一際大きな声をかけてみる。
「・・・・」
でも、そこには何もいず、返答もなかった。
あたしはふさぎこみ、途方にくれるように泳ぎ続ける。
「はぁ~」
こころも淀んでいるのか、ため息がこぼれる。
「りゅうりゅうがいないとつまんな~い。つまんないつまんないつまんない~~~~!!」
あたしは駄々っ子のように海の底で体を激しく動かす。
周りの水があたしの動きに押され、激しくなり、底にある砂が宙にまう。
「はぁーはぁーはぁー」
あたしは疲れて砂の地面に体を預ける。
「なにか起こらないかな~。・・・ねぇ~りゅうりゅう・・・りゅうりゅうだったらこんなときどうする?もし、あたしがあなたの目の前からいなくなったらどうする?」
あたしはまたりゅうりゅうとの思い出の中に浸る。
「ねぇ~、りゅうりゅう~、あなただったらあたしを探してくれる!?いなくなったあたしを必死になって探してくれる?・・・ねぇ~ねぇ~ねぇ~・・・応えてよりゅうりゅう~!!」
あたしはいつの間にか叫んでいた。
海の底であたしの叫び声だけがむなしく響き渡りる。
「はぁーはぁーはぁー」
でも、応えてくれる者は誰もいない。
もう、りゅうりゅうはいないんだ。もうあたしの愛するりゅうりゅうはいないんだ。もう・・・?
愛する?・・・愛って何?胸が痛いよりゅうりゅう。痛いよりゅうりゅう~。
これが好きっていう気持ちなの?愛ってこういうことなの?
「こたえてよこたえてこたえてこたえて・・・だれでもいいからこたえてよ~~~~~~~!!」
こころの声が徐々に声になって外へと漏れ出し、小さな声が大きな声へと変わり、それが叫び声になり、海の底に響き渡る。
それは振動となり、超音波となり、暗く淀んだ海底に響き渡る。
その声の音波をとらえた生物が音の主を探すために暗い海の底をゆっくりゆっくりと足音を忍ばせ、泳ぎ始める。
そいつは作者の目には見えなく、他の生物の視界をも素通りする。ましてや小さなプランクトンの目にさえも触れずに通り過ぎていく。
それはなぜなのか?なんでそんなことができるのだろうか?
それは単に相手の姿が見えてないだけだからだろうか?それともここが水中で陸上ではないということも関係しているのだろうか?
作者にはわからない。だって見えていないのだから。見えないものはしかたがない。見えないものをどうやってとらえるというのだ。とらえたところでどうやって言葉に現すというのだ!?
作者にはわからぬ。作者にはわからぬ。作者にはわからぬ・・・じゃあやめようこの物語書くの・・・
「ぺしっ」
「痛い」
「なんてこというんだ~~~~」
「痛いって痛いって痛いって・・・冗談だから冗談」
「本当にそうか?本当に?」
妖怪みたいな眼が私の眼を覗き込む。
私はその暗く淀んだ深海のような眼に向かって意を決し、誓いを述べる。
それは暗く日の光りなど一切通さない淀んだ海の底でも日の光りが届いたと錯覚してしまうほどの眩い誓いの光りだった。
「ああ~。神に誓って宣言する。私は死んでも絶対に登場人物達の声が聞こえるかぎり物語を紡ぎ続けると」
「・・・・よういったよういったよういった。あっぱれじゃ」
隣で物語の中から登場してきたと錯覚するほど巧妙に似た神の顔が、私の息もたえだえになった汗だくの顔を感心のまなざしで覗き込む。
「はぁ~。よかった」
私はその神の笑顔の幸せに満ちた顔を見て、安堵のため息をこぼすのだった。
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そんなことをしている間に、何者にも映らない生物が、砂の地面に横たわる叫びの声の主を見つけてしまう。
そいつはもうどうでもいい。というような感じですねてしまっており、砂の地面の上で側臥位になり、小さく丸まってしまっていた。
私はどうやって声をかけようか思案する。でも、老体で長年一人で過ごすことが多かったため、どう目の前の生物に声をかければいいのかわからないのだ。
「私はどうやっていたんだ!?いったいどうやって他の生物と話していたんだ!?」
姿の見えない生物には友達と呼べる生き物と話したことなど数えるほどしかなく、ましてや相当昔のため、どう切り出してよいのかわからない。
「コミュニケーションをとるとはこんなにも難しいものなのか。ましてや相手は初対面と来たものだ。どうやったらいいものか?う~ん・・・相手からしゃべってくれたらな~。そうしたらつなげることぐらいはできるのに。・・・いったいどうしたものかの~・・・」
姿の見えない生物は考える。暗い海の底で目的の生物を目の前にしているのに、その目的を果たすことができないもどかしさ。これをどうやって達成すればいいのか。そんなこと誰もわからない。誰にもわからないのだ。
なんでかって!?そんなのわかりきってるじゃないか。誰だって目の前の生物と話すときの最初の黙句には不安を感じるじゃないか。ましてやそれが初対面と来たら、不安だって倍増するじゃないか。そういうものだろ。コミュニケーションって。
姿の見えない生物は思案し続ける。あれじゃない。これじゃない。こうしたらいいんだろうか。こうきりだせばいいんだろうかと。
でも、時間は無情にも過ぎていく。誰も待ってくれない。悠長になど待ってはくれないのだ。
決断の時はくるのだ。そう思い、私は不安でつぶされそうなこころを必死でつなぎながらかぼそい声でゆっくりと言葉を紡ぐのだった。
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でも、実際そうはならなかった。なぜかって?それは~・・・目の前の人物が突然わめきだし、激しく身体を動かし始めたからだ。
私はそれを止めるのに必死で、気づいたら姿を消すのも忘れ、目の前の生物にみつめられていたからだ。
「おまえはいったい誰だ?」
「・・・・」
私はその異様なまでの殺気に恐怖し、鳥肌が立ち、一言も声を出せずにいた。
でも、相手が自分を殺そうとしてたらそんな悠長なことしてられないじゃないか。そう思い、私は意を決して声をかけるのだった。
「おまえのその殺気はなんだ!?言ってみろ。私がそれを取り除いてやる」
「・・・りゅうりゅう・・・・りゅうりゅう~~~」
「そうかりゅうりゅうというのかそやつの名前は。じゃあ私はりゅうりゅうに対して抱くお主の愛を殺意という殺しの憎悪に変えてやるとするかの~」
そう言うと、異様なまでのくねくねとした醜くオーカーな中にブラックの点々を灯した触手を目の前の生物の身体に這わせ、ゆっくりと包み込み、自身の躰に引き寄せる。
私はそやつの愛がはびこる原因に声をかけるためにブルーセレストの鱗をもつ生物の脳めがけてゆっくりと昇っていく。
「りゅうりゅう~・・・りゅうりゅう~・・・りゅうりゅう~~~~」
「つらいだろう。つらいよな~。その気持ちわかるぞ~。私も見捨てられたことがある。だからその気持ちがわかるのだ。
友に見捨てられるってどんなだ!?お主はそやつに対してどんな思いを抱いていた!?一体それはどんな思いだ!?私に話してみろ私に・・・」
「・・・・・」
私は待った。相手が切り出すのを待った。
なぜかって?私は知っているのだ。時には待つことも必要だと。私は老体だ。お爺さんだ。もう長くはないかもしれない。でも、それでも、今は待つのだ。待たなければならないのだ。だって私はそれを自分自身から学んだのだから。
それは言葉で表すと整理という。意味を表すとどうしても言葉は短くなる。
でも、その二文字の中にどれだけの言葉が詰まっているのか私は知っている。長年の人生の中で学んだのだ。だって私はお爺さんだから。みんなだって学校で学んだだろ。老人の言葉は聴くものだって。
だから私は待つ。ゆっくり悠長に待つ。海流の流れに身を任せるようにゆっくりと待つ。相手の気持ちの整理がつくまで。
ブルーセレストの瞳の輝きが増す。
待つ時間が終わったようだ。
もうそう長くはない。一瞬のときの狭間に私の思いは達成される。
「・・・・あっ・・あっ・・・」
ほらっ。やっぱり思った通りになった。
「こころの整理がついたようじゃな。ならそれを私に話してみろ」
私の肢体で包み込まれた生物が自身の輝きの増した瞳を一度閉じ、言葉を紡ぐための一瞬の間として、ゆっくりと深呼吸をする。
「はぁ~・・・ふぅ~~」
閉じていたブルーセレストの瞳を開け、ゆっくりと言葉を紡ぐ。その声は殺気に満ちており、何物にも代えがたい暗く淀んだ愛で満ちていた。
「りゅうりゅうを・・・りゅうりゅうをなくしたくない。もう愛する友達をなくしたくない。絶対に・・・」
「じゃありゅうりゅうをなくさないためにはお主はどうすればいいと思う?」
「りゅうりゅうを・・・りゅうりゅうを一生離さない。・・・・離さないためにはりゅうりゅうと一つになればいい。そうだ。一つになればいい。一つになればいいんだ」
「そうだ。お主はりゅうりゅうと一つになるんじゃ。それがいい。そのためにはどうすればいいかわかるの~」
「うん。わかってる。殺せばいいんでしょ。りゅうりゅうを」
「そうだ。りゅうりゅうを殺してしまえ。お主の手でもって殺すのじゃ。そうすればお主とそやつは一つになれる。お主の愛はそれでこそ満たされる」
「・・・・わかった。あたしあなたに従う。だからあなたの名前を教えて」
私のこころは決まっている。ここで間を置くべきじゃないと。だからすぐに身を固め、最適な言葉を脳に描き、端的な言葉で述べる。
短く最適な言葉を。
「・・・私の名前はゾイド。ゾイドという。他の生物からはクラーケンと呼ばれ、忌み嫌われておる。でも、私は今からお主だけは、お主の目の前でだけは救世主となることを誓おう。だから私の名前を覚えておくんじゃぞ。けっして忘れるんじゃないぞ」
そして、目の前の生物は決意を持った眼差しで目の前をみつめたまま姿の見えない私に忠誠を誓うのだった。
「うんっ。覚えた。ゾイド。ゾイドっていうんだね、あなたは」
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場面は現代へと戻り、ゾイドが消えたところから始まります。
「なんでなんでなんで・・・・なんでなのよ、ゾイド。ゾイドまでいなくなるなんて。こんなことが起こったのもあいつの性よ。あいつのせい。そう、りゅうりゅうのせい。あいつが現れたから。あいつが。でも、あいつに救われたのも事実だ。だからせめてもの償いにあたしはあいつを一瞬で楽にしてあげる。そうしないといけないと思う。りゅうりゅうのためにも、あたしのためにも、そしてゾイド、あなたのためでもあるのよ」
あたしの顔は涙でぬれていた。でも、ここは水中だ。生まれた涙はすぐに周りに溶け込み、見えなくなる。それはまさに今のあたしのこころのようだ。
「ゾイド。これは試練なのね。あたし頑張るよ。負けない。ぜ~ったいにまけないよ。りゅうりゅうにも、・・・・・りゅうりゅうの仲間にも」
そうあたしは意気込み、外へと繰り出す。
あのときあなたがくれた思い出〈おくりもの〉を胸に秘めて。ゾイドがくれた皆とともに。
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あのときあたしのこころは憎悪に満ちていた。今だって憎悪に満ちている。でも、あのときは今以上の憎悪で脳の中が満たされていたように感じる。
なぜなら、あたしは見つけたのだから。あなたのこころの断片を、あなたと最初に会ったあの場所で。
最初はあたしもまさかとは思った。でも、そこに落ちていたものを見て、確信した。あたしは正直言って驚いた。こんな偶然があっていいものかと。
だってそれはあのときあたしが毎日見ていたものだから。
それは砂の中に埋もれていたため、周りが灰色で包まれていた。
あたしはそれを手に取り、自身の眼に近づけた。
「・・・・なんだこりゃ?でも・・・・なんか見覚えがあるような気がする」
最初は何かわからなかった。
でも、周りについた砂粒を取り除くと全体を見ることができた。
それは紅くて全体的にキラキラときらめいていて、闇の中でも光って見えた。
「これは・・・・これは・・・・りゅうりゅう、りゅうりゅうのだ。やったー。やったよりゅうりゅう。みつけたよりゅうりゅう」
あたしは目的のものがみつかり、うかれにうかれまくった。
「りゅうりゅう・・・りゅうりゅう・・・りゅうりゅう~~~・・・」
でも、すぐに思い至った。現実を思い知ったのだ。想い生物はいないと。
それは想い生物ではなく、想い生物の断片だと。
そこからは連鎖だった。連鎖的に憎悪が膨れ上がった。
「・・・・でも、これは・・・鱗なんだよな。・・・・りゅうりゅう・・・りゅうりゅう・・・どこにいるのよ~~~」
あたしはいつしかまた叫んでいた。
それは届かない。けっして届かない切ない祈り。
愛とははかないものだ。切ないものだと。いつかは別れが来るとわかっていてもそれを求めてしまう。生物にとって愛とはそういうものなのだ。逃れられない運命なのだ。愛を求めるのは。愛を求めるのは。
「なんでなんでなんで・・・・」
あたしはいつしかなんでと繰り返し呟いていた。呟きながら涙までも流す。
「・・・なんであた・・あたしを・・おいで・・おいでいっだの?」
しかし、その問いは本人には届かない。けっして届かない。なぜなら本人はもういないのだから。
「・・・・りゅうりゅう・・・りゅうりゅう・・・りゅうりゅう~~~!!」
涙の叫びに憎悪が混じり、少しづつそれが大きさを増し、呼応するように声量も大きくなる。
大きくなり、声となったこころの叫びはどこに救いを求めるのかあなたは知っているだろうか?それは外だ。じゃあ外へと漏れ出したこころの叫びはどこへいきつく?ものだ。
そうなればもう誰ものにも止めることはできない。
あたしはいつしか手あたり次第にまわりのものを投げていた。
「・・・くそうくそうくそうくそう・・・くそう~~~~!!」
そのとき何かが見えたような気がした。でも、そんなこと今のあたしにはどうでもいい。今はものに当たりたいんだ。だってそうしないと・・・そうしないと・・・あたし自身があたしを殺してしまいそうなのだから。
「はあはあはあ・・・はあ・・・うっ・・なんだなんだなんだ!?いったいなにが起こった!?」
あたしが暴れつかれたすきをつき、何物かがあたしの体にまとわりついてきた。
あたしはそれがなんだかわからず、無我夢中で引きはがそうとするが、先程まで暴れていたため、思うように力がだせず、引きはがすことができない。
「なになに!?・・・う~ん・・・う~ん・・・とれない~~」
そいつはあたしの体にまとわりつき、どんどんと上へと昇ってくる。
「とれろとれろとれろ~~~!!」
あたしは叫び、出せる力を存分に発揮し、引きはがそうと躍起になる。でも、相手は吸盤のようにあたしの体にまとわりつき、いっこうにとれないのだ。
「なんでなんでなんで」
あたしはまたもやなんでと繰り返し呟く。
でも、とれないものはとれないのだ。なんでもくそもへったくれもあるはずがない。現実とはそういうものだ。これはあたしに現実をみろといっているのかと思った。でも、ことはそう簡単にはいかないものだ。
愛だの恐怖だの憎悪だのが渦巻いた今の感情では到底現実など考えられる精神状態じゃない。こんな中正常に判断できるものがいるとすればそれは・・・・それは・・・悪魔・・・悪魔だけだとあたしは思う。
正直言ってあたしは悪魔なんてもの見たことがない。でも、これはもうそうとしか考えられないのだ。
錯乱したあたしの目の前に現れ、あたしに呪いの言葉をかけてくる存在。もうそれは悪魔。悪魔としかいいようがないのだ。
でも、今はその悪魔をもあたしには天使に見えたのだ。なんでかって?
じゃあ、こう考えてみてほしい。あなたは今付き合っていた彼氏に別れの言葉を言われたとする。その後、あなたはバーに入り、勢いに任せて酒をあおる。酒をあおって我を忘れたあなたは手あたり次第にものを投げる。
そこへ一人の若い青年が現れ、あなたの腕を掴み、あなたを留めたとする。
そしてこうささやいたとする。
「つらいだろ。つらいよな。でも、俺だったらお前を助けられる。俺も応援するからお前の願い。俺に話してみろよ、俺に」
そう言われ、あなたは目の前の青年に彼氏との思い出と別れ話をされたことを話す。
それを聞いた青年はあなたの今の気持ちが知りたくなり、こうささやくだろう。
「お前はそいつをどうしたい?」
あなたならどういうだろう。
でも、答えはもう決まってるんじゃないかと私は思う。
だってお前は、何を捨ててまでも一緒になりたいと思った相手に捨てられたのだから。
そんな相手に捨てられた奴が、想い人をどうしたいかと聞かれれば、どう答えるだろうか。
「殺したい。もうめっためたに」
こう答えるしかないだろう。誰だってそうだ。誰だってそうなのだ。
そして、それを助けたいと思った青年が考え、こう答えたとする。
「じゃあ俺が協力してやる」
それが悪魔のささやきだとわかっていたとしても、けっして開けてはならないパンドラの箱だとわかっていたとしても、おまえならどうする。おまえなら。
たぶんこうするだろう。私だってたぶんそうするんじゃないかと思う。
だってあなたは何を捨ててまでも一緒になりたいと思った相手に捨てられたのだから。
「わかった。じゃあ一緒に殺そう」
これでわかっただろう。アルギノの今の気持ちが。
そう、そんな時にアルギノは悪魔のささやきを聞いたのだ。
「つらいだろう。つらいよな~。その気持ちわかるぞ~。私も見捨てられたことがある。だからその気持ちがわかるのだ。
友に見捨てられるってどんなだ!?お主はそやつに対してどんな思いを抱いていた!?一体それはどんな思いだ!?私に話してみろ私に・・・」
アルギノはまっくらな中考えた。
整理できない精神状態のまま泣きながら考えた。
でも、整理できないのだったら答えは決まっている。決まっているじゃないか。
「うん。わかってる。殺せばいいんでしょ。りゅうりゅうを」
そう、殺せばいいのだ。殺せば。悪魔のささやきという名のもとに天罰をくだすのだ。愛の想い生物に。
▲
「「「わーーー」」」
「「「ふゅーふゅー」」」
悪魔のささやきに対して自身が決意を固めたころ、どこかで歓声の沸く声がこだましていた。
「んっ?なにか聞こえるぞ?いったいなんだ!?」
アルギノは不思議に思い、歓声の正体を確認するためと声の出どころを探るために移動を始める。
「少しづつだが大きくなっているような気がするぞ。ということは近づいているということか?いったい何がこの先にあるっていうのだ!?」
アルギノは好奇心の赴くままに足を進める。
「いけ。早くいけ。大丈夫だ」
はやる気持ちに呼応するように心臓のどきどきも大きくなり、興奮が抑えられなくなる。
「なんだなんだなんだ!?いったいなんなんだ!?」
アルギノは自身の心臓の高鳴りにまかせ、歓声の出どころにどんどんと近づいていく。
「もう少し、もう少しなんだ」
歓声の声が大きさを増し、もう近くなんだということを伝える。
目の前の大きな揺れ動く海藻をどかし、好奇心の赴くままに身を投げ出す。
「んっ!?なんだお前は?」
ここはどこかの決戦場だろうか?二体の生物がにらみ合っている。しかもあたしを。
「・・・・?なぜあたしを?」
あたしはなぜ二人が自分をみつめるのかわからなくて、二人の真ん中で二人を交互に確認する。
一人はシルバーの細長く大きな体を持っていて、口から鋭い無数の牙を生やしている。とっても怖そうな生物だ。
もう一人は、大部分がブラックな生物で、尻尾から背びれにかけてがシルバーの生物で、見た感じサメに似ているような気がする。
「なになに!?二人は何やってるの!?」
アルギノは好奇心の赴くままに自身の瞳をキラキラさせながら当の本人どもに質問を投げかける。
二匹のうちの一人、サメに似ているほうがあたしのほうに近づいてきて、投げかけられた問いに答えるために口を開く。そいつの口からは、かわいい顔に似合わず、鋭い歯が何本も生えている。
「げっ。こわそー」
あたしは一瞬そう思い、距離を取るために後ろへ後退する。
「どんっ」
あたしは忘れていたのだ。もう一人背後に刺客がいたことを。
「・・・・ぎゃーーーー」
あたしは自身の恐怖を抑えることができなくて、悲鳴となってあふれだした恐怖が外界へとあふれだすのに身を任せる。
「眼がぎょろぎょろ動いてる。気持ち悪い」
「気持ち悪くて悪かったな」
「声も怖い~~~」
あたしは目の前の生物が発した異様に低くてどもる声に恐怖し、二人から離れるようにして距離を取る。
「どんっ」
また背中に何かがあたる。
アルギノはまだ恐怖が続くのかと思い、恐る恐る背後を確認するために体をゆっくりと回転させる。
そこには、
「・・・・・ぎゃ~~~~!!」
異様な目をした生物どもがあたしをみつめるグロテスクな映像が氾がっていた。