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馬を引く者  作者: 江鋼太値
馬を引く者                     第二幕 勇気
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8、試練

 星々の中飛んでいる無数の影、それが我らオニオオハシだ。我らは赤龍様の帰りを待ち、今日も夜空を彩る。しかし、我らの任務はそれだけではない。なぜなら食料調達も担わされているからだ。そう、我らは無数にいる。だから、探すのもたやすいのだ。

 だから今日も赤龍様のために食料調達に勤しむのだ。

 なぜ我らがそんなことをやっているのかというと、それは数日前に遡る。

 赤龍様とゲーテ様と我らオニオオハシが仲間の地、赤龍様の幼馴染がいる日本海溝に辿り着いた時、赤龍様がこんなことを言った。

 「ゲーテ、ここに今アルギノがいるのか?」

 「そうだ。ここにいる。しかし、おまえに協力してくれるかどうかはわからんぞ」

 「いや、協力してくれないわけがない。だって昔一緒に遊んだ仲だ。だからその友を助けるためなら力を貸してくれるはずだ」

 赤龍は後ろにいるゲーテに対して拳を握りしめたまま親指だけをたて、わしにまかせろのポーズをとる。

 「そういうがな、赤龍。そううまくいくのか?」

 「ならおまえが詠んでみろよ。おまえなら未来のこともわかるのだろう?」

 赤龍が答えを求めるように凛々しくゲーテをみつめる。

 「いや、今回は詠まんよ。詠むことで変えられる未来なら最初から詠んどるからのー」

 ゲーテは険しい顔つきを他の雲を用いて作りながら相手をみつめる。

 赤龍は背中を向け、勇ましく答える。

 「そうか、悪い未来が見えたか。でも、それを変えてやるのもわしらの使命だ。だから、ゲーテ、力を貸してくれ」

 「わかった。おまえの決意は固いようだな。なら、持ってけ、わしの仲間を」

 そういうと、ゲーテは赤龍の周りに雲を張り巡らせ、包み込んだ。

 ゆっくりとゆっくりと無数の雲に包まれていく赤龍様。私達はそれを見ていることしかできない。でも、我らも赤龍様の助けになりたい。だから、その雲に包まれる赤龍様に叫んだ。

 「「我らにも任務を~~。赤龍様~」」

 雲の層が厚くなっていき、赤龍様の姿が完全に雲で包まれ、見えなくなる。

 その中から赤龍様が声を発する。

 「なら、おまえたちには食料調達を命ずる。それならおまえたちでもできるだろ。俺が帰ってきた時は疲労困憊で疲れておるじゃろう。だから、たんまりとってこい。果物でも肉でも野菜でもなんでもいい。持てる分全てを獲ってこい。それがおまえたちの任務だ」

 「わかりました。赤龍様」

 「了解したぜ、兄貴よ」

 「おう」

 「頑張らせていただきます。リーダー」

 皆思い思いの言葉を発し、赤龍様を焚きつける。

 「ゲーテ、準備はいいか」

 「もう少し待て」

 「おいおい、そこはいいぞ、行ってこいって送り出す場面だろ」

 「そういいたいところじゃが、まだ時間がかかる。そうせかすな」

 「へいへい」

 そう言うと、赤龍様は静かになり、雲の中からの声が途絶える。

 ゲーテ様もそれに応じたのか、作業の手を早め、急速に雲を呼ぶ。

 雲が集まり、もう何も見えない程周りが霧で包まれる。我らは不安を覚え、霧を抜けるために上空へと上昇する。

 そうすると、分厚い霧を纏いし中枢に赤い鱗がほんの少しだけ見え隠れするのが見えた。

 だが、時が経ちゆくに連れ、それも見えなくなり、上空も厚く包まれたとき、ゲーテ様がそれらを集約するように雲を動かし始める。

 そうすると、今まで無数に広がっていた雲達が中心へと集まり始める。

 ゆっくりと中心へと向かっていくゲーテ様の仲間達、我らはそれを観照するしかない。でも、それが終われば我らも任務に着かねばならない。だから、我らは成功するように祈ろう。一心に祈るんだ。

 オニオオハシ達はゲーテ様に祈りをささげるようにゲーテ様の周りに集まり、羽と羽を交わらせ、大きな手のようなものを作り、一心に祈りをささげる。

 我らの行動に心打たれ、ゲーテ様は泣くか、頑張るかするはずだろう。でもそこで我らは目を開けてはならない。なぜなら、祈りが途絶えてしまうからだ。

 ゲーテ様が頑張る限り、我らも祈りを止めてはならないのだ。

 「が~んばれ、が~んばれ、が~んばれ」

 心の中で我らはゲーテ様に対して祈りをささげる。ゲーテ様の仕事が成功するように。一心に祈り続ける。

 「が~んばれ、が~んばれ、が~んばれ」

 それからどれくらい私達は祈り続けただろう。たぶんもう飛んでるだけでやっとのはずだ。でも、我らは赤龍様に助けられた身だ。だから赤龍様の助けになるのなら、我らは祈り続ける。祈り続けるだけだ。

 その想いが通じたのか、ゲーテ様の仕事が終わり、ゲーテ様が雲達に合図を送り、それが雲の中にいる赤龍様に伝わり、祈りをささげる我らオニオオハシ達にも伝わる。

 「終わった。終わったぞ。赤龍よ」

 「そうか、終わったか。やっと終わったのか。待ちくたびれたぞゲーテ」

 我らは祈りをやめ、ゆっくりと声の聴こえた方を振り向く。

 そうすると、そこには、分厚い雲を纏いし、霧の球体があった。

 そして、その中からか細いながらも我ら赤龍様のお声が聞こえる。

 我らは成功したことに喜びを隠すことができず、皆、感動の涙を真下に広がる海に向かって流し始める。

 「「うわ~ん。わ~ん、わ~ん」」

 無数の我らの泣き声が聞こえる中、赤龍様は、小さいが勇ましい声で、

 「行ってくるぞ、おまえ達」

 とだけ告げ、分厚い霧を纏ったまま海の中へと飛び込んでいった。

 

                         ▲


 そこからは我らは陸へと狩りに向かう部隊、海で魚を獲る部隊、赤龍様の帰りを待つ部隊、三部隊に別れ、赤龍様の帰りをゲーテ様と共にゆっくりとゆっくりと待つのだった。

そう、赤龍様の説得が通じ、赤龍様が幼馴染の方と一緒に海から顔を出すまで。


                         ▲


 「ここはどこだ?」

 私がゆっくりと目を開けると、目の前にご主人様の顔があり、

 「おっ起きたか」

 ご主人様が返事をする。

 膝の上から起きた私は、

 「ぎゃーー」

 奇声をあげる。

 「どうした?」

 「私の体が、体が・・・」

 自身の体を見て驚き、うろたえる。

 なぜ馬じゃない?

 「そうか。忘れているのか。昨日神とかいう変なじじいに変えられただろ」

 そうか、そういえばそうだったな。

 なぜそんな大事なことを忘れていたのだろう、私は。

考える。顎を掻きながら考える。しかし、考えてもわからないものはしかたがないので、結局考えるのをやめ、

 「まーいっかー」

 と思うことにする。

 「とりあえず今はこの体に慣れなければ」

 私は慣れるために体を動かす。立ち上がり、走り始める。

 思うように動けない。四本足で走るに走ろうとするのだが、いかんせん身長が以前と変わりすぎているため、足を思ったように動かせないのだ。

 「なぜだ。なぜなんだ」

 ご主人様が不思議そうにみつめ、

 「ゆっくりやればいいよ。僕も慣れるまで時間かかったから」

 「ゆっくり悠長にやっている暇はない」

 私は走るために懸命に足を動かすが、すぐにこけてしまう。

 「なぜ・・・なぜだ~~」

 私は膝をつき、地面を拳で叩きながら涙を流す。

 「うぅ~。ひっくひっく」

 ご主人様が私の潤んだ瞳をまっすぐにみつめた後、抱きしめる。

 慰めてくれるのか。家族だからなのか?

 私はご主人様の腕に抱かれながら泣き続ける。こんな私でもいいんだと。


                    ▲


 やがて私は泣き止み、ご主人様を振り払う。

 立ち上がり、一歩二歩と歩き始める。

 ゆっくり・・ゆっくり行くんだ。ご主人様が見ているんだ。

 私は己に言い聞かせながらゆっくりと歩を進める。

 前足を動かし、ゆっくりと後ろ足も動かす。

 「おっ・・おう」

 ゆっくりとだが確実に動かせている。

 今度はもう少し速くしてみよう。

 私は足の動きを速くする。

 一歩二歩三歩四歩。どんどんと前に動かす。

 しかし、すぐにもつれ、転倒してしまう。苦い。まずい。やはり土はまずい。

 私は手をつき、立ち上がる。

 「今は速くできなくてもいい。ゆっくりと慣れていけばいいのだから」

 私は自身へ言い聞かせる。ご主人様が待ってくれてるんだから。

 一歩二歩三歩。まずい。まだだ。一歩二歩三歩、まずい。四歩目が遠い。

 ゆっくりでもあまり長くは歩けない。私は足手まといだ。でも、ご主人様と私は家族だ。相棒だ。だから待ってくれているのだ。

 動かそうと思うな。自然に動くようにするんだ。

 私は自己暗示をかけるように足を前へと運ばせる。

 自然にだ。自然に。

 目をつぶり、ゆっくりと前へ進んでいく。

 「おーおー・・・歩ける。歩けてる・・・歩けてるぞ~~」

 私は歓喜し、叫ぶ。

 「うぉ~~」

 拳を天へと高くかかげ、雄たけびを上げる。

 「いっけ~。・・・行くんだ私よ」

 ご主人様が見てるんだ。恥なんかかきたくない。

 私はそれだけを思い、懸命に足を動かす。

 せめて走れるぐらいにはなりたい。そうしないとご主人様を運べない。・・・いや、今は馬じゃないし、運べないか。いったいどうすれば。

 私は考えながらゆっくりと前に進み始める。

 一歩二歩三歩四歩・・・。

 「どうすれば・・・どうすればいいんだ」

 頭の中で自問自答する。しかし、答えは浮かばない。

 「どうやれば・・・どうやれば」

 私は考えながら前に進み続ける。

 それを見てご主人様が、

 「おっ・・・お~・・・動けてるぞ。・・・歩けてるぞ」

 「えっ?」

 今は数えてない。自分でも動かそうと思って動いてない。自分の意志と関係なく足がかってに動いてるんだ。

 私はうろたえ、自身の歩いている姿を見て、驚愕する。

 「うぇっ。こっこれは・・・」

 私は目を疑う。こんなにも早く慣れるものなのかと。ご主人様もこうだったのかと。

 しかし、そう思ったのも束の間だった。すぐに転倒してしまったのだ。

 「どてっ。・・・うげっ」

 また土を食べてしまった。やはりまずい。まずすぎる。

 こんな調子で大丈夫なのだろうか?ご主人様は待ってくれると言ったが、本当にそれでいいんだろうか。

 私は一人考えるのだった。ご主人様に早く認めてもらうために。早く喜んでもらうために。

 「・・・・」


                         ▲


 「いてっ」

 またこけてしまった。なんでだ?なんでなんだ・・・。

 「おーい、飯にするぞ~」

 ご主人様の声が聞こえる。でも、今はもうちょっとがんばりたい。

 だから、

 「・・・まいてっ」

 最後まで言わせろ。

 「だからっ飯だって言ってるだろ」

 分かったよ。行くよ。

 私はご主人様に強引に腕を引かれ、連れていかれる。

 いいにおいがするぞ。これは・・・肉か?肉なのか?

 「豪華絢爛肉巻(ごうかけんらんにくま)きうどんだ」

 どういうもんだよ。肉巻きうどんって。

 「すいませ~ん。肉はあるんですが、うどんがありませ~ん」

 「いや、肉もうどんもあるぞ。ほらっ・・これっおまえの分な」

 「ありがとうございます」

 こいつらのコントはなんだ?てかっどっからでてきたんだ、おまえは?

 ご主人様の隣は俺の席なのに、なぜ知らない生物が悠長に横たわってご飯を食べているんだ?

 「あの~。あなたは誰ですか?」

 知らない生物が振り返り、立っている俺の体を観察する。

 「・・・作者だ」

 作者・・・作者・・・作者か。ならいいが、

 「それはなんの生物ですか?」

 「セメントクリティウスだ」

 セメントクリティウス?なんだそりゃ。

 私は意味が分からないので、とりあえず作者を観察する。

 顔が白くて触ると、

 「コンコンッいてっ」

 セメントのように固い。

 首も固いのか?

 「ぐにゅ・・ぐえっおへっおへっ」

 やわらかいな。蛇のようにやわらかい。

 だが、オレンジ色のトサカがあってうまくにぎれない。

 目が二つあるな。黒い点々みたいな目だ。

 口からは牙も出ているのか。たぶん白色なんだろうが、虫歯ができているのか真っ黒い牙が上からも下からも無数に生えている。

 体はもこもこした毛がいっぱい生えていて、そこから四本の腕と二本の脚が生えている。指はどちらも四本だ。長いもこもこした尻尾も生えている。

 それにしても器用だ。箸を使って器用に食べている。

 「あの~。歯は虫歯なんですか?」

 「いやっ黒いだけだ」

 元から黒いのか。黒い歯とはなんとも変なもんだな。

 あと・・・この食べ物はなんだ?ご主人様はどうやってこんなものを作った?

 肉とうどんを一緒に練ったのか、うどんの中から肉が見え隠れしているぞ。

 やわらかいのと硬い肉の感触が一緒に襲ってくる。なんとも異様な感触だ。けっしてまずいというわけではないんだが、せめて肉とうどんをわけてほしかった。そうしたら肉うどんになってもっとおいしかったのに。

 「う~ん・・・」

 「んっ?どうした?あんまり箸が進んでないぞ」

 私はジェラニウムレッドの器とにらめっこしながら考える。

 「なぜ肉とうどんをわけなかったのですか?」

 「単に鶏肉とうどんを混ぜてみたらどうなるかなと思っただけだ」

 おいおい、それだけで混ぜるなよ。でも、スープはおいしい。疑問だ。

 「スープには何が入っているんですか?」

 「味噌が入っていて、鶏がらで出汁を取っている。いやっ鳥の残った骨の部分を煮た中に味噌を入れただけだ」

 いやっ意味同じだから。まーおいしいからいいんだけど。

 私はスープとうどんを一緒に流し込むようにして食べる。そうするとスープだけの味しかしなくて、うどんの感触をあまり感じなくてすむ。でも、結局噛まなきゃいけないんだからあまり意味ないんだけどな。まー喰えるからいっかー。

 「どうだ。ちょっとは歩けるようになったか?」

 「まーぼちぼちです」

 「ぼちぼちか」

 夜風が気持ちいい。星が綺麗だ。あの星はなんていう星なんだろ。そしてここはどこなんだろう。わからない。でも、明日は今日よりももっとうまくなっているといいな。

 そんなことを思いながら私はスープをすすり続けるのだった。

 やはりこのスープはうまいなー。



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