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馬を引く者  作者: 江鋼太値
馬を引く者                     第二幕 勇気
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5、闇の世界の戦争

 「ごめん、ごめん、ごめんなさい。今度はちゃんと、ちゃんと立ち上がるんだ」

 馬を引く者は仰向けに地面に倒れたまま自我(おのれ)に言い聞かせる。自分を奮い立たせるために。

 「自分は弱い。でも、永遠に弱いままじゃだめだ。それじゃいつか仲間を友を死なせてしまう」

 馬を引く者は自我に鞭を打ち、よれよれになった精神を奮い立たせて立ち上がる。

 そして、仲間を助けるために困難に立ち向かう。

 

                               ▲


 「来たか。待ちくたびれたぞ」

 闇影はゆっくりと躰を起こしながら告げる。

 「はあ、はあ」

 「おう?戦う前から疲れているとはまた・・」

 「疲れてない」

 馬を引く者は闇影の言葉を断ち切るかのように自我に言い聞かせる。

 「ほう。では、第二回戦(だいにラウンド)と行こうかのー」

 「臨むところだ」

 馬を引く者の(ひとみ)が紅く染まり、敵を睨みつける。

 「いい()じゃ」

 二人は動かずに互いを見詰めあい、攻撃の機会を覗う。

 互いを見詰め、睨みを利かせあう。それは永遠かもしれない機会(とき)の謀り合い。

 彼は待つことにしびれを切らしたのか?唐突に前へと飛び出す。

 「へっ。血迷ったか?」

 闇影は敵の攻撃(でかた)を観るためにその場で立ち止まる。

 「もう負けない。負けたくない。そのために強くなる。強くなりたい」

 誰もが願うこと。強くなりたい。それは誰のこころにもあることだ。

 でも、それを自覚しなければ強くはならない。だから彼は自覚し、自我に言い聞かせる。

 「自分は強い。強い。強くなければいけない。誰にも負けないくらい」

 拳が彼の思いを聴き届けたのか、紅く染まる。紅く染まった拳を一気に突き出し、第一撃を解き放つ。

 しかし、闇影はそれを読んでいたのか?ひらりと躰を捻りながら左に()け、左手に持った小刀で頭部を突く。

 「痛い。血が、でも動じない。動じないんだ」

 馬を引く者は咄嗟に右手で頭部を護り、致命傷を()ける。

 「これは予想してたかな?」

 馬を引く者は不敵な笑みを浮かべ、右足を突きだし、敵をこかしにかかる。

 闇影は反応できずに前につんのめり、地面に両手をついてしまう。

 馬を引く者は自我の勝ちを確信し、雄たけびをあげながら指をからめ、交わらせた両手拳を敵の背中に勢いよくふりおろす。

 闇影に絶体絶命の窮地が忍び寄る。だが、それに動じることはなく、冷静に左手を勢いよく動かし、敵の右足に切っ先を突きたてる。

 馬を引く者は痛みをこらえ、瞳から涙をこぼしながらも敵の背中に渾身の一撃を振りおろす。

 「ドゴンッ」

 地面が割れる程の大きな衝撃が闇の世界全体に響き渡り、

 「ぐわっ」

 闇影が自我の口から血反吐を吐きだす。しかし、それでも闇影は気絶せず、自我(じが)を奮い立たせ、ゆっくりと立ち上がる。

 「はあっ、はあっ、はあっ」

 「もう死にそうではないか?さっきの威勢はどこへいった?」

 立場が逆転したからか?馬を引く者は有頂天になり、敵を蔑む。

 「それはこっこっちのせっせりふだ。げほっ」

 闇影はしゃべるのも困難なのか?しゃべりながら血を吐きだしている。

 「では、いくぞ」

 「おうっ。遠慮はいらん」

 「そんなものするか」

 馬を引く者は敵を一気に叩き、楽にさせてやるために己の力を溜め込み、紅く染めあがった拳を走りながら敵へと向かって、一気に解き放つ。

 馬を引く者のモーションが大きすぎたのか?それとも単にまだ力が残っていただけなのか?どちらかはわかないが、闇影は拳を()けるためにその場でしゃがみ、左手に持った小刀の柄の先の丸い部分で敵の腹に最期の一撃を叩き込む。

 「それは、なぜっ・・」

 馬を引く者は口から唾を吐きながら気を失い、闇影に覆いかぶさるようにして倒れ込む。

 また、闇影も躰が悲鳴をあげ、痛みに耐えかねたのか、そのまま気を失ってしまう。

 闇を保っていた闇影が倒れたことにより、闇の世界が平静を失い、崩壊を始める。

 闇一色に染まった闇の世界から闇が剥がれ落ち、一筋の光りが差し込む。

 それは闇影の闇に染まってしまったこころのようだった。

 闇がゆっくりと剥がれ落ち、徐々に闇の世界に光りが満ちていく。それに従い、闇影の躰がゆっくりと光りに包まれていく。

 それは闇に染まってしまった優子のこころの闇を彼らが戦うことによってとっぱらってくれたからかもしれない。

 「もう生きなくていいんだね。私はもう安らぎを求めていいんだね」

 彼女は気を失いながらも自身の(ひとみ)から一筋の涙をこぼす。

 その涙が最期の(ひと)欠片(かけら)となったのかはわからないが、それにより、彼女のこころを染めていた闇が取り払われたのは確かである。

 「ありがとう、ほんとうにありがとう」

 それが優子のこころに刻まれた最期の言葉となり、闇が消えた瞬間、優子の躰も光りとなって天に召されてしまったのである。



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