2、オニオオハシの大群
「おー着いたか」
赤龍は茶色い土の地面に着地し、そう答えます。
「ここがそうなのか」
赤龍の背後の上空にいるゲーテが、他の雲を使い、腕を組みながら、難しい表情で答えます。
その問いに赤龍は、自身の頭を右手でぽりぽりとかきながら答えます。
「おまえはわかっててそれをいってるのか?それとも」
赤龍の赤い顔がもっと紅く染まり、色鮮やかになっていきます。
これは、彼がイライラしている証拠だということはゲーテも知っていますが、あえてここは、
「さーて、それはどーかなー?」
とあかちゃんに問いかけるようなかわいい声を出しながら疑問の声を投げかけます。ゲーテは、赤龍とは反対の方を向きながら、目を合わせないようにし、そっぽを向いて、口の部分には、他の雲を使い、口笛を吹いているような恰好をしています。
これは相手をばかにしているととっていいのでしょうか?作者はそう思いますが、読者はどう思うでしょうか?
「あっはい、読者に問いかけるなと」
「じゃあゲーテさんにつないでみましょう。ゲーテさーん」
「はいこちらゲーテです。おかけになったゲーテは、今現場を離れているため、おつなぎできません」
と自身の耳のところに受話器なるものを他の雲で造りながら答えるゲーテ。
「あのー喧嘩うってるんですか」
作者もきれてきたようです。頭の右上にイライラのマークが点滅しています。
「おまえらー、いいかげんにしろー」
赤龍が突如、二人の間に乱入し、ままごとなるものをしている二人の頭上に向かってげんこつをくらわせます。
「いたいよー」
ゲーテは痛くないですが、赤龍のために痛いような表情(他の雲を使い、目から涙を流している表情)をしながら、二人は涙目のまま、二人をものすごい憤怒の表情で睨みつける赤龍をみつめます。
もうこころがへしおれそうです。作者は、ひっくひっくと泣きながら、身体を低くし、お腹を抱えるようにうずくまり、恐い形相の赤龍殿を目にやけつけまいとします。
そんな二人の様子を見て、赤龍は、数センチ自身の身体を空中に浮かせ、背中の方が赤い鱗でおおわれ、内側に薄い朱色の色が全体に塗られた羽を左右にゆっくりとばたつかせながら、両腕はがっくりしたように肘をV字型にまげ、手は水平方向に開いています。顔もがっくりしたように暗く沈んでおり、眼も閉じています。
「やれやれ」
閉じた目をゆっくりと開きながら思い、
「ほら、いくぞ」
もう一度二人の頭上にげんこつを、今度は軽くうながすように力を込めずに振りおろします。
▲
「んっ、どうしたの?」
と問いかけるゲーテ。
ゲーテの方を振り返らずに、片手を上げながら、
「だから、いくぞって」
と声を少し荒げながら言う赤龍。
「ほーい」
不満そうな顔をしながらも他の雲を使い、頭を掻くような仕草をしながらついていくゲーテ。
「でも、それももうなれたけどな」
「んっ?なんかいったか?小さすぎて聞こえなかったが?」
あせりながら答えるゲーテ。
「なんも言ってないけど」
「そうか、ならいい」
と一瞬首だけ動かしながらも、また前を向き、歩き始める赤龍。
「やべー、声にだしてたのか?」
と思いながら、少し冷や汗をかくゲーテ。
二人の間に沈黙が流れる。森の木々に反響し、鳥達のせせらぎが聞こえる。
「ぴーぴーぴーちくぴー」
「なんだかなごむなー赤龍」
鳥のかわいい鳴き声を聴き、そう呟き、周りを見回しながら赤龍の方を垣間見る。
赤龍がふと足を止め、それを境に何かをかみ砕く音が聞こえる。
「これは骨か」
小さいながらも骨をかみ砕くような音が周囲に聞こえ、それを不審に思ったゲーテは、速度を上げ、赤龍の前に回りこむ。すると、そこには、小さな黒い鳥のような物体を銜える赤龍がいた。
「腹減ったのか?我にもくれないか?」
「んっ?おまえも喰うか?てかくえないか」
と言いながらも、笑顔で右手にもう一匹隠し持っていた小さな赤い鳥を差し出します。
ゲーテは、眼の前にある赤龍の赤い鱗のはえた大きな手の中の小さな物体を見ながら、
「てか喰えないのを知りながらも差し出すのか」
「わりぃ、冗談冗談」
笑いながら、手を引っ込めながらも、
「おまえがいったからだろ」
と小さく渋きます。
「そっそうだな」
と冷や汗をかきながら、何かつぶやこうとし、
「そうだろ」
と力強く呟き、ゲーテのセリフを取り、眼の前に漂うゲーテを叩こうと腕を振り上げ、軽くたたくが、そのまま通り抜けてその通り抜けた自身の手を手の平を開いたまま見て、
「そうだよな」
と思いながら、冷や汗をかき、その冷や汗のかいた赤龍を驚かせてやろうと、
赤龍にわからないように素早く後ろにまわりこみながら頭上にあがり、狙いをさだめ、雷を落とします。
「ぎゃーーーーーーーー」
と黒こげになりながらも、その痛さをまぎらわし、
「このやろー」
と言いながらゲーテに飛びつこうと勢いよく足で地面をけります。その顔は、笑顔にあふれており、笑っています。
その笑った顔を見て、ゲーテも捕まるまいと、やっきになって赤龍から逃げる。
「できるもんならつかまえてみろー」
「いったなー、おーし、意地でもつかまえてやるー」
頭上にいる逃げるゲーテを見ながら、笑顔でそう呟きます。
「あのーそれはいいんですが、なんか目的忘れてないー」
と頭上ではしゃぐゲーテと赤龍を見ながら、そう呟く作者。
「あはっ、はははは」
▲
世界には笑顔があふれている。笑顔があればそれだけでことたりる。あとはなにもいらない。そう笑顔こそが生物の大きな生きる希望となるのである。
笑うということはいいことである。それだけを糧としていきている生物も存在しているかもしれない。でも、それだけでは生きていけないのも事実である。でも、このとき、今このときを楽しもう。だって、今のこの瞬間は二度とやってこないのだから。
作者の頭上には、はしゃぎ続けるゲーテ達がいた。作者は、頭上を見上げ、首を痛がりながらも、声をかける。
「おーい、もうおわりにしなーい?」
「やーだ。てかっそんな権利おまえにないだろ」
と笑いながら答える赤龍に、
「ちっ。しゃらくせーんだよ。笑うな。赤龍、おまえに笑ってる顔はにあわねー」
とつばを吐きかけるような声で、威嚇の赤い眼光をもって鋭く赤龍をにらみつけます。
「なにをー、我らに喧嘩を売るっていうのか。お主にそのような度胸があるのか?」
と疑問の顔と威圧をかねそなえた声を放ちながら作者をみつめます。
ゲーテは、頭上の一か所で止まり、他の雲を使い、胸の前で腕を組むような恰好でただよっています。
ゲーテは、作者を倒そうと逃げるのをやめ、猛スピードで地上に向かってきます。
あたりには強風が吹き荒れ、立っているのもままならないほどです。
作者は、強風に負けまいと、足を開き、内側に両足を曲げ、足で地をしっかりとつかみ、とばされまいと足に力を込めます。
その力により、地面に比重がかかり、地中に沈み込みます。沈み込んだことにより、よりしっかりと地面を掴むことができるようになった作者には、もう飛ばされる心配はなくなり、向かってくるゲーテを全神経を持って迎え撃つ準備が整いました。
ゲーテと作者の距離は徐々に縮まっていきます。作者は、身がまえようと、腕を大きく広げ、自分が大きいことと相手の技を力を持って押しとどめるために臨界体勢に持ち込みます。
両者の眼から黄色い火花がちり、鋭い眼光を持って睨みあいます。
もう衝突まじかです。
そこに突如として、猛スピードでなにかが急接近し、二人の眼の前の間合いに侵入してきました。
そやつは、赤い鱗をもった両腕を両方向に肩の位置まで腕をのばしたまま上げ、体勢を横にしたまま二人を止めるために、互いの顔の前に自身の手を開いた状態でかざします。
「やめよ。今は争うときではない。ゲーテよ、お主が怒りを覚えるのもよーくわかる。だが、お主がここであばれれば、大陸が吹き飛びかねない。
そして、作者よ。お主もあの言葉はあかんかったのー。あれでは、ゲーテの怒りをあおっているも当然じゃ。
じゃからここは、わしの顔をたてて、両者があやまるということでこの場をおさめてはくれぬか」
と願いのこもった眼差しと言葉で二人の顔をみつめます。
その赤龍の言葉が通じたのか。作者とゲーテがみつめあい、一瞬互いの目線をあわせ、こくりとうなづきあいます。そして、両者は互いに距離をとるために後ろにさがります。
ゲーテは、少し頭上にあがり、作者は、後ろ歩きで身体を後ろにいざることで互いに距離をとります。
両者がみつめあいます。そこに一瞬の静寂がおとずれます。
その静寂の中そよかぜだけが二人の頬をやさしくたたきます。それにより、互いの意思がかたまったのか、両者互いに笑みを浮かべ、そのまま互いに近づいていきます。
徐々に互いの距離が近くなり、もう二人を阻めるものはなにもありません。
赤龍は、二人から距離をとり、少し後ろで地上に足をつけたまま背筋を伸ばし、胸の前で腕を組んだ恰好でその候景を見守ります。
二人の腕が伸び、がっちりと掴み、握手を交わします。
仲直りの握手です。二人とも笑っており、顔は笑顔であふれています。
風もそれを祝福しているのか、二人を包みこむようにゲーテと作者の周囲に突風を吹きあらせます。
そして、それを見た赤龍は、腕を組んだままこころの中で、よかったよかったとうなづきながら呟きます。
▲
その二人の中を裂くように突如として何かの黒い群れが飛び込んできました。それは、彼らの握手を起点にし、彼らを包み込むように飛んでいます。
赤龍は、眼の前に飛来してきた群れをもっとよく見ようと、二人の真上に飛び上がります。
赤龍は、真上から眼を凝らし、それを見降ろします。
それは数字の八の字を描くように飛んでいます。それは一見したところ二人を包み込み、二人を狩り取ろうとしているようにも見えます。しかし、赤龍がみたところ、そうでもないような感じです。
なぜなら、それらは彼らの周りを廻っているだけで、いっこうに襲ってくる気配がないからです。
赤龍は、その真相を探るために真下に急降下し、飛んでいる何かを掴み、また真上へと戻ってきました。
赤龍は腕の中にあるものを確認します。それは、黒い鳥でした。
黒い鳥は、特徴的なオレンジのくちばしを起点にする黒い羽を身体に纏った鳥のようです。大きさは赤龍の手の中の周りに充分な余裕を持たして収まるくらいです。
首の所は白く、翼は黒いです。赤龍は、もっとよくみようと、もう一方の手を使い、手の中にいる生き物を壊さないようにゆっくりと翼を持ちあげます。内側も黒いようです。
その毛はとても柔らかく、中に血が通っているのか、少し温かみを感じます。それがもう赤龍にとって絶妙な肌触りを醸し出すものですから、赤龍の身体中の体温が一気に上がり、腕のスピードが格段に速くなります。もう手の中の鳥をなでる腕の動きを眼で追うことができません。
赤龍の手と鳥の羽がものすごいスピードで擦れ合い、摩擦が起こり、手の中で火花が散っています。
すると、その火照った身体の異変に気付いたのか、突如赤龍の手の中にいる物体が動きだしました。弱弱しく身体を動かし、急激に上がる体温を止めようと必死にもがき、手の中から抜け出そうとやっきになっています。黒い鳥がやっきになったせいでますます摩擦スピードがあがり、体温がどんどこと上昇していきます。しまいには、手の指の間から火まで上がり始めます。
赤龍はその異変に気付き、なでるのをやめました。でも、一度燃え上がった火の粉を消すことなどできなく、無情にも赤龍の手の中の物体は炎に包まれたまま黒い身体を一層黒くし、黒こげになっていきます。そして、その黒い燃えカスは最後に
「あ・い・た・かった・です」
と弱弱しく呟くと、息をしなくなりました。
そこに水滴の雨が二人を包み込むように降り注ぎます。
その雨に打たれ、徐々に炎が弱まっていき、火がゆっくりと消えます。
すると、もう死んだと思っていた手の中の生物がゆっくりと動きだしたではありませんか。その行動を奇妙に思い、赤龍は開いていた眼を一層大きく開き、眼を丸くしています。
赤龍の真上には、ゲーテが呼んだのか、白い雲が上がっており、そこから水滴の雨が流れつづけています。それは、二人の再会を祝福しているかのようです。
赤龍の手の中の生き物はそのゲーテの願いの雨に打たれ、どんどんと身体の色を取り戻していきます。その候景は、奇妙で眼を疑うばかりです。
黒い鳥は、赤龍の手の中で小さな黒い身体を起こし、上を見上げます。
二人の眼が合いました。二人は、会えたのを喜び、祝福しあう同志のようにみつめあいます。
その候景を見ていたゲーテは、
「ふうっー」
と一息息を吐くと、こころの中で、良かったと思い、他の雲を動かし、自分の額の汗をぬぐうように腕を作り出し、額の汗をぬぐいます。
彼ら(ゲーテ達)の周りには、二人の再会を祝福する同志達が二人を包みこむようにまっています。
そして、それらは突如として、周るのをやめ、真上に飛んでいったかと思うと、一層温かく再会を喜び合う同志のように、二人(赤龍達)を包み込み、黒い幕で覆い隠します。
そして、それをみはからい、中にいる者達が中にいるものにだけ聞こえるように再会を喜び合う同志として、声をそろえ、
「おかえりなさい」
と子供のように明るい声で呼びかけます。
それは、赤子が帰ってきたのを明るく包み込むような太陽のほほえみを感じさせてくれました。
「ただいま、オオハシども」
▲
「あのー。作者さん?」
「んっ?なんだ解説者?」
と顎の下に片手を開いた状態で添え、首を右に少し傾げながら耳を傾ける作者。
その返答におずおずと問いかける解説者。
「えっとですね。作者さん。黒い鳥が生きていたというか、まだ死んでなかったことはわかるんですが・・・」
「わかるんですが?なんだ?もったいぶらずに話せよ」
問いかけに、頬を右手で掻きながら木の板のフローリングにあぐらをかいた状態で座ったまま考え、意を決して問いかけます。
解説者は凛々しい声で問いかけます。
「なんで身体の色が戻ったんですか?」
作者は床に胡坐をかき、考えるときのポーズ(顎の下に片手を握った状態で置き、顎のラインにはわせるように人差し指をのばしたポーズ)のまま答える。
「戻ったというのはおかしいな。色が剥げたといったほうが正しい」
「色が剥げた?」
こころの中で問いかけ、
「どういうことですか」
作者に解説を求めるように問いかけ、作者の身体にせまり、覆いかぶさるようにはいはいの状態で作者にせまります。
作者は解説者から逃げるように少しづつ両手の手の平を床にはわせるように後ろへ移動させながら足の力と腕の力を使い、後方へといざっていく。
「ごんっ」
無情にも後方の壁にぶちあたり、もう逃げられないことを作者に告げます。
解説者は、それを好機と見逃さず、作者の身体を自身の身体で覆いかくすように覆いかぶさります。でも、作者と解説者の身体の間には隙間がしょうじているため、肢体は触れ合っていません。
「答えてください」
簡潔に低い声色を持って命令口調で問いかけます。
作者は、額に少し汗を浮かべながら答える。
「す・す・が・と・れ・た」
「ふーんそういうことだったのね」
かわいい顔をしながら考えることは怖いわよというような感じで、不敵な笑みを浮かべながら呟き、作者の肢体に腕を伸ばします。
作者は震え、悲鳴をあげる。
「わはっ、わはっ。わはははは」
悲鳴じゃない?笑っている?地の文は書いたが、作者が悲鳴ではない声をあげたため、疑問を浮かべます。
「こちょこちょこちょこちょこちょ」
「わはっ、わはっ。ちょ、わはっ、ちょっとやめてよ」
と涙をうかべながら拘束を解くように懇願します。
「やめない。やめないわよー。これからが本番よ」
と言って、もっと作者を笑わすためにこちょこちょの手を速めます。
「わはっ、わはっ。わはははは」