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スグルの異世界書紀  作者: 光 煌輝
第一章 異世界での目覚め
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第六頁

 翌朝を迎え、俺はメグルに起こされた。

 夜も魔物やらの危険はなくならないため、二人で見張りを交代しながら眠ろうと提案したのだが、俺の出番は一回しか回ってこなかった。

 一晩中、メグルが見張っていてくれたのだろうからだ。


 悪い気がしてならない。

 けど、儀式の事を考えるとメグルにとっては手伝わない方が良かったのかも知れないな。

 昨晩は小さな木の実やらと碌なものを食べていないから、腹が減って仕方がない。服も、血が付いたままで汚いし生臭い。メグルの笑顔以外は最悪な寝起きだった。

 ただ、寝起きに見るのが俺の顔であるメグルの方が、より最悪な朝だろうけどな。


「大丈夫ですか? 行きますよー」

「ああ……」


 俺とメグルは泉を後にした。

 再び森の中へと入って行く。


 メグルによると、とりあえず今日中にはこの森を抜けることが出来るそうだ。

 やはり森の中は薄暗かったが、日の暮れかけていた昨日と比べれば、視界も悪くないし、道なき道を行くにしてもそれほど苦ではなかった。

 途中、森の中で見つけた果実は当たりはずれがあったりして、腹を満たしてくれるほどの物ではなかった。

 でも、渋かった時はお互いに顔をしかめたり、美味しかった時は喜んで食べたりと、そんなことが楽しかった。


 今までの俺は両親が世間的に見ても良い職に就いているということもあって、それなりに良い食事を食べてきた。

 だが、そのどれもが美味いと感じたことはなかった。食事中だって一言も交わさないしつまらなかった。マナーや行儀なんて言われればそれまでだが、それにしても味のしない食事だったよ。

 それに、調理された料理しか口にしたことのなかった俺は、もいですぐの果実を口にするなんて思わなかった。


 せめて水洗いでもしないと汚いだろう。

 虫でもついてるんじゃないのか。

 そんな気持ちがあった。

 いくら可愛いメグルが差し出してくれるからって、その気持ちは拭えない。実際、俺の衛生観念は間違っていないはず。

 だが、食べ物をそのまま食すことによって、有難みというか自然への感謝というものを感じることが出来た。慣れたのか、あっという間に嫌悪感もなくなっていった。

 食べなければ死んでしまうということもあったからな。


 そんな生活を送りながら、草木をかき分け、俺達はやっとのことで森を抜けることが出来た。

 そこには、またしても広大な草原が広がっていた。これからどれだけ歩くのかを想像すると嫌気がさしてくるが、あんな薄暗い所と比べれば断然ましだろう。


「魔物に合わなくて良かったです。これなら、今日か明日には村に着きそうですよ」

「そうか」


 メグルの村というのはどんなところなんだろうな。

 こうした草原にあるのだとしたら、遊牧民的な暮らしをしているのだろうか。それとも、もっと先の別の場所に村は存在するのだろうか。


 俺は様々な想像を膨らましながら、メグルの後を歩いていた。

 歩いていると、ふとメグルが足を止めた。


「見てください」


 と言って、ある方向を指さしている。


「どうした?」


 見ると、メグルは遠くの方を指さしている。


 空?

 見上げて俺は知った。


 この世界の空はただ青いだけじゃない。もちろん、主となる色は青なのだが、空全体が虹のように、うっすらとした七色を帯びていたのだ。


 となると、ここは地球上ではないのだろうか。

 いや、オーロラが昼間に見える地域なのかもしれない。もっとも、そんな場所があるなんて話は聞いたことも無いが。


「綺麗だな。空」


 俺は素直な感想を述べた。

 だが、メグルは首を振った。


「違いますよぅ。私が指さしてるのはあれです」


 どうやら、メグルは俺が見ている景色よりもう少し下の方を差していたようだ。

 俺は、視線を落とす。


「山?」


 七色の空の下には、草原を壁の様に囲み連なった山脈が見えていた。

 しかし、一見するとただの山の様だ。七色の空の方が、俺にとっては物珍しい。


「山がどうかしたのか?」


 訊くと、メグルは指さしていた腕を下ろし、山を見据えながら語った。


「私、この儀式が終わったらあの山の向こうに行きたいんです。山の向こうには見たことのない世界が広がっているそうなんですよ。海という、おっきな泉もあるみたいなんです。私、その全てを見たいって子供の時からずっと思ってて……」


 メグルの夢というやつか。

 なんの夢も持っていない俺からしたら、成し得たいことがあるというのは羨ましい限りだ。


「見てくればいいじゃないか。あの向こうに何があるのかをさ」

「はい! 私、頑張ります!」

「そのためには、儀式を早く終らせて大人にならないとな~」


 俺は、少し子供扱いするように言ってみた。

 すると、メグルはあからさまにむっとする。


「そういうスグルさんはどうなんですかぁ~?」

「どうって?」

「今、いくつなんです?」

「俺、十七だけど」

「ええっ!? そうなんですかぁ!? 私より年上だなんて……」

「あはは! そうだよ。メグルは俺より一つ下なんだぞ?」

「全然見えないですね!」

「え……」

「なんかこう、子供っぽいので年下だと思ってました」


 子供っぽいって……。

 メグルは、目を真ん丸にして覗きこんでくる。


「それじゃー、スグルさんはもう大人なんですね」

「いや、どうかな? まだ大人と子供の間だと思うけど」

「間なんてあるんですか? 子供と大人の間ってなんていうんですか? 大共ですかね?」

「青年じゃないかな?」

「へえ、初めて聞きました。私の村の外では、儀式なんかしなくても大人になれるって聞いたことがあるんです。だから、スグルさんもそうなのかなって思ったんですけど」

「俺は違うよ」


 この世界の人間じゃないからな。

 メグルは俺から離れると、歩き出しながら言う。


「それなら、年上でも私とあんまり変わらないんですね~。儀式終ったら私が大人で、スグルさんは子供ですし。ふふっ」

「なんか嬉しそうだけど。どうして?」

「私の方がお姉さんだからですかねー」

「いや、でも俺の方が年上だからな」

「そうですね。それでもいいです。でも、そうやって張り合うところが子供っぽいですよぉ~」

「うぐっ……。痛い所をついてくるな……」

「ほら、行きますよ~! 出来るだけ早く村に戻るんですから!」


 メグルは草原を走り出していた。


「あっ! 待ってくれよ!」


 いつしか夢を持たなくなった俺だったが、夢を見ることはしばしあった。

 そのどれもが空を飛ぶ夢だ。

 きっと、自分の気が付かないうちに俺は自由を求めていたのかも知れない。そして、この世界がそんな俺に与えられたものだとするならば、俺は夢を手にしたということなのだろうな。自由になれたのだから。

 だが、叶った夢は一体どうなる?

 見続けるから夢なんじゃないのか。

 しかし、覚める夢というものもある。

 覚めたら、それは夢を失うということなのだろうか?

 今の俺は、夢を見ている状態なのだろうか?

 じゃあ、いずれは覚める?


 いや、そうではない。仮にそうであっても、俺はこの夢の中で何かを得た。

 そう。それは夢だ。

 メグルが俺に夢を語ってから、俺は何だか夢を持ちたくなった。見たいのではなく、持ちたいんだ。何らかの目標としての夢を。

 夢から覚めたいんじゃない。抜け出したいんじゃない。

 夢に向かって突き進みたい。

 もしかすると、その夢というのは今俺が追っているメグルなのかもしれない。

 夢を手に入れたい。

 俺に夢を見ることを教えてくれた、あの藍色の髪をした少女をこの手で掴みたい。

 それは、メグルを好きだとかそういうことではなく――。

 

 どんなにどんなに走っても、メグルの足は速く、なかなか追いつくことが出来なかった。

 しかし、今はそれでいいのだろう。

 俺は、まだ夢を見始めたばかりなのだから――。



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