夏のローカル線
この小説のストリーは電車に乗っているときにふと思い浮かんだもので、読んでもらった方にはちょっとでも何かホッとした気持ちになっていただきたいです。小説を書くことは初めてで、よくわからない点などもあるとは思いますが、よろしければ最期までお付き合い下さい。
第1章 見覚えある後ろ姿
夏の暑い日、休暇を利用して久々に帰郷するために真哉は、高校生の時によく乗ったローカル線の電車の車両にいた。
あの頃は、友達と馬鹿やって1日でも笑わない日なんてなかった。
真哉は都会暮らしの疲れせいか、いつしか笑わなくなった。
今と昔では風景は少し変わりはしたが、乗り降りする人の数は少し減っているようだった。
一人、また一人と電車を後にしていく。
一時間ほど乗ると日がかたむきだしていた。
真哉はふと車内を見渡した。
すると、一人女性が傾きだした日差しから顔を守るかのようにつば広の帽子をかぶり座っていた。
その女性は次の駅で降りた。
真哉はこんな夕暮れ前に、しかも村もないような無人駅に降りるのを不思議に思った。
母親には夜には着くと伝えてある。
「よし!」と思い真哉は、その女性の後をつけることにした。
いつもの癖である探偵ごっこの始まりだ。
真哉のこの癖は、幼い時に観た探偵ものの映画に強い憧れを抱いていたため、 別にストーカーなどの類ではない。
尾行する相手が何をするのかを見たいだけなのである。
電車を降りると、女性がホームを去っていこうとする姿が見えた。
真哉は迷わず女性の後を追って慌てて降りた。
山の方へ女性は歩いていく。
真哉はその女性の後姿に少し見覚えがあるように感じた。
しかし、どうしても思い出せない。
その間も女性は山の方へと歩いていく。
しばらくすると、道にバス停らしき看板と椅子が見えた。
すると女性はそのバス停のベンチに座った。
真哉は焦った。
身の周りに自分を隠せるほどの遮蔽物がなかったのである。
それに気付いたかのように、女性が真哉の方を見た。
真哉は一瞬釘付けになった自分を感じながら、何とか冷静を取り戻しバス停へ向かいつつこの場を打破するための案を考えた。
「これ以上の尾行は諦めて、このまま駅へ戻る道を探すか?」それとも、「女性の隣に座るか?」
心臓の鼓動が高まるのがわかる。
それを抑え平静を装いつつ女性の隣に座った。
真哉はなぜ座ってしまったのかと後悔の思いであった。
しかし、真哉は視界の端に入っている女性の目が自分を座らせたようにも思えたのである。
しばらくすると、突然女性が「あの〜、どちらまで行かれるんですか?」と聞いてきた。
真哉は「久々に実家へ帰えるんです。」と答えた。
女性は「そうなんですか。」と答えた。
真哉も何か聞こうと考えるがなかなか思いつかない。
真哉は思い切って「ところであなたはどちらまで行かれるんですか?」と聞いた。
すると女性は少し寂しそうに「親しい人に会いにかな。」と言った。
何か訳ありなのかと思いつつ探偵ごっこも忘れずに、次の質問を考えていた。
真哉は「その人ってひょっとしてフィアンセですか?」と冗談っぽく聞くと、「うん、まーそんな感じだね。」とこれまた冗談っぽく答えられた。
そうこう話をしているとバスが来た。
二人はバスを指差しジェスチャーでこのバスに乗るのか?と言いたげそうに顔を見合わせ、お互いにうなづきバスへ乗り込んだ。
第2章 消えた笑顔
二人は話すことなく、バスの車窓から流れる景色を眺めていた。
真哉はふと山を見ると、昔その山に登ったことを思い出した。
それは五年前の高校3年生、最後の夏休みの出来事で辛い思い出である。
真哉と友達二人とでその山に登った。
軽い気持ちで山に足を踏み入れた三人だが、親と何度か登ったことがあったのこともあり山頂までは楽しく登ることが出来た。
しかし、下山の時に友達が「誰が一番早く麓に着くか競争しようぜ!」と言い出した。
登りがあまりにも順調だったので三人とも軽い気持ちで下山し始めた。
友達と別れて半時間ほど経った頃から辺りに霧が出始めた。
真哉は焦りだし足早に下山しようと歩を早める。
だが、風景は一向に変化がなく道に迷ってることに真哉は悟りその場に腰を下ろした。
軽装での登山だったため真哉はみるみるうちに体温が下がり震えだしてきた。
天気は回復するどころか、雨まで降り出してきた。
絶望のなか霧の深くかかった森を眺めていると、うっすらと遠くに光が見えた。
真哉は気がおかしくなったのかと思ったが、近づいてくるのがわかった。
「人かな?」と思い声を出してみた。
「誰かいるのか?」と声が返ってきた。
男性の声であった。
「助けてください!」と真哉は返事した。
男性が近づいてくるのがうっすらと見えた。
登山慣れしてそうな格好であった。
「こっちです!」と真哉は声を出して、自分の位置を男性に気付いてもらえるようにした。
「大丈夫か?」と男性は声をかけてくれた。
「ありがとうございます。」と真哉は安堵の顔とともに答えた。
真哉はこんな状況になってしまった経緯を男性に話した。
「なんて馬鹿なことをしたんだ。山の天気は変わりやすいって親に教えられなったのか?」と呆れ顔で言われた。
「すみません。」真哉は申し訳なさそうに男性に言った。
「まー、俺に見つけられたのは運が良かったんだぜ。」と男性は笑いながら真哉を見た。
「俺は幸二本宮幸二だ。」
真哉もすかさず「森下真哉です」とお互いに軽い自己紹介をした。
一通りの挨拶をすますと本宮が「霧も深いし、しばらくここで待ったほうがいいな。」と真哉の顔を見て言った。
真哉はふと疑問に感じた。
「悪天候なのにどうしてこの人は、明かりをつけてまで歩いていたんだろう?」
その疑問を本宮に聞くべきか真哉が悩んでいると、本宮が口を空けた。
「他の友達は大丈夫だと思うよ。」
「どうしてわかるんですか?」真哉は不思議気に聞き返した。
「ここまで来るまでに二人組の少年を見たんだ。何だか楽しそうに二人で降りていったよ。」と幸二はその疑問に答えた。
その他に幸二の言った二人の服装も合っていたので、真哉は本宮の言葉を信じた。
真哉はその後、疑問に思っていることを本宮に聞いてみることにした。
「本宮さんは山に詳しそうで、霧が出たときの対処法も知ってそうですね。なのにどうして霧の中を無理して歩いていたんですか?」
本宮はその質問を聞き少し黙りこくった。
真哉は「まずい質問だったのかな?」と心の中で思った。
すると、本宮はおもむろに話し出した。
「大事な悩み事があるとこの山に登って、山頂からの景色みながら考えるんだ。」
「どうしてこの山じゃないといけないんですか?」と真哉は聞いた。
「一番最初にこの山に登った時、ある人に付き合ってくれって告白しようか悩んでてね。それでこの山に登って腹くくって、告白したらOKをもらっちゃってね。それ以来この山に登ると事がいい方に流れるんだ。」
少し気恥ずかしそうに語る本宮を見て真哉は、この山にそんなご利益あるんだなと呆けて言った。
「今回もそんな感じなんだけどね。」
そう言うと本宮は立ち上がり「そろそろ霧も晴れてきたし行こうか。」
本宮は真哉を道が山頂方面と麓方面の分かれ道まで連れて来た。
「じゃ、俺は山頂目指すからここでお別れだ少年。」
それだけ言い真哉に背を向けた。
「ほんと、その...ありがとうございました。」少し緊張した面持ちで本宮にお礼を言った。
本宮は背を向けたまま手を振った。
真哉は下山の道に歩を進めだした。
するとすぐに地響きが聞こえた。
真哉はその音が何かはすぐにはわからなかった。
自分の視界が意思に反し移動していくのがわかった。
地滑りだ。
地滑りは一帯の山肌を巻き込むほどの勢いである。
真哉は轟音が鳴り響く中、もうだめだと悟った。
そう思ったその時、本宮が真哉にぶつかり地滑りから退けさせた。
真哉はすぐ本宮がいるであろう方向をを見たが、そこに本宮はいない。
地滑りが納まると真哉は恐る恐る崖を覗き込んだ。
目に飛び込んできたのは、本宮が落ちないようにしがみついている姿であった。
真哉は本宮に手が届くように思いっきり伸ばした。
「本宮さん掴まってください。」
本宮は真哉の手を掴もうと手を伸ばす。
「後もう少し。」
真哉がそう思いさらに手を伸ばした瞬間、真哉の足元が崩れてしまった。
真哉は片手で崖から垂れていたツタを握り締め、もう片手で本宮の手を握っていた。
ツタが徐々にずれていくのがわかった。
「少年、俺の手を離せ。」信二が優しい口調で言った。
「でも、本宮さん!あんたこの後大事な事伝えに行くんじゃないのか?」
真哉は少し声を荒げてに言った。
「そんな事言ったけかな?最近のガキは賢くてかなわないな。」あくまで本宮は明るい振舞いである。
「もし俺の大事な人に会ったら、いつまでも笑ってるからって伝えてくれ。」と続けざまに言った。
その後本宮は真哉と握っていた手を静かにほどき、崖へ消えていった。
真哉は地滑りを見た他の登山客に発見され、下山した。
麓に着くと真哉は救急車に乗せられて、病院へ連れて行かれた。
軽症ではあったが、念のために精密検査を受けることになった。
検査が終わり病室へ戻ってきた。
真哉を待っていたのは母と警官であった。
「真哉君ちょっと聞かせてほしいことがあるんだけど、いいかな?」
警官は真哉を見て言った。
「じゃー、お母さん外で待ってるから。」
母はそう言い残し病室を後にした。
真哉は警官に本宮のことや、どこで知り合ったかなどいろんな質問された。
質問が終わり、警官は病室を後にした。
「じゃ、お母さんも帰るからゆっくり休んでね。」
そういうと母も病室を後にした。
その夜、静まった病室のベッドで真哉は、丸くなり今日の出来事について悔やんでいた。
「なぜあんなことになってしまったのか?」
「道に迷った俺に出会わなければ、本宮は助かったのでは?」
そんな質問を自身に何度も問いかけ続けた。
本宮の葬儀に行くことも悩んだが、結局その夜には決めることが出来なかった。
そのまま数日が過ぎ、葬儀当日を向えた真哉は、本宮の下へ行くことに決めた。
葬儀会場に着くと、真哉は弔問客であろう男女の二人組みとすれ違った。
(幸二のやつあの子に結婚申し込むつもだったんだろう?)
真哉は二人組みのその言葉に胸をしめつけられる思いをした。
焼香を済まそうとパイプ椅子の列に並び座っていると、親族席でうずくもり涙している後ろ姿の女性が真哉の目に入った。
初め幸二の母親と思ったが、それにしては若すぎた。
一瞬考えたが、すぐにその答えがわかった。
「本宮さんの恋人?!」
そう思った真哉は、親族席の前に行くのが怖くなった。
しかし、真哉は本宮の言葉を女性に伝えるがあった。
親族席の前に行き自分が何者なのかがわかると、どんな顔をされるのか。
そんな不安から逃れるように真哉は、席を立ち足早に出口へ向かった。
それに気づいた本宮の父親が声をかけてきた。
「幸二の友人の子かな?」
「え、ええ...それじゃ失礼します。」
そう言うと真哉は、また歩き出した。
「焼香してやってくれないか?」
その言葉に真哉は足を止めた。
「自分にはそんな資格ありませんから。」
本宮の父親に背を向けたまま、吐き捨てるように言った。
「もしかして君...」
真哉の耳に入ってきたが、その場を走り去った。
本宮の父親の言葉が、真哉の耳にこだましていた。
その先の言葉を想像するだけで、息が苦しくなった。
帰宅した真哉だったが、胸を締め付けられるような気分であった。
「あれは仕方なかったんだ。」と真哉は自分に言い聞かせ、辛い思い出を心の奥底にしまいこんだ。
第3章 笑顔を取り戻すためには
この5年間そんな嫌な思い出は頭の片隅にも出なかった。
それなのに山を見ると、当時の記憶があふれるようによみがえってきた。
真哉はだんだん気分が悪くなってきた。
ついに耐え切れず、近くにあある下車ボタンを押した。
次のバス停に止まると、料金を払うことなく降りた。
運転手が呼び止めたが、真哉はその場にうずくまってしまった。
誰が見てもおかしいと思う呼吸の激しさが真哉を襲った。
過呼吸症候群である。
緊張や不安、恐怖、その他に過度のストレスや感情の高まりで、発作的に呼吸を速く繰り返す。その結果、血液中の炭酸ガス(二酸化炭素)が極端に減少し、血液がアルカリ性になり、筋肉や神経に異常をきたしてしまうのである。
真哉の場合は事故が発生した山をみることにより、その情景がフラッシュバックしたために起こったのであろう。
激しい呼吸のなかバスが走り出すのがわかった。
女性はバスを降りていたようで、真哉の方へ近づいてきた。
真哉のひどい汗の量を見た女性は、持っていたハンドタオルを差し出した。
真哉は汗を拭くためには使わずに、口に押し当てた。
自分の吐いた息をもう一度吸い、血中のアルカリ性を中和するためである。
しばらく経つと過呼吸は納まった。
「大丈夫?」
女性は心配そうに尋ねた。
「すみません、もう大丈夫です。これありがとうございます。」
疲れた顔でタオルを返し、真哉は立ち上がった。
「バス行っちゃったねー。」
女性のその言葉に真哉は、申し訳なさそうにペコぺこと頭が下げた。
「まー、ここで降りるつもりだったんだけどね。」
真哉に気を悪くさせたのだろう。そう思った女性は笑顔で言った。
「じゃ、俺はこれで失礼します。お世話おかけしました。」
そういうと女性は、真哉に背を向け山に向かって手を合わせ始めた。
その時である。
真哉は、女性の後ろ姿に見覚えがある理由に気づいてしまった。
真哉の脳裏に本宮の顔が浮かんだ。
手を合わせ終わった女性に真哉は聞いた。
「どうしてここで手を合わせたんですか?」
女性は少し押し黙った後、ゆっくり口を開いた。
「ここで5年前に恋人が死んだの。その時、一緒にいた少年をかばってね。」
女性は続けざまにそう言った。
間違いない。
確信が真哉の胸に突き刺さった。
真哉は5年前に言えなかった本宮の言葉を女性に伝えようとするが、体が震えだした。
それに気づいた女性が心配してそばに近寄るが、真哉はその場に崩れた。
息が激しくなるなか真哉は、ゆっくりと精一杯出せる声で当時の出来事をすべて女性に伝えた。
「そう。」
女性は静かにそう言うと山を眺め始めた。
「どうしてですか。どうしてそんな言葉で済まそうするんですか。」
真哉は声を荒げて女性に食らいつくように言い放った。
「本当なら今頃あなたと幸せになっていたかもしれないですよ。」
女性はそれを聞くと、線が切れたかのように感情的に話し出した。
「あなたに言われなくたってそんなことわかってる。でも、あなたを攻めたところで幸二はは帰って来ないのよ。」
真哉は、女性のその言葉に改めて事の重大さを悟った。
だが、真哉は心の奥底にしまっていたものを出せたことにより、胸につっかえていたものがとれたようであった。
しばらく二人はその場に座り込み、無言の時間が流れた。
「立てますか?」
真哉は先に立ち上がり女性に手を差し出した。
「うん。」
女性は真哉の手をとり立ち上がった。
二人はバス停の椅子に座った。
「幸二ね、いつもへらへら笑ってたの。事故のあった前日にえらく真剣な顔で私に会いに来たの。何だか変な顔ってさりげなく言うとね、顔真っ赤にして機嫌悪くして帰っちゃったの。結婚してくれって言うつもりだったんだろうね。」
顔と声は笑っているようだが、その目からは涙が流れていた。
「それでその後、明日例の山に登って君にふさわしい男になってくる!って馬鹿みたいなメールが来たの。」
涙をぬぐい、嬉しそうに話し出した女性に見とれる真哉であった。
「幸二に男らしい顔なんかできっこないよ。そうやって返信するとね、うるせ〜って返ってきたの。まるで子供みたいでしょ。あなたと話した時も彼笑ってたでしょ?」
「あ、はい。でもあれは俺を安心させるものだと。」
「それはないない。」
女性はあっさり否定した。
「でもね、あの笑顔見ると妙に心が落ち着くのよ。それが彼の取り柄で私が好きなところでもあったの。」
女性が話終わると、真哉は口をひらいた。
「俺、幸二さんみたいに人に安心感与えれるかわからないけど、出来る限り笑うようにします。それが、幸二さんへの弔いでもあると思うんです。」
真哉は笑顔で女性を見た。
少しぎこちないようだったが、それはまぎれもない笑顔だった。
「うん、そうだね。」
女性も笑顔で返事をした。
真哉は、次に女性と会う時にお墓と両親に会いに行くことを約束した。
連絡先を教え合い二人は別れた。
二人の背中はここへ来る前と違い、少し自信に満ちているようであった。
実家に着いた真哉は母親に迎えられた。
「真哉ずいぶん久しぶりだね。元気にしてたかい?」
「うん、久しぶり母さん。元気にしてるよ。」
真哉にとってはごく普通の会話であったが、真哉の母親にはどこかいつもと違うように感じられた。
「ふふ。」
「なんだよ?母さん?」
「いやごめんね、あんたの笑った顔久しぶりだったからついね。何かいいことでもあったのかい?」
「ちょっとね、色々あったよ。」
真哉は少し照れながらも、明るく答えた。
2日ほど滞在した後に、真哉は同じローカル線に乗って実家を後にした。
車窓から例の山が見えた。
数日前までは見るのがあんなに辛かったのがうそのようである。
「幸二さん、次の夏に改めてあなたに会いに行きますね。」
真哉は心の中で幸二に約束をした。
夏のローカル線は真哉を乗せ、住み慣れた都会へと走り出した。
最期までお付き合いありがとうございます。ホッとした気分になれましたでしょうか?少しでもなれた方がいらっしゃると幸いです。また、時間がありましたら、書きたいと思っています。その時はまたお付き合い下さい。では失礼します。




