――ありがとう
これで最後です。(本当に6話で終わった……宣言通りに行って、ちょっとびっくり!)
そして大晦日です。少し?早いですが、あけましておめでとうございます。
新年、そしてそれ以降……皆様方にとって良き日々を過ごせますように、わずかながらに願っておきます。
さて……
たった1日を区切っただけの、2人の物語はいかがだったでしょうか?
そして、この終わりはいかがでしたでしょうか?
この物語では男は救われずに、ただ姉の愛を――真実を知っても変わらない、不変の愛を――感じて終わります。
それだけの愛を知ってなお変わらない男は、尊いのか悪いのか――。
……ただ言えるのは、この姉の存在がなければ男の心は疾うに擦り切れ、潰れていることでしょう。
読了後も、読者様方が、この短い物語からさまざまなことを得られたのなら本懐です。
次に起きたのは、空が暗くなった後だった。
「……よ。ごは……きたよ。ごはん出来たよ」
「ん……姉さん、おはよう」
「おはよ。寝起きだけど、ごはん食べる?」
ん、と短く返事をすると目蓋を擦りながら食卓についた。
味噌汁とごはん、あとは海鮮系の焼いたもの。海の幸が香ばしく焼けた匂いが、男性の食欲をそそった。仮初めのような食欲を。
「……いただきます」
「いただきます」
いつもの様に汁物からいただく。何故か、姉が注意深くそれを眺めていた。
あるいは、本人はさりげなく見ているつもりなのかもしれないが、いつもとは明らかに様子が違う。
「どうかしたの?」
味噌汁を半分、飲み下してから訊ねてみると「なんでもないよ」と返ってきた。
「…………」
嘘だ。もう二十年以上も家族でいるのだから、何かがあることは分かってしまう。
「本当に、何でもないの」
そういうと、彼女は味噌汁に手を付けた。
弟から見て彼女らしくなく、本当に少しずつ飲んでいった。
それで、何となく分かってしまった。あぁ、そうか。
女性の持つ椀が震える。震えているのだ、彼女は。
気付いてしまったのだ、男性の秘密に――味覚を失くしたことに。
今年に入ってから何となく、ばれてきている気はしていた。でも、確かめられたことはなかった。
それが今日、確かめられた――それだけだ。
「……っ」
その夜、男性の枕は涙に濡れた。
舐めてみたが、悲しみの味しかしなかった。
翌朝、いつも通りの朝が訪れた。事実が明るみに出ただけで、姉は今日も料理を作っていた。届かない想いでの味を、その料理に込めて。
想いでは遠く、遠くに離れてしまった。けれど、その味は今でも覚えている。
今日もまた、二人の「いただきます」で今日が始まる。
けれどその前に、やはり言いたいことがあった。
いつものように言っていることだけれど、それでも、この気持ちが収まることはない。
きっと、これを聞いた姉はまた、困った顔をするのだろうけれど――と思いながら、男性は柔らかく口を開いた。
「ありがとう、姉さん」
ここまで読んでくださってありがとうございました。
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