サヨナラ!
今日はまったくもってサイアクな日だった。
いや、今までだってサイアクな日はたくさんあったのだが、ここ数年はそれでも平穏に過ごせていたんだ。
それなのにそれなのに。
サイアクはどうも俺を放っておいてはくれないようだった。
「バケモノめ!来るな!」
「怖い!気持ち悪い!いやぁぁ!!」
中庭で作業してた生徒らが一斉に声を上げる。その中心に俺。
恐怖、畏怖、嫌悪…様々な感情の入り混じった声を浴び俺は軽い眩暈を覚える。
あぁ、またやってしまったか……。
今は丁度秋の学園際を迎えるにあたって学園総出で準備やら作業をしていた真っ最中だった。
事件はその作業が始まって数分後に起こった。
中庭の飾りつけの為に借り出された俺を含め数十人の男女の生徒。各自それぞれ事前に作っておいた飾りやポスター、幕などを壁に貼り付ける為に脚立を使用していた。
そこへ突如吹く突風。
高さが高さゆえに気を付けていたとは言え、予想外の強風に案の定、脚立がぐらつき…
「うわぁぁ!」
「きゃぁ!西村君!!」
一番上に上がっていた男子生徒がバランスを崩し地面に向けて落ちて行く。―が、彼は地面に叩き着けられることはなく―なんと、宙に浮いていた。
「―くっ」
咄嗟の事とは言え体が動いてしまった。
「―え?、え?」
「なんで…?宙で止まって… え?」
西村と呼ばれた本人ですら何か起こったか解らないという顔をしてる。周囲の生徒もこの不可思議で奇妙な現象に同様に目を見開き言葉を失っている。
ただ一人、宙に浮いている生徒に向かって右手を翳している俺を覗いては。
「…なん…、お前が…やってんのか…?」
「え…?何…?マジで…?…何?」
じっと相手を見据え伸ばした手の動きに合わせて彼の体も動く。
その様子に気づけばもはやもう何の誤魔化しも効かないだろう。
「や…、やめろ!お、降ろせって!! おいっ!」
「あ、暴れるな…、今降ろすから」
俺は相手が暴れるもんだからさらにESPの力を篭める。そして西村が怪我をしないように静かに地面へと降ろした。
そうするともう展開は見えたものだった。
そう、今まで秘密にしてた俺の力の事が皆にバレたのだ。
賞賛?そんなものはない。あるのは、ない者達が怯える恐怖だけだ。
人は、自分達にないものを恐れ、嫌悪する。俺のこの力は人々にとって脅威でしかないんだ。
一気にしてこの事件は学園中を駆け巡り俺は「バケモノ」になった。
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その身のまま学園を飛び出し夕暮れの中。
佇んだ公園でも俺をじっと居させてくれることはしてくれなかった。
もうどこにも居場所はない。
もうどこにも戻れない。
前にも似たような事がなかったわけではなかった。
前にも同じような事があり、その度俺は転校を繰り返して来た。
もう疲れた。
もう―――――――――。
どうして生まれ持った力なのに隠して生きなきゃいけない。
どうして俺はこの力を持って生まれて来た。
最後の夕日がビルの間を通り抜けその姿を隠そうとしている。
最後のオレンジ色の閃光を浴びながら俺は高架橋の上でその先に手を伸ばす。
その細い細い光の筋の先に何か違った世界があるような気がして。
そこなら俺を迎え入れてくれるかな。
高架橋の下を鈍い銀色の電車が走る。
すべての思考すら掻き消してくれるその轟音に身を任せなから俺は消えゆく光の筋に飛び込んだ。