【王女視点】おもしろくなりそう。
ある日、護衛の騎士と侍女を連れてお兄様に会いに行く途中。王城の廊下の角を曲がると私より少し背の高い黒髪の女性がいた。
女性はこの国にはない黒い髪を頭の上で綺麗に結い上げ、見たこともない服装でこちらに向かって歩いてきていた。
私たちを見るや否や黒曜石のような真っ黒な瞳を限界まで開いたかと思うと、その場に倒れてしまった。
髪や瞳の色・服装から見てもこの世界ではない世界からきた人だろう。
護衛の騎士に女性を私の部屋に連れて行ってもらうようお願いした。
侍女の一人にはお兄様の部屋に訪問のキャンセルと異世界人らしき女性を見つけたことを伝えに行ってもらった。
古来より異世界人は稀にこの世界に舞い降りる。
当然、この世界の人間ではないのでこの世界の情報を何も持たない故、生きて行くことが困難になる。
この国の民の中には異世界人を神からの使者だと思っているものもいる。もし蔑ろにすると民の反感を買うことになるだろう。そこで何代も前の貴族や王族たちには自分たちの領地で異世界人たちを発見すると必ず保護することを義務づけた。
今回は王城内に舞い降りたようなので保護義務は王家に発生する。
私室に戻り、寝台に横たわる女性を観察しているとドアをノックする音が聞こえた。
部屋に控える侍女の一人がドアを開けると、レオフォードお兄様が顔覗かせた。
「目は覚めたか?」
「まだよ。」
お兄様が寝台の横に椅子を置いて座る私に近づく。何故かあと一歩というところで足が止まり、息を呑む。
寝台に横たわる女性の顔を食い入るように見つめるお兄様を観察して私はニヤリとしていまった。
だってお兄様の反応がわかり易いんですもの。
無理もないだろう。女性は艶やかな黒髪を今は解かれ、幼さの残る寝顔は神話に出てくる月の女神のように綺麗だ。今はわからないが閉じられた瞳は黒曜石のような黒。シーツの下の身体も顔の幼さの割には出るところは出ていた。
食い入るように女性を見つめたまま少しも動かないお兄様。
(ちょっとお兄様!息してます!?)
慌てて立ち上がり、お兄様の目の前で手を振る。
「お兄様!」
はっとしたように我に返ったお兄様は咳払いをして表情を取り繕うがもう遅い。
(バッチリ見ましたわ。これはおもしろいことになりそう。)
だけど、まだ2人は出会うときではない。なんて言っても女性は意識がないのだ。
「お兄様、初対面の女性の顔をそんなに見るものではありませんわ。」
「そっそうだな。また来るよ。」
少し名残惜しそうにしていたが、私と目があうと気まずそうに視線を逸らし、足早に部屋を後にした。
お兄様が出て行ったあと、私は今後の展開に思考を巡らし、一人微笑んだ。