無敵のAIと残念な聖騎士
今日も元気にゲーム攻略〜♪
【階層20 ファイト!】
エコーの掛かったアナウンスがそう言うと同時に、僕の意識は切り替わる。
深い深い、水の底に沈む感覚。
一つのことに没頭する、感覚。
目の前には、白銀の鎧を身に纏う、騎士。
神聖さを感じるデザインのキャラクター。だが、その騎士には一つ、異形とでも言うべき特徴があった。
右肩の、肩甲骨に当たる部位。
そこから、もう一本の腕が生えている。
コイツが、僕の挑む敵。
『三つ腕の聖騎士』
ちなみに、特別なキャラでも無いし、なんならコイツの完全上位互換『四つ腕の聖騎士』と言うキャラクターまで存在する。
そんなちょっと残念な騎士くんだが、僕にとっては充分強敵だ。
さて、どう殺すか。
とか考えているうちに、目の前に騎士くんの剣が迫る。
ちなみに騎士くんは三本の腕で三刀流だ。
脳筋だね。嫌いじゃないよ!
振るわれるのは右の剣による水平斬り。
しゃがみ込んで回避。
無様ではあるが、必要なことだ。
ブブンッ! と二重の風切音が頭の上でなる。
この騎士くんの三本目の剣の扱い方は決まっている。『後追い』だ。
右腕と第三の腕の剣を、ほぼ同時に振るってくる。
もし右腕の剣を弾いたり受けたりしても、即座に第三の剣の一撃がやってくる。
うーん、残念だ。本当に残念な奴だな騎士くん。
だってこの攻撃、普通に避けてりゃ怖くないもん。
何がひどいって、第三の腕が背中に生えているせいで、追撃のリーチが最初の攻撃よりちょい短いのがひどい。
別に『避けたと思ったら追撃で斬られた!』とか無い。
避けたと思ったら追撃も避けてる。
けど、そんな敵でも僕にとっては強敵だ。
ゴロゴロと、しゃがんだ状態のまま転がって一時退避。それから立ち上がって、考える。
自分のアバターのステータス、体長体重、そして、さっき見たもの。
それらについて、考える。
「面白いこと、思いついちゃった」
うまくいけば、アレに出会える。
そうと決まればいざ実行!
「狂気の沙汰ほど面白い!」
正面へと突撃! この時、前傾姿勢になりすぎてはいけない。見たいのはさっきのような水平斬り。寧ろ背筋を伸ばして水平斬りを誘う。
このゲームでは、敵キャラクターに特定のパターンや行動が刻まれており、プレイヤーの行動によってそれらが変化する。
つまり、誘えば、100パー乗ってくる!
ほらキタ! 二重の水平斬り!
ここからが、冒険!
ここからが、挑戦!
体を限界まで逸らしてブリッジ! アンドブレーキ!
靴と同時に床と手が擦れて熱い! 痛い!
スピードが落ちたら足を上げつつ、腕のチカラで、跳ぶ!
逆立ちのような姿勢で、飛び上がる!
ハンドスプリング! 同時に腕を折りたたむ!
さぁ、行けるか?
まず、飛び上がった僕の足しの上で、一本目の剣が通り過ぎる。
そして僕の足は、振られる二本の剣の間に侵入した。
尚も上への力は衰えず、胴体と頭も二本目の剣の軌道上に入る。
同時に、振られる剣も顔面に迫っていた。
死ぬ。
絶対的なイメージに背筋がゾクゾクする。
ジェットコースターの高いところから落ちる時の、あの感じ。
想定では、ギリギリ避けられるはず、集中した世界の中で出来ることは、自分の直感を信じることのみ。
怖い。でも目は閉じない。
分厚い刃が目の前に迫り、ギリギリで、頭の下を通過した。
セーフ!
敵キャラクターの特定の行動は、その行動が終わり切るまで、次の行動に移れない。
つまり、今目の前を通った剣が振り切られるまで、コイツは次の行動に移れない!
完全に上をとった僕に、攻撃出来ない!
足を伸ばして、左手で騎士くんの右肩を掴む!
反対の手で腰から短剣を抜き放つ!
殺った!!
その時、騎士くんの目に光が宿った。
――――ここから先のことは、後から起こった結果から、僕が逆算して導き出した予想となる。
騎士くんのニ本の剣が振り切られ、行動制限が解除された後。
彼はそのまま、剣を無理やり振り回した!
そして同時に、左手の剣を逆手に持ち変え、足で地面を蹴り飛ばす。
そうすることで、剣を振った勢いで、回転して見せたのだ。
必然、肩を掴んでいた僕はバランスを崩し、宙に浮かぶ。
騎士くんは回転の勢いに乗って、空中で仰向けの体制を取り、逆手に持った左手の剣を、裏拳を放つようにして、僕の首に振り下ろしたのだ。
完全に空中にいる騎士くんにそんなことが出来るのか?
多分、出来る。
仰向けの体制ということは、背中が地面に向いているということ。
そして騎士くんには、背中に生えた第三の腕がある。
その手の剣を床に斬りつけ、あるいは差し込むことで、姿勢や間合いを調節できる。
その時、僕にわかったのは、急に支えが外れたことと、上から刃が降ってきたという事だけだった。
何があったかは分からない。けど、誰がやったかは分かる。
このゲームの敵は、特定の行動しかしてこない。
そしてその行動は、プレイヤーの行動によって対応的に変化する。
プレイヤーが責めに出ればガードし、プレイヤーが守りに徹すれば攻撃を浴びせる、という風に。
ただ、完全に想定外の行動をプレイヤーがとった場合、特殊な処理が入り込む。
一時的に、システムのAIが敵キャラクターを操作するのだ。
そして、このAIがバカみたいに強い、とにかく強い、あり得なく強い。
だからこそ、勝ちたい!
そう、このゲームにおける僕の最終目標はこのAIに勝つ事。
今はそのデータ収集中。
そう、「会いたかったんだ、君に」
まぁ、そう呟いた時には、僕の頭は地面を転がっていたのだけれど。
□ □ □
【ゲームオーバー! 到達階層20階】
ふぅ
目の前が真っ暗になり、赤い文字だけが浮かび上がったところで、私はマシンのスイッチを切った。
「…………学校行こ」
顔洗って口ゆすいで髪整えてご飯食べて歯磨いてセーラー服来てバック持って。
「…………行ってきます」
今日も私は学校に行く。
つまらない、いつもと変わらないルーティーン。
ゲームの僕とは違う、女の子の私。
現実の、佐山茜。
本当につまらない。
あぁ、早く終わらせてまたやりたいな。
『ワールドリジェクトオンライン』を




