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第1話 神・代理

僕の名前は鶴瀬雷神(ゼウス)。名前以外は特に面白みもない、さえない大学生だ。特に頭がいいわけでもなく、顔がいいわけでもない。運動だって良くて中の上、大学もそこそこで、歴史が好きな普通の大学生だ。特別なことは何一つない、そんな平凡な人生を送ってきた。



そんな僕が、



どうして神様に頭を下げられているんだ?



「頼む!雷神(ゼウス)くん!ワシの代わりに神様やってくれ!」



え?



僕の前にいるのは、僕よりもゼウスって感じの白髪の老人だった。頭には月桂樹の冠、身体はたくましい筋肉を真っ白いトーガで包んでいて、腕には金の装飾品をつけていた。そんな威厳たっぷりの老人が僕に頭を下げている状況、いったいどういうことだ?



「あの、頭をあげてください。状況がよく呑み込めないです。」


「おお、そうかそれはすまなかった。」



頭をあげた老人の顔はひどく焦っているように見えた。あと、アーノルド・シュワルツェネッガーに似てる。いや、そんなことはどうでもいい、とにかくこの状況を説明してもらわないと。



「今、どういう状況ですか?もしかして僕、死んじゃいましたか?」


「いやいや!安心してほしい。君は死んでいない、いわば神隠しに会ったのだ。事が済めば君は元の時間のもとの場所に帰れる。」



そうなのか。死んでないのならひとまず安心だ。まだやり残したことがいっぱいあるからな。それにしても、事っていったい何のかとだろう。まさか、最初に行ってた神様やってくれって話なのか?


「えっと、じゃあその()っていうのは何なんですか?」


「実はの、君にとある世界を管理してほしいんじゃ。」


「とある世界?」


「あぁ、魔法の世界じゃ。まあ平和なファンタジー世界じゃな。」



おお!まさかホントにそんな世界があるとは!今日一番の驚きかもしれない!ん?でも・・・



「なんで僕がその世界を管理することになったんですか?神様がやればいいんじゃないですか?」


「・・・ワシは他にもいくつかの世界を管理しているんじゃが、その管理している世界の内の一つに不具合が生じていてな。ワシはその対応に行かねばならんのじゃ。君にはその間にこの世界を管理していてほしい。ワシの代わりに。」


「なるほど、、、事情はなんとなく分かりました。でも世界を管理するのって、僕みたいな人間がやっていいものなんですか?僕、人を管理する経験とか天才的な頭脳とかもないですけど・・・」


「大丈夫じゃ!君が管理する世界はワシの最高傑作!すべての種族が共存し、争いという言葉からは無縁の楽園じゃ!万が一でも世界が滅亡するようなことはない!ただ君は座って世界を眺めていればいい!」


それって僕必要なのか?でも、万が一が起きた時に誰か対処する必要か・・・。



「わかりました!こんな僕でも力になれるのなら、やらせてください!」


「おー!やってくれるか!ではさっそく君の職場に案内しよう!」



神様はハンサムな笑顔を見せた後、手をパンパンと2回たたいた。すると、僕たちの目の前に重厚な木製の扉が現れた。神様がドアノブに手をかけ、ゆっくりとひねる、ギギという軋む音とともに扉は開いた。


中は西洋風の書斎のような場所だった。全体的にシックなイメージで、本棚や小物が置かれているキャビネットが並んでいた。壁には美しい絵画が並べられていて、床は複雑な模様が描かれた絨毯が敷かれていた。天井からは豪華なシャンデリアが吊り下げられていて、温かい光が部屋を照らしていた。


だが、部屋の中で一際目を引いたのは、中央に置かれている大きなジオラマだった。



「これは、、、もしかして神様が言っていた楽園ですか?」



中央に置かれているジオラマには、雄大な山脈、茂る森やなだらかな丘、波打つ海、川、湖など、美しい自然が再現されていた。その景色は金色に輝いていて、まさに楽園を体現した世界がそこにあった。



「感がいいのぉ、君のいう通りこれは楽園そのものだ。いわゆるジオラマとしてここにあるが、世界というのはこうやって存在しておる。君の世界も同じようにな。」


「すごいですね。こんなにきれいな自然、見たことありませんよ。」


「ほほ、すごいのは自然だけではない。」



神様がそう言うとパンっと手を叩いた。すると、部屋の明かりが消え辺りは真っ暗になった。だが、ジオラマの川沿いに、光る点がいくつも浮かび始めた。



「これは?」


「人間の営みじゃよ。これを使うといい」



神様は万華鏡のような筒を僕に手渡した。なるほど、これは望遠鏡のようなものだと直感的に理解する。筒の先端を目に近づけ、光の点の方を覗いた。よく見てみれば、光の正体は家の灯りだった。川のそばには集落ができる、エジプトのナイル川、パリのセーヌ河、中国王朝の黄河や長江、例をあげればキリがないほどに、人類の歴史と大河は深い関係にある。



「川の近くには、水の確保や農業のしやすさから人が集まると言われていましたが、こんなに集まるものなんですね。」


「川だけではない。海沿いや丘の上、山の中腹にも人々の営みはある。」



言われた通りに海沿いや丘の上を見れば、確かにそこには人々の灯りがともっていた。しばらくジオラマを見ていると、神様がまたパンっと手を鳴らした。すると、部屋の灯りがつき再びジオラマは日に照らされたように、淡く輝きを放ち始めた。



「この部屋の灯りは楽園の太陽じゃ。この部屋が明るくなれば、楽園は昼になる。逆に暗くなれば、夜となる。まあ、自動で点けたり消えたりするから気にせんでいい。さあ、集落を見てくれ。まもなく人間たちが活動を始める時間じゃ」



言われた通りに川沿いの集落を覗き見る。そこには、船を漕ぐ人、畑を耕す人、動物と戯れる親子など様々な人が生活をしていた。中でも、僕が驚いたのは皆、魔法を使って効率的に仕事をしていたことだ。船を漕ぐにしても、帆に魔法で風を当てて航行し、畑を耕す人も地面に手を当てるだけで土が勝手に盛りかえり、激しい重労働をしている者は誰一人としていなかった。



「ここは本当に楽園なんですね。」


「その通り、この世界では誰一人として悲しむ者はいない。人の間に上下はなく、王も奴隷もいない。動物や魔物は人類の良き友人であり、同じ大地で生きる家族じゃ。どうじゃ?この世界を管理する用意はいいかの?」


「もちろんです!」



歴史学が好きな僕としては、人類の生活を神の視点で観察できるなんて、これ以上ない喜びだ。こんな頼み、断れるはずがない!



「よかった!では、補助をつけようかの。おいで、キュエル!」


「はい!キュエル参上しました!」



神様の呼びかけに応え、一柱のピンク色の天使が現れた。どうやらキュエルという名前らしい。ピンク色の長い髪の毛に、一対の白い翼。服装は神様と同じような白い女性用のトーガを着ていた。



「この子がゼウス君のパートナーだ。わからないことがあったら彼女に聞くといい。」


「よろしく、キュエルさん」


「はい!よろしくお願いします!ゼウス様!」



キュエルさんはめちゃくちゃ美人だ。近くにいるとフワッとしたいい匂いもする。こんな美人な補佐役までついてくるなんて、なんて素晴らしいお手伝いなんだろう。



「二人とも仲良くできじゃの。ではワシはそろそろ行く、楽園の管理任せたぞ!ああ、そうだ。報酬についてだがの、すでに君の銀行口座に1000万ほど振り込んでおる。この管理が終わったら好きに使うとよいぞ。では!」



そう言って神様は部屋から出てしまった。ん?今、1000万って言った?こんな楽しい経験させてくれて、お金ももらえるなんて、神様はなんて太っ腹なんだ!いや待てよ、そういえば、



「この管理はいつまでやるんだろう?」



思い出してみても、神様は期間については話していなかった気がする。他の世界で不具合が起きたって言ってたし、それがどれくらいかかるかにもよるな。ここはキュエルさんに聞いてみよう。



「キュエルさん、この仕事ってどれくらい続くんですか?」


「そうですねぇ、今回の不具合の修正にどれくらいかかるかわからないですが、前回同じことがあったときは、1万年ぐらいかかってましたね!」


「1万年!?それ僕死んじゃうよ!」


「大丈夫ですよ!ゼウス様は今、神様なんですから不老不死ですよ!」



良かった、骨だけになって神隠しから帰ってくる、なんてことにはならないのか。まあ、5億年ボタンみたいなものと思って頑張ろう!少なくともここには、楽園のジオラマがあるんだ!絶対に退屈はしないぞ!



「それにしても綺麗な世界だな~」



僕は楽園の世界を見つめてうっとりしていた。キュエルさんは何やら分厚い本を読んでいるらしく、こちらの事は気にしていないようだった。


と、その時、僕はジオラマの端にいくつかボタンがあることに気づいた。赤、緑、青、黄、他にもいろいろな色のボタンがジオラマの端に所せましと並んでいる。



「キュエルさん!このボタンは何ですか?」


「え?それは・・・えぇと」



キュエルさんは読んでいる本を急いでめくり始めた。もしかして、キュエルさんが読んでいるのは、このジオラマの説明書かなんかなのだろうか。



「あ!ありましたぁ!それは、天候を操作するボタンらしいです!赤が晴れ、青が雨とか色によってきまってるらしいですよ!」


「そうなんだ、ありがとう。キュエルさん!」


「はい!私もお役に立ててうれしいです!」



そうか、天気を制御するのか、試しに赤を押してみよう。ちょっと雲が出てきているみたいだからね。


ポチッ!



ん?雲が晴れないな。もう一回押してみるか。


ポチッ!


やっぱり天気が変わらない・・・壊れてるのか?

そう思った瞬間、ジオラマが激しく揺れ始めた。


「なに!?」


ゴゴゴゴゴゴゴという音を立てて大地が揺れた。そして、地響きとともにジオラマの真ん中にあった山が崩れ、最上部から煙が噴き出した。


「え?」


中央の山は噴火し黒煙と溶岩が噴き出した。溶岩は噴火口からドロドロと流れ出し、山の中腹の集落を呑み込み、川沿いの集落へと迫っていった。



「キュエルさん!?なんかヤバいことになってますよ!」


「えぇ!何してるんですか!とにかく噴火を止めてください!」


「止めるって、どうやって?」


「どこかに停止ボタンがあるはずです!それを押しましょう!」



停止ボタンってどれのことだ?赤いボタンをもう一回押してみるとか?いや、これ以上噴火したらやばい、他のボタンにしよう。とりあえずこの緑のボタンなら、安全かもしれない!


ポチッ!


「どうだ!」



素早く楽園を確認する。しかし、そこには元通りになった美しい楽園の姿ではなく、大きな竜巻と溶岩が自然を荒らす、地獄が広がっていた。


緑のボタンは竜巻を起こすボタンだったのか!



「ゼウス様?何勝手にボタン押してるんですか!今、私が対処方法を探したのに問題事増やしてどうするんですか!」


「ゴメン!で、対処法わかった?」


「ゴメンで済みませんよ!まったく!とにかく、ゼウス様が今押した緑のボタンの、隣の青いボタンを押してください!」


「これか?ほんとに大丈夫なんだな?」


「メモ書きによれば、それで火が消えるらしいです!」



良し!じゃあ押すよ!


ポチッ!



僕は青いボタンを押した。するとどこからともなく水が溢れだし、火山や燃える集落を包み込んだ。それどころか、森や丘、湖までも呑み込み、美しい自然の風景はすべて水の底へと沈んだ。



「あ、あの~ゼウス様。どうやらそれ、洪水を起こすボタンらしくてですねぇ。これ使うと人類は滅亡するらしいです。あはは。」



しってる。ノアの箱舟の洪水伝説ね。堕落した人間たちに罰を与えるために洪水を起こしたんでしょ。まさかこんなボタン一つで起こせるものだったとは思わなかったけど。



「これ、どうしよう。」


「えぇと、こういう時はいったんリセットじゃないですか?電源落としてみましょう!」



え?電源落とすって言った?それって、パソコンがバグったときとかに一番やっちゃダメな行動では?



「えいっ!」



あ、消えた。ジオラマの電源コードっぽいやつ抜いたら、ジオラマ真っ暗になっちゃたよ?どうするの?



「もう一回電源入れますね!」



点いた。けど真っ白じゃん。地面とか海とかそれ以前になんもないよ。



「あのぉ、元の楽園のデータ消えちゃったみたいです。」



終わった。



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お読みいただきありがとうございます。

随時更新していきますので、これからもよろしくお願いします。

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