【第一章】レクイエムの魔女
四十八時間前……
シリーがわたしの目の前に浮かんでいた。わたしと同じ赤みがかった髪が、炎のように宙へ広がっている。自分の姿を眺めながら、まったく不満を隠そうともせず、鼻にしわを寄せていた。
「なんでチュパカブラの討伐なんて引き受けたのよ。おかげでふたりとも、濡れた山羊みたいな臭いがするじゃない」
わたしは半笑いを漏らし、酒場の窓へ視線を戻した。外では吟遊詩人たちが管楽器を奏で、七千年前に原初の兄弟と戦ったオーロラ女神を讃える歌を響かせている。そのなかで、群衆は隙間もないほど集まり、狂ったように踊っていた。
「あんたがあれだけ食べ物を頼んだからでしょ。チュパカブラを討伐すれば経費を出すって、依頼人が言ったんだから」
そう言いながら、蜂蜜酒のカップを引き寄せた。
「じゃあ、やっぱりあんたが悪いじゃない。わたしのわがままをいつも許してるのは、あんたなんだから」
シリーはぼやきながら窓際へ移動し、腕に鼻を押し当てた。
望めば蒸気のように半透明になり、必要とあれば空間を占めるほど実体化できるシリーは、ガラスにもたれるように身を傾けた。わたしと同じ緑の瞳は外へ向けられている。もしかすると、自分の臭いをこちら側に残して逃げようとでも考えているのかもしれない。
飲む前に、わたしは付け加えた。
「そのぶん、魔力はたっぷり蓄えられたでしょ」
もう少し注意深く見てみると、シリーは数日前より少し大きくなっていた。手と顔はすでにはっきり輪郭を持っているが、末端はまだ霞のように溶けかけている。シリーが着ているのは、すくい取ってそのまま切り離したような質素な黒いワンピースで、裾はふくらはぎまで届いていた。
何世紀も、彼女が別の服を着ている姿を見た覚えがない。おそらく、彼女自身も覚えていないだろう。
気がつくと、シリーはもうわたしの隣にいた。考えが頭をよぎるように、素早く、そして厄介に。
「なんでまだそんなもの飲んでるの。そのせいで、わたしまで口の中が苦くなってるんだけど」
シリーはカップを見て顔をしかめた。
わたしは急がずに頭を傾け、沈黙をちょうどいい重さに保ったまま彼女をいらつかせた。ついでに、一晩中外で動き回ったせいでくしゃくしゃになったクロップ丈のタートルネックへ目を落とす。ほぼ百年間同じタイプの服を着続けていることについて、特にコメントはなかった。
「だったら、黙って一緒に味わいなさい」
シリーは舌打ちした。褐色で角ばった顔の周りで髪がうねり、消えていく。体の色は褐色と青緑のあいだで脈打つように揺れ、苛立ちが強くなるにつれていっそう揺らめいた。
「ここでちゃんとしたお風呂って、いくらするの。……まあいいや、早く入ってよ。そうしないと、わたしまで汚れた気がするじゃない」
わたしはくしゃくしゃの赤い巻き毛に手を走らせた。いつも怪物を狩り終えた翌朝みたいに、あちこちが跳ねている。フラスコが詰まったベルトで固定された緑のスカートに目をやり、破れた黒いタイツとブーツの裏についた乾いた泥を確かめた。シリーの言う通りだと思ったが、認めるつもりはなかった。
「銀貨一枚よ」
「銀貨一枚って! パンが十五個も買えるじゃない! ぼったくりにもほどがある!」
シリーはわたしの前でくるりと回り、興奮して、ほとんど赤くなるほどだった。
わたしは窓から視線を外し、彼女の目を真っ向から受け止めた。こうして誰かに近い距離で見つめられると、たいてい最初に目を引くのは緑の瞳だ。
それがわたしの見た目の中で、唯一、人を怖がらせない部分だと、一度や二度は聞いたことがある。残りは、見た目どおりのものだった。エルフ。
「だったら、もう一晩そのまま濡れた山羊の臭いでいなさい。それに、あんたがお風呂なんてそんなに気にするようになったの、いつからなの」
「あんたのせいでしょ! あんたがわたしをこうしたんだから、ザラ!」
彼女を形作っている霞が体の輪郭に沿って揺れ、魔力の金属的な青が、秒ごとに強くなっていった。
「わかってる、わかってる。だから可愛いのに、忍耐だけは底なしに欠けてる」
シリーは舌打ちし、空中で二回転してから、わたしの向かいの椅子の背もたれに降り立った。そして、今にも裁判でも始めそうな顔で足を組んだ。
わたしは髪の一束を指に絡めながら、視線を酒場の中へ巡らせた。それからその髪を、尖った耳の後ろへ押し込む。
魔力の水晶ランプがテーブルの上に青い光を広げ、外の吟遊詩人たちに向かって大声で笑い、叫び、手を叩く客たちの汗を光らせていた。
泥酔した者が床に倒れ、仲間が通りまで引きずって連れていく気になるまで、そのまま転がっている。
「なんでそんなに、その祭りをぼーっと見てるの。どこでも同じようなものでしょ」
あの人を思い出すから。
その考えを胸の中にしまい、答える代わりに、群衆の頭上を通り過ぎていく巨大な人形たちを目で追った。不釣り合いに大きな頭がゆらゆら揺れながら、通りの群衆に担がれて進んでいく。
「あ、今日なんだ。どれくらいになる?」
シリーが顎を上げ、肩越しにわたしを見た。
わたしはゆっくりと蜂蜜酒を口に運びながら、頭の中で数えようとした。
「二十年……かな。四十年かもしれないけど」
そう言って顔をしかめると、シリーは短く、苛立たしげに息を吐いた。
「二十年か四十年か、どっちかなのよ、ザラ。そんなに差があるのに混同しないでよ。四十年って、人間にとっては丸ごと一生分みたいなものだって、まだわからないの」
わたしは肩をすくめ、もう一口飲んだ。
「時間の感覚は昔から苦手でね。それに、あんただって、わたしたちのお金の管理は救いようがないでしょ」
シリーは鋭く息を吸い込み、ちょうどいい具合に傷ついたような顔をした。
「救いようがないって。わたしのせいにしてるけど、ザラの仕事が基本的な出費すら賄えてないこと、認めたくないだけじゃない」
カップから顔を上げ、一番きつい返事は飲み込んだ。言い返したところで、気分が良くなるわけでもない。
「基本的な出費っていうのは、まともな宿に一泊して、清潔なベッドで寝て、三食食べること。運が良ければ間食まで。それに、チュパカブラを討伐した当日に山羊肉を三キロ平らげることは含まれてないから」
そう言いながらカップをテーブルに置くと、シリーは肩をすくめた。
「よく食べることは大事なの。意地と不味い酒だけで生きてるあんたと違って」
わたしは頭を傾け、あの軽すぎる体を上から下まで見やった。
「シル、身長十五センチで体重五百グラムもないのに。食べたもの、どこに消えてるわけ」
シリーはまた肩をすくめ、しばらくのあいだ、ふたりとも黙っていた。
「極北のこと、まだ罪悪感を感じてる?」
「答えはわかってるでしょ。なんで聞くの」
シリーは腕を組み、椅子の背もたれより数センチ高い位置に浮かんだ。
「あんたが精神ブロックを起動したから。それに、不死者の頭の中で腐らせておくより、たまには吐き出した方がいいでしょ」
わたしは鼻で短く笑った。
「いつからハカンみたいな話し方するようになったの」
「あんたがまだ過去を引きずってるって気づいたときだけ。それに、極北への旅でハカンからひとつふたつ学んだし……アラリックはハカンの説教が好きだったから」
カップを唇へ運んだが、飲まなかった。手を何かで占めておく必要があっただけだ。
「アラリック、今どこにいると思う。ヴァロレかな」
「魂の『安らぎ』とやらに行けたかどうかはわからないけど……どこにいるにしても、ここよりはマシでしょ。少なくとも山羊臭はしてないはずだから」
今度は笑いが先にこぼれた。シリーも満足そうに微笑み返した。
「シリー、実際に何があったか、まだ覚えてる人っていると思う?」
シリーは考え込むように首を傾けた。
「どうかな……人間の記憶は短いからね。戦いに負けたことは覚えてるだろうけど、あんたたちのおかげで大陸が戦争に勝てたことは、たぶん忘れてると思う。まあ、このお祭りだって、もともとはあんたたちのおかげで始まったわけだし……結局、覚えてるのはそれくらいでしょ」
カップの縁を指でなぞった。夜が更けるにつれて酒場は混み合い、人の出入りも絶えない。タバコと汗と熱気の匂いが、次々と中へ流れ込んでくる。
「こんなお祭り、昔はなかったのに。たぶん、なんでこの時期に祝ってるのかも知らないでしょうね」
ドアから目を離し、彼女を見た。
シリーは鼻で笑うように息を漏らした。
「これがアラリックの求婚の試みから始まったって知ったら、怒るかな」
わたしは笑ってうなずいた。シリーは二度まばたきし、深く息を吸い、顎を上げた。その視線が、わたしの背後にある何かで止まる。
「馬鹿が近づいてきてる」
シリーが歌うように言った。
肩越しに振り返るだけで十分だった。その男には見覚えがあった。ずいぶん年を取っていたが、あの喧嘩好きの酔っ払いに違いない。
テーブルの間を、昔と変わらない歪んだ自信でかき分けながら進んでくる。革のジャケットには古い油染みが残り、その歩き方は、長年転び続けてきたことを物語っていた。
視線はまっすぐこちらへ向かってくる。口が開き、閉じる。乱雑に置かれた椅子を避けようとした瞬間、体勢を崩してつまずき、体が前へ突っ込んだ。
手がわたしのカップを叩き、蜂蜜酒がテーブルに広がる。男はそのまま床に倒れ込んだ。
液体の跡を目で追ってから、酒と苛立ちで腫れたその顔を見下ろした。茶色い髪が額に重く垂れ、濃いひげが顔の半分を覆っている。体の大きさと体毛の多さを除けば、昔あの路地で見たガキと同じだった。
立ち上がろうとして、途中で諦めたらしい。目線だけが上がり、わたしの目と合ったまま動かなくなった。
「なんでまた、わしの街にいやがるんだ。この臆病者の売女め!」
一気に血が頭にのぼった。ゆっくりと息を吸い、返事を引っ込める。ここで望む反応を与えれば、この夜を牢の中で過ごす口実をやることになる。シリーを目で探したが、もうわたしの上に浮かんでいた。
「あの頃と同じ人? 最後に会ったのって、いつだっけ」
「残念ながら本人よ。二十年くらい前? 四十年だったかもしれないけど」
自分がさっきと同じ答えを返していることに気づき、目を丸くした。それから男を正面から見つめ返す。男はしゃっくりとげっぷの間みたいな音を漏らし、残った品位をかき集めて、なんとか立ち上がろうとした。
「この老いぼれ魔法使いめ! 誰と話してるんだ、幽霊でも見えるのか!」
わたしは横に笑い、鼻からゆっくり息を吐いた。
「お酒は大人が飲むものって、まだ覚えてないの。それとも懲りない性格なのかしら」
座ったまま続けると、男は汚れた指をわたしに向けた。腕が揺れている。
「おまえが来るたびに厄介ごとが起きるんだ、この魔女め! さっさと消えろ! そうでなければ領主のところへ連れていって、決闘裁判を要求してやる!」
わたしは頭を傾け、その脅しにふさわしい程度の注意を払った。
「わたしに勝てると思ってるの?」
男は笑ったが、その音は喉の奥で死んだ。
「極北からしっぽを巻いて逃げた魔法使いに、なんで負けるんだ!」
その言葉は、おそらく本人が意図していた以上のことを語っていた。極北で誰かを失ったのか、それとも、数十年前にわたしが下した判断の代償を、今も払っている家族がいるのかもしれない。天の英雄を殺した魔女と呼ばれ始めた、あの頃と同じ時期の話だった。
急がずに立ち上がり、彼に退く時間を与えた。もし少しでも分別があるなら、の話だ。立ち上がると顎を上げ、彼がこちらを正面から見ざるを得なくなるまで視線を外さなかった。
「極北でわたしがしたことを裁くために、決闘を挑みたいの? 個人的な理由があるなら話は別……ただの馬鹿なら、考えるだけ無駄だけど」
男は口を開いたが、わたしの顔の何かが彼を躊躇わせた。酒が勇気を与えることは知っている。だが、酒場の虚勢と本物の死のあいだにははっきりした違いがある。そして相手がそれに気づいた瞬間も、わたしにはわかる。それでも男は視線を逸らさなかった。
「おまえみたいな輩のいる場所は、ここにはないんだ! アバテウエバはまともな街だ。おまえみたいなやつはいらない!」
その演説には何も返さず、まだ少し液体の残っているカップを手に取り、一歩引いた。ちらりと亭主を見る。わたしの評判は知っているくせに、馬鹿者が吠えてもいちいち止めないタイプだ。目が合った瞬間、亭主の顔から血の気が引き、カウンターの裏に突然なにか重大な用事ができたらしかった。
目の端で、酔っ払いの手がこちらへ伸びてくるのが見えた。触れる前に指を掴み、関節をちょうどいい角度でロックして圧力をかける。大きな体が崩れ、膝が折れ、顎がテーブルの天板を叩いた。
その瞬間、酒場の空気が変わった。椅子が引きずられる音、誰かの叫び声、客が一人ドアへ走る。亭主は恐怖と安堵が入り混じった顔でこちらを見ていた。正直な反応だと思った。
酔っ払いの指を掴んだまま腕をひねり、立ち上がらせるだけの力をかけた。立たせたところで手を離す。彼は後退りし、手を胸に押し当てた。
「酔いが醒めたら、オーロラ女神にロウソクでも立てなさい。わたしが機嫌良くて助かったことに感謝して」
椅子を引き、窓の前に座り直した。
酔っ払いは後ずさりしながらも後ろを振り返らず、自分の足につまずいたが、今度はなんとか踏みとどまった。誰も止めようとせず、ただ道を開ける。
残ったのは重い、しかし不快ではない沈黙だった。テーブルを整えていると、シリーがわたしの顔の前にふわりと浮かび上がった。
「豚に変えてやればよかったのに。その方がずっと面白かったのに……それに、ザラの魔法、錆びついてるでしょ」
「錆びついてなんかいない。あんたを楽しませるために、酔っ払いを豚に変える必要はないから」
目も合わせずにそう返した。シリーはため息をつきながら、わたしの隣へ滑り込むように来て、腰に手を当てた。
「最後に魔法を使ったのって、いつ? わたしと話したくないときに起動する、あの鬱陶しい精神ブロックはノーカウントだから」
カップに残っていた蜂蜜酒を飲み干してから答えた。
「馬鹿なことを言ったからって、いちいち変えてやる必要はない」
シリーは、わたしの顔をひびでも探すみたいにじっと見つめ、それから肩をすくめた。
「なんで。他の豚たちが仲間が増えたって文句でも言うと思ってるの?」
返事を口にしかけたとき、うなじに鳥肌が立った。説明はいらなかった。ただ確認するために、肩越しに振り返る。
最初に目を引いたのは赤い外套だった。次に、金髪の軍人らしい刈り上げ。立ち上がる前にすべてを確かめるまでもなかったが、一目で顔立ちが整っていることはわかった。いわゆる、典型的な美貌というやつだ。
顎の線はくっきりしていて、金色のひげは剃り残しではなく、意図して整えられた長さだった。青い目がわたしの緑と交差する。その視線の向け方が、自分がこちらのことを知っていると、言葉にせず示していた。
「逮捕しに来たなら言っておくけど、わたしは悪くない。あの男が勝手に手を出してきただけ」
そう言いながら、目を合わせたまま視線を外さなかった。
隣でシリーが口笛を吹き、遠慮もなく男の周りを空中で回り始めた。興味の示し方が、わたしの好みよりずっと露骨だった。
「なかなかいい男じゃない。捕まるのも悪くないかもね……」
シリーがそう呟き、自分の顔を手で仰いだ。
その動きを目で追い、わたしは片眉を上げた。シリーが見知らぬ相手に興味を持つのは珍しい。もし好奇心を示しているなら、わたしがまだ気づいていない何かがあるはずだ。赤い外套の男を、少し警戒を緩めてもう一度見た。
革鎧が胴と肩を覆っていて、動きを妨げない程度に柔軟そうだった。心の中でメモする。この男は重い防護よりも機動性を優先している。権力を帯びて街を歩く者としては珍しい判断で、それには相応の自信が必要だ。
「あなたがザラ卿ですか?」
声は低く、自分の重みをよく知っている響きだった。腕を組み、彼がこちらを測るのと同じやり方で、頭のてっぺんから靴の先まで見た。姿勢、呼吸のリズム、腕の位置。片方の手は剣の柄に置かれている。
「場合によるわね。行方不明の娘を必死に探している貴族に雇われた衛兵隊長の一人なら、違う。今日はただの掃除婦よ」
男は短く笑い、肩の力を整えるように姿勢を直した。
「お会いできて光栄です、ザラ卿。エレンドと申します」
目をそらさず、表情も崩さない。こちらが値踏みしていると気づいても、視線を逃がそうとしない男は珍しい。わたしは小さく頭を傾けた。気づいていることを示す程度に。
「そう、エレンドさん……まだわたしを品定めするつもり? それとも用件を話すつもりかしら。雇いに来たの? それとも、薄情な恋人の心を溶かすポーションでも必要?」
エレンドはまた笑った。
「雇うべきか逮捕すべきか、まだ迷っているところです。あるいは……どこか薄暗くて物騒な城へのお誘い、という可能性もあります」
口の端が少し緩みかけたが、抑えた。ユーモアは助かる。ただ、そこまで感心するほどでもない。それでも、彼の評価は少し上がった。
空中でシリーが舞台俳優のようにくるりと回り、こちらに悪戯っぽい笑みを向けた。
「ふたりの間の空気……なかなか面白いじゃない。話くらい聞いてあげてもいいんじゃないの?」
彼女の動きを目で追い、片眉を上げる。シリーが見知らぬ相手に興味を示すのは珍しい。もし乗り気なら、わたしがまだ気づいていない何かがある。警戒を少しだけ緩めて、エレンドを見直した。
「では、こちらがシリー卿ですか?」
エレンドが問いかけ、視線が空中を追った。彼女を探しているのは明らかだった。
「見えるの?」
「はっきりとは。でも声は聞こえます」
「シリー、失礼でしょ。エレンドさんに姿を見せてあげて」
シリーは彼の顔の前にくるりと現れ、彼をからかうように計算された一礼をした。エレンドは一歩退いた。作った平静よりも、その素直な反応の方がずっと好印象だった。
「はじめまして、エレンドさん。わたしが、ふたりの中でまともな方だって保証するわ」
「いろいろ納得しました」
エレンドは同じように軽く頭を下げて答えた。
腕を組み、顎で向かいの椅子を示した。
「感知できるなら、魔力への適性があるってこと。座って、エレンドさん」
「ありがとうございます、卿。はい、身体強化に魔力を使えます」
こめかみに指を当て、一瞬目を閉じた。その時代にそれができる者は、魔術師を除けば、もうほとんどいなかった。
「差し支えなければ、どこで習ったの?」
「アラリック翁に」
口を開き、すぐに閉じた。抑える前に驚きが顔に出た。
「……あの人の弟子だったの。でも、ずいぶん若く見えるけど。アラリックを師匠に持つには。もしかして、ハーフエルフ?」
エレンドはうなずいた。背筋を伸ばすのを見ながら、もう一度、別の角度から彼を見た。
「それで、古い友の弟子に何ができるのかしら。影の君主の城から天の英雄を逃がしたって話を確かめに来ただけじゃないでしょうね」
今度はエレンドは笑わなかった。眉がわずかに寄った。
「実は、あなたが今、手が空いているかどうか確かめに来ました」
ゆっくり脚を組み、視線を外さないまま、沈黙を少しだけ引き延ばした。
「場合によるわね。今のところ、ベッドを温めてくれる相手もいないし、手は空いてるから……まあ、都合はいいかもしれない」
続いた沈黙は短かったが、十分だった。エレンドの表情に、ほとんど見えないほどの調整が走った。わたしの言った意味とは違う意味に受け取って、瞬時に軌道修正したのだとわかった。
「魅力的なお話ですね。受け取り方はいくらでもありますが、大事なことには相応の注意を払うべきですし、あなたは、わたしが中途半端な注意を向ける相手ではありません。今は仕事の話です」
本当に残念そうな顔を作って、もう一瞬だけ優位を保った。
「残念。もう少しで考えてみようかと思ったのに。しばらくベッドが寂しかったから。確か……最後は、あなたの師匠のときだったかしら」
シリーが横で声を上げて笑い、エレンドは咳払いをしてから控えめに笑った。
肘をテーブルに置き、顎を手に乗せた。彼の動作一つ一つには抑制があり、中立を保とうとするはっきりした努力が見えたが、緊張は細部ににじんでいた。とくに、わたしとシリーのあいだを行き来する視線に。
「それで、エレンドさん。こんな辺境まで帝国の衛兵を連れてくるような依頼って、何なのかしら」
エレンドはわずかに眉をひそめた。
「狼男を仕留められるというのは、本当ですか?」
新しいカップを頼んでから答えた。その瞬間、アラリックのことが頭をよぎった。百二十五年前、最初の任務で彼の隣に並んだあの時も、狼男を狩るために呼ばれたのだった。
「若い個体のこと?」
「それはわかりません。狼男かどうかも確かではありませんが、冒険者ギルドに依頼が入り、班が送られたきり、連絡が途絶えています」
カップをテーブルに置きながら、点と点がつながった。
「それで、ギルドが帝国の衛兵を呼んだの?」
「すぐにではありません。最初に魔術師を一人呼び、そのあとで衛兵に依頼が来ました」
「その魔術師は?」
「来たところも、出ていったところも、誰も見ていません」
指でカップの縁をなぞりながら、頭の中で情報を整理した。驚くことは何もなかった。隣でシリーが黙って浮かんでいる。彼女が黙っているということ自体が、もう答えだった。
「冒険者は何人?」
「五、六人といったところです」
鼻から息を吐いた。
「魔術師も消えてる、か……成獣の狼男で間違いない。たぶん雌で、出産が近いはず」
「どうしてそう思うんですか?」
エレンドが眉をひそめた。
「雌の狼男が縄張りを守りながら、あれだけのペースで狩りをするのは、妊娠しているときだけ。生まれてくる仔のために食い溜めしなきゃいけないから。逃げなかったということは、戦う理由があるってこと。若い個体なら、逃げて別の場所を探すはずだから。たぶん、αも一緒にいる」
「では、辺境に迷い込んだ魔獣というわけではない?」
「違う。何ヶ月も前からそこにいるはずよ。出産が近づくにつれて、もっと安全な場所を探したんでしょうね」
シリーの軽い体がわたしの肩に降りた。自分の顎に手を当て、エレンドを見つめる。
「聞いてもいい?」
「何でしょう、シリー卿」
「師匠から、どうやってわたしたちと出会ったか聞いた? つまり……雇われたとき、あの街で何が起きていたのかってこと」
エレンドは一瞬間を置き、記憶を整理するようにうなずいた。
「狩りの最中だったと。狼男に乗っ取られた場所で、街全体が支配されていたと聞きました」
シリーはゆっくりとうなずき、横目でわたしを見た。招かれていない記憶がふっとよみがえる。軽く首を振ってそれを追い払い、エレンドに意識を戻した。
「その場所、何人くらい住んでる?」
「千から二千人ほどかと。最後の調査は数年前です」
隣でシリーが短く息を吐いた。
「ザラ、受けなきゃ」
「わかってる」
「じゃあ、なんでまだ迷ってるの?」
シリーが小声で問いかけた。
エレンドは椅子に座り直し、話の流れを見失ったような顔でわたしを見た。
「シリー卿は、どういう意味で?」
「狼男の雌が出産するとき、呪いが感染するようになるの。血でも、唾液でも、引っかき傷ひとつでも十分。疫病みたいに広がる」
「では……大流行が起きる可能性があると?」
「あり得る。数週間で地域全体が飲み込まれるかもしれない。普通の人が、本能を抑えられない獣になってしまう」
「そういう状況ですが、力を貸していただけますか?」
不快感が戻ってきた。同じ重さで。帝国のこの地域に赤い外套が来るのは不自然だった。こういう依頼は普通、黄の外套が扱う。つまり、これは単純な救助要請ではない。加えて、エレンドには何かが引っかかっていた。
特別な理由があってここに送られてきたのか、それとも都合の悪い部分を省いているのか。どちらかだ。
「もう英雄じゃないし、最後に仕えた皇帝も何十年も前に死んでいる。でも……報酬は?」
テーブルの上の空の革袋を指しながら尋ねた。
「金貨二十枚と、ワイン三樽。その地域は大陸一のワインで知られています」
思った以上に関心が顔に出た。
「オークヘイヴンの話?」
エレンドはうなずいた。
「受ける!」
わたしが口を開く前に、シリーが言った。
鼻から息を吐き、考えが頭の中でぶつかった。ワイン。オークヘイヴン。アラリック。あの土地に埋めておきたいものばかりだった。
「本当に? あとで濡れた犬みたいな臭いがするって文句言わないでよ」
「金貨二十枚あれば、何年だって毎日お風呂に入れるし、あんたの香水だって買える。それに、街の名前を聞いた瞬間、もう受ける気だったでしょ」
シリーが笑いながら言った。
目を細め、それからエレンドに視線を戻した。
「それは否定できないわ。報酬の話、あとで変わらないことを祈ってる、エレンドさん」
「報酬は王冠が保証します、卿。ただ……一つ聞いてもいいですか?」
短くうなずいた。
「どうして街の名前を聞いて気が変わったんですか?」
腕を組み、少し沈黙を置いてから、何を見せて何を隠すべきかを測った。
「あの地域には、大事なものが二つある」
シリーが手を上げ、許可を求めるようにわたしを横目で見てから、エレンドの周りへと滑り出した。
「一番大事なのは、ザラが大好きなワインがあること。でも二番目は、帝国北東部に来た本当の目的に近い場所があるってこと」
エレンドは低く笑い、短くうなずいた。
「その目的を教えてもらえますか?」
急がずに目を合わせた。
「今は依頼に集中しましょう。残りは個人的な話、エレンドさん。信用できる理由をくれるまで、そのままにしておく。天の英雄の弟子で、わたしの親友だったとしても、赤の外套の手に命を預ける気にはなれないから」
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