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【最終章】侍女が王女に転生?!英雄と結婚して破滅の国を救います!  作者: カナタカエデ
第三章

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九話 諚の刻

降り積もりゆく雪を眺めながら、アメリアは体の重さを感じていた。

いつもより、お腹が張っている。


それでも、産まれるとなると予定よりは早い。

あと数週間は、お腹の中にいてほしい。


お腹を優しく撫でる。

出産は前世も含めこれで四度目になるが、今回ほど心配しながら過ごしたことはなかった。


今日は大人しく、部屋で過ごそう。


身体を横たえると、起きたばかりだというのに、すぐに睡魔が襲ってくる。

どうして妊婦は、こんなにも眠いのか……。

身体を伸ばそうとした瞬間、脚に鋭い痛みが走った。


「いっ……たぁ」


足が攣ってしまったのだろう。

この痛みも、この数ヶ月で何度も経験してきた。


ゆっくりと脚をほぐしながら、深く息を整える。

落ち着いたところで身体を起こし、立ち上がった。


シーリーンを呼ぶため、ベルに手を伸ばそうとした――その瞬間だった。


ズキン


お腹が、きゅうと押し潰されるような痛みに襲われ、思わず身体を丸める。


「いたっ……なに……?」


同時に、頭痛が襲ってきた。

視界がぐらりと揺れ、世界が遠のいていく。


陣痛……?

こんなに急に……。


慣れたはずの出産。

それでも、なんの前触れもなく襲ってきた痛みに、立っていられなくなったアメリアは、ベッドの脇で崩れ落ちた。


誰か……呼ばないと……。


そう思っても、身体は言うことをきかなかった。















「カリナ……カリナ! 起きて!」


その声に飛び起きると、目の前にいたのは、紛れもなくよく知るアメリア王女だった。


思わず自分の姿を確かめるように、頬を触り、髪を撫でる。

ふっくらとした頬、茶色く、くるくると整わない髪。

鏡を見なくても分かる。


――それは、侍女だった頃のカリナの姿だった。


「……アメリア様」


「また、会えたわね……」


王女の姿もまた、別れた時のままだった。

結婚してユーラシアへ向かう直前――最も美しく、自信に満ちていた頃の姿。


「あっ……子ども……」


お腹に手を当てる。

ぺたりとした身体に、絶望がよぎった。


「大丈夫よ。ここは、現実ではないから」


焦るカリナを慰めるように微笑む王女に、こみ上げるように涙が溢れ出した。


「あの……私……やり直せましたか?

あなたの……未来を、国の未来を、守れましたか?」


「ええ……よくやってくれたわ。ありがとう」


ああ、やっぱりこれがアメリア様だ。

カリナの心に、妬みはなかった。


彼女こそが、この世で最も美しく、尊敬され、幸せであるべき人なのだ。


「良かったです。私も、これでお役御免ですね」


涙を拭い、努めて明るく笑ってみせる。


「ヴァルク様は、とても素晴らしい方です!

少し……無愛想なところもありますが、国にとっても、アメリア様にとっても必要なお方です。

なにより、あなたを守り抜くことができるのは、彼だけです!

私が保証します!!

ですから……なにも心配せず、残りの人生を歩んでください」


その言葉に、王女は微笑むだけで、何も返さなかった。


「ねえ、カリナ。アメリアとしての人生は、どうだった?」


「え……それは……とても素晴らしかったです。

アメリア様は皆に慕われ、美しくて、何を着ても理想どおりでした。

色々と問題も起きましたが、今はすべて解決しています。

国王陛下や、お兄様方との関係も、うまくいっておりますし……」


「ストーン伯爵とは?」


「えっ……あ、あの……うまくいっております!

ここ数ヶ月は会えていないのですが……でも、大丈夫だと思います」


「そう……あなたは、とても幸せそうね。

彼と、素敵な時間を過ごしたのね」


「……はい。幸せでした。

だから、アメリア様も……」


「私は、彼と幸せになれる?」


王女は、美しく笑った。


(やっぱり……お似合いだわ……)


それは、確信に近い感情だった。


「はい」


「ふふっ……」


王女は笑う。

けれど、その笑いは、腹の底から湧き出るように、止まらなくなっていく。


「アメリア様……? どうされたのですか?」


「あなたって、本当に……

本当に……」


「愚かよね」


王女の瞳は、冷たく光っていた。

そこに、カリナの知る優しい王女の面影はなかった。


「え……?」


「ねえ、カリナ……あなた、不思議に思わなかった?

どうして、あなたのような、なんの身分もない小さな子どもが、王女の侍女として選ばれたのか」


「あなたは王宮にいる間、一度も家に返してもらえなかった」


「どこへ行くにも、まるで私の奴隷のように、張り付いていなければならなかった」


「それがおかしいことだと、なぜ考えなかったの?」


王女の問いかけに、カリナは呆然とする。


何がおかしかったのだろう。

アメリア王女の侍女として仕え、どこへ行くにも、何をするにも共にいた。

それは、幼い王女の友人役も兼ねていたからではなかったのか。


「え……でも……だって……」


「私はね……あなたの人生を奪ったの」


「もう二度と、邪魔させないために」


王女の瞳は、真っ直ぐにカリナを見据えていた。


王女が語るそれが、王女の罪なのか、カリナの罪なのか。

理解できないまま、二人はただ、互いを見つめ合う。


「だから……これから見せてあげるわ」


「あなたに、本当の――私を…」


アメリア王女は、カリナの頬を両手で包み込んだ。

その眼差しは、深い慈愛に満ちている。


二人を隔てていたものをすべて取り払うかのように、王女の額が、そっとカリナの額に触れた。


その瞬間、視界が白く滲み、意識がゆっくりと塗り替えられていった――


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