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【最終章】侍女が王女に転生?!英雄と結婚して破滅の国を救います!  作者: カナタカエデ
第三章

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八話 準備

ノルディアに戻ってからのアメリアは、ヴァルクのことを思い出す暇もないほど忙しい日々を送っていた。


王都へ赴く前に最終段階まで詰めていた城下町の足湯計画が、整備段階へと進んでいたからだ。


城下町の各所に足湯を設け、既存の銭湯に加えて新たな浴場もいくつか建設する。

さらに陶管を街中に通し、足湯の源泉を繋ぐことで、街全体をゆるやかに温める仕組みを作る。

雪を溶けやすくし、凍結を防ぐだけでなく、冬でも人を呼び込める観光資源にもなる、それが、アメリアが描いた計画だった。


整備や維持には当然費用がかかるため、反対意見も少なくなかった。

しかしノルディアには十分な資金力があり、工事や管理によって雇用も継続的に生まれる――そう説明するアメリアの提案に、ヴァルクもまた賛同した。


その後押しもあって、計画は無事に予算を通すことができ、不在の間にも着々と準備が進んでいった。


「足湯ができるの、楽しみですね」


シーリーンが嬉しそうに、工事の進む城下町を眺めながらそう言った。


「そうね、全部は無理でも今年の冬までに何箇所かは完成できそうだわ」


季節は夏の終わりへと差しかかり、アメリアは腹部を目立たせない服装へと変えていた。

城外へ出かけるときは特にできる限り気づかれないよう心がけている。


「それはそうと、アメリア様。

ヴァルク様から、またお手紙が届いておりますよ」


小さな声で告げられても、アメリアはただ微笑み返すことしかできなかった。

王都を発つ前に彼に宛てた手紙の返事は、驚くほど早く届いていた。


身体を気遣う言葉。

約束どおり帰れなかったことへの謝罪。

サイグ民主共和国で、詳しくは書けないが、いくつかの問題解決に関わることになったという報告。

そして、必ず帰るから近況を知らせてほしいという願い。


その筆跡からは、彼の焦りと不安が滲み出ていた。


けれどアメリアは、その手紙に一度も返事を書くことなく、時が過ぎるのを待っていた。

やがて毎週のように届くようになった手紙も、いつしか中身を確かめることすらしなくなった。


――できることなら、このまま。

子どもが生まれるまで、帰ってこないでほしい。


そんなことさえ、心の奥で思ってしまう。


かつては、ヴァルクに別れを告げたいと考えたこともあった。

けれど、再会して未練がましく何かを言う必要はない。


彼が帰ってきたとき、そこにいるのは――

可愛らしい赤子と、王女アメリア。


それが、きっと正しい姿なのだ。


だからアメリアは、手紙を書くことなく、ただ目の前の務めに心を注いだ。

ノルディアを、少しでも豊かに。

人々が、幸せに暮らせる場所にするために。


何かに邁進していると、時が過ぎるのは驚くほど早い。

夏が終わり、秋が来て、そしてすぐに冬が到来した。

雪が散らつくほど寒さが増し、アメリアの腹がすっかり大きくなっても、ヴァルクはまだノルディアへ戻っていなかった。


「アメリア様、いい加減にヴァルク様の手紙を読んであげてください!」


シーリーンは手紙の束を、どさりと机の上に置いた。

いつの間にか、読まなくなった手紙がこんなにも溜まってしまったのか。

そう思うと、かつて自分が送り続けた手紙のことを思い出し、胸が痛んだ。


「わかったわ……読むから、席を外してもらえる?」


部屋に一人になると、アメリアは一番新しく届いた封書を手に取った。

開けると、丁寧なヴァルクの文字が目に入る。


『まだ怒っているのか。

体調はどうだ。ハロルドからの報告では、城下の整備に力を入れているそうだが、無理はしないでくれ。

すぐに帰ってあげられず、すまなかった。

ようやくサイグ民主共和国を出立した。できるだけ早く戻るつもりだ。

ノルディアは、もう寒さが厳しくなる頃だろう。

どうか、体を大切に。』


(不思議な人……)


彼は、なぜ一言も怒らないのだろう。

他の手紙には、怒っているものもあるのかしら。


残りの手紙もすべて開けてみたが、どれも短くとも謝罪と、アメリアの身体を気遣う言葉ばかりだった。


最後の手紙が届いたのは三週間前。そろそろ国境を越えている頃だろうか。


アメリアは、大きくなった腹をそっと撫でた。


「もうすぐ、お父様が帰ってくるわよ」


そう呟くと、応えるかのように胎動が強くなる。

何度も、内側から蹴られるような感覚。


前世で三人の子を産んだカリナは、悪阻もなく安産続きだった。

だからこそ今になって、あれがどれほど幸運だったのかを身に染みて感じていた。

悪阻が落ち着いても、身体のだるさは消えない。

それでも――お腹の子への愛おしさだけは、日に日に増していった。


ようやく筆を取り、アメリアは返事を書いた。

ヴァルクに、最後に会えるかはわからない。

それでも。



――会いたい。




ただ、一言、手紙に書いた。


怒っていないことは、きっと伝わるだろう。

それは、紛れもなく今の気持ちだから。


だけど、決して、「待っています」とは書けなかった。

その確証はどうしても持てなきまま、伝書鳥が空へと飛び立つ姿を静かに見送った。



そして、願いは届かないまま

アメリアは運命の日を迎えることになる。

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