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【最終章】侍女が王女に転生?!英雄と結婚して破滅の国を救います!  作者: カナタカエデ
第三章

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六話 覚悟

悪阻が少し収まったことで、アメリアは久しぶりに庭園で穏やかな時間を過ごしていた。


いまだに毎夜見る悪夢は終わらない。

けれど、すでに身体は――これは前世の記憶なのだと覚えてしまったかのように、あの苦痛を痛みとして感じなくなりつつあった。

刻一刻と迫る最後の瞬間に怯えながらも、日ごとに確実に衰弱していく感覚だけが、現実として残り続けている。


「アメリア様」


「あら、ワトソンじゃない」


声をかけてきたのは、アメリアの宮殿に仕える庭師の一人、ワトソンだった。

彼は前世では、シーリーンと結婚した男である。


シーリーンをノルディアへ連れて行ったことを思い出し、胸の奥がわずかに痛んだ。


「お久しぶりでございます。暫くこちらに滞在されると伺いましたが、お加減はいかがでしょうか。

アメリア様のお好きなダリアも、ちょうど満開でございます」


「そうね……本当に美しいわ。

この庭は、一年経っても変わらないのね」


「良かったです。この場所は、いつまでもアメリア様の庭として残すと伺っております」


アメリアはその言葉を聞き、改めて色とりどりに咲き誇る花々を見つめた。

変わらない場所があるということは、アメリアにとって、とても大切なことのように感じられた。


「……その、シーリーンは元気にしていますか?」


「え? ええ、もちろんよ。どうして?」


「あ、いえ。その……彼女には、弟のように可愛がっていただいたので……」


ワトソンが真っ赤になる様子を見て、彼の真意は手に取るように分かった。

前世では、彼らが夫婦になるのはまだ先の未来だった。

だが少なくとも、ワトソンはずっと昔からシーリーンに想いを寄せていたのだ。


「あなた……ノルディアに来るつもりはない?」


ワトソンは一瞬言葉を失い、再び庭園を見つめた。


「……行っても、よろしいのですか?」


「もちろんよ。

ストーン城はとても綺麗に整備されているのだけれど、庭だけはほとんど手つかずなの。

ちょうど良い庭師を探していたところなのよ」


ワトソンの頬が高揚し、目に力が宿るように輝いた。


「そ、その……親方に聞いてみます。

今は多くの仕事を任せていただいていますし……

それに、両親も……別の土地におりますので」


言葉は落ち着かないものの、彼の決意はすでに固まっているように見えた。


彼をノルディアに呼べば、シーリーンもきっと喜ぶだろう。

前世とは状況が違うため、二人が結ばれるかどうかは分からない。

それでも――少なくとも、自分の中に残る罪悪感は、少しだけ薄れる気がした。


「待っているわ。

もし来てもらえるなら、手紙をちょうだい。正式に庭師として雇い入れる手続きを取るから」


ワトソンが去ると、アメリアは前世の記憶を掘り起こすように、そっと目を閉じた。


アメリア王女と、カリナ――

ふたりのことを。


アメリア王女はアレクサンダーを婚約者に決めた後、できる限りこの国を見て回りたいと言った。

一緒に行こうと誘われ、当たり前のように旅支度をした日のことを、今も覚えている。


港町では市場を覗き、魚料理を食べた。

街では友人のように腕を組み、ふたりで歩いた。

空気の澄んだ山際の土地では、馬に乗るアメリア王女の姿を眺め、その自由で楽しそうな様子は鮮明に思い出せる。


アメリア王女は、ユーラシアへ行けば帰って来られなくなる可能性も、きっと考えていたのだろう。

もちろん、あの残酷な結末を予見していたわけではない。

だが、かつて敵国だったロキアとユーラシアが婚姻によって新たな関係を結んだとしても、国の将来までは誰にも分からない。


「あの日……どうして私を連れて行かなかったの……」


呟いた言葉は、蝶たちが羽ばたく庭園の中へと溶けていった。


王宮にあがってから、どこへ行くにも共に過ごした。共に笑い、共に泣いた。

カリナにとって、最も大切な人は、間違いなくアメリアだった。


『あなたは連れて行けない。だから、家に帰りなさい』


『そこに、きっとあなたの幸せがあるわ』


――嫌です。どうしてですか?

どこへでも付いていくと、申し上げたではありませんか。


傍から見れば、侍女が王女に物申すなど許されないことだ。

それでも縋り付くしかなかった。

カリナにとって、あの方がすべてだったのだから。


『他国に行けば、何が起きるか分からない。

あなたのことを守れるかどうかも分からないわ。

あなたの幸せは、きっと……この国にあるはずよ』


結果的に、その言葉は正しかった。

家に戻ったカリナは、用意された結婚によって家庭を得た。

国が失われるという試練も家族と共に乗り越え、最期まで小さな幸せを積み重ねた人生だった。


だからこそ、アメリア王女と別れたあの日の後悔は、いつまでも消えない。

今もなお、あの人を幸せにしたいという想いは、確かに胸に残っている。


目を閉じると、あの日の別れの光景が、はっきりと思い出された。


――覚悟を決めよう。


あの人を地獄から救い、幸せにするために、私は転生したのだから。


ふと、優しく包み込むような低い声が、脳裏を掠めた。

けれど、その声が本当の名を呼ぶ日は、永遠に訪れない。


それこそが、何よりの答えなのだ。


アメリア王女とヴァルク・ストーン伯爵を幸せにすること。

それが――侍女としての、最後の仕事だ。


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