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【最終章】侍女が王女に転生?!英雄と結婚して破滅の国を救います!  作者: カナタカエデ
第三章

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五話 奪った過去と返す未来

「アメリア様、ヴァルク様から手紙が届きましたよ」


妊娠が告げられてからひと月……ようやくヴァルクから届いた手紙は、サイグ民主共和国に到着したことを知らせるものだった。


伝書鳥によるやり取りは、お互いの手に渡るまでの時間を大幅に短くしてくれる。


早速返事を書こうとして筆をとったものの、結局書けないまま半日が過ぎた。


毎日見る悪夢も、

いつまで経っても消えない吐き気も、

自分が妊娠しているという事実を告げているようでならなかった。


「……気持ち悪い……」


手紙を握りしめたまま身体を丸めると、後ろからローラの優しげな声が届いた。


「フルーツはいかがですか?」


皿に乗せられた爽やかな香りに、ふっと、ほんの少しだけ気持ち悪さが和らいだ。


「なあに? これ」


「南の島で採れるフルーツだそうです。酸味が強いので、悪阻が酷い方には好まれると聞き、取り寄せました」


一口サイズに切られた欠片を口に含む。

鼻から抜けるような爽やかさと、口の中に残る酸味に一瞬目を閉じたが、噛みしめるとフルーツらしい甘みもわずかに感じられた。


「美味しいわ。これなら食べられそう」


「よかったです。少しで良いので召し上がってくださいね」


続きを食べようとフォークを刺したあと、ふとアメリアはローラに声をかけた。


「ねえ、せっかくだから話し相手になってくれないかしら」


「もちろんでございます」


ローラは飲み物を用意すると、アメリアの向かいに腰を下ろした。


おそらく、アメリア王女のことを最もよく知る人物。

彼女とは、必要最低限の会話だけを心がけてきた。

それを破っても、今は知る必要があると思った。


「あなたには本当にお世話になったわよね……小さい頃から……母の代わりだったわ。

ずっと仕えてくれて、ありがとう」


「アメリア様……そんなふうに言ってくださるなんて……夢のようでございます」


「こうしてお腹に子どもがいるかもしれないなんて……不思議な気持ちだわ。

私は母を知らないから、あなたに聞きたいの……」


少し間を置いて、続ける。


「子どもの頃、私はどんな子どもだった?」


アメリアの問いに、ローラは少し考えたのち、ふっと懐かしむように微笑んだ。


「美しく、聡明なお子さまでしたわ……

小さい頃から、お父様の邪魔をなさらぬよう、いつも気をつけておられました」


「そうだったかしら……」


「ですが、そうですわね……一方で、とても我儘なお姫様でもありましたわ」


「わ、我儘⁈」


くすくすと嬉しそうに笑いながら、ローラはアメリアのお転婆ぶりと、姫君らしい数々の我儘を語ってくれた。


「まさか……そんな感じだったなんて」


「ええ。国王陛下にはいつも遠慮なさっておりましたから、侍従たちには本当に好き放題でしたわ。

ですが、我々も姫様の寂しさはわかっておりましたから、できるだけ尽くせるよう必死でした」


ローラは、少し表情を曇らせて続けた。


「ですから、ヴァルク様をお選びになったときは、正直なところ心配でございました。

以前もお話ししましたが――ヴァルク様が王宮へ初めていらしたあの日から、アメリア様は今のように、毎夜うなされるようになられました。

そして、突然人が変わられたようになりましたから……」


――もしかして。


転生してカリナが消えたことで、アメリアの過去が変わってしまったのかしら。


カリナがアメリアの侍女になったのは、おそらくヴァルクと会った後のことだった。


王女と歳の近い、友達のように接することができる侍女が欲しい――そんな理由で選ばれたと聞いている。


当時八歳だった彼女は、二つ年上の自分よりも賢く、すべてを見通すような雰囲気を纏っていた。

けれど一方で、カリナの前では年相応に可愛らしい部分もたくさんあった。


好奇心旺盛で、何度となく城外へお忍びに出かけては、こってりと怒られた――主にカリナが。

国を隅々まで見たいと言い、結婚でユーラシアに行くまでの五年の間にほとんどの領地を共に旅した。


ノルディアと、モリス公爵領を除いて――。


「ですが、ヴァルク様をお選びになって、本当によかったですわね」


「え……ああ、そうね。他の方々でしたら……大変なことになっていたかもしれないものね」


「それもありますが……アメリア様の表情を見ればわかります」


ローラの瞳は、穏やかで母性に満ちていた。


「愛されて、幸せなのだとわかります。

姫様はヴァルク様とご結婚され、すっかり穏やかな目をなさるようになりました。

こんなに幸せなことはありません。


今は妊娠でお身体に不調がおありですが、きっと安定期に入られれば、お元気になられますわ。

ヴァルク様が戻られるまで、こちらでゆっくりお過ごしくださいませ」


その言葉は、嬉しさよりも痛みとなって胸にのしかかった。


――アメリア王女は、本当に幸せだろうか。


このお腹の子を産めば、王国は滅びない。

アメリア王女も、死なずにすむ。

そうだとしたら、何があっても子を産まなければならない。


けれど、この身体を返したその先で、彼女は幸せでいられるのだろうか。


何度も、何度も未来を思い描いた。

その未来を生きたいという思いと、アメリア王女に幸せでいてほしいという思い。


決して同時には叶わない未来が、この子を産むことへの不安を、静かに膨らませていく。


ローラが部屋を出て行ったあとも、アメリアはヴァルクへの返事が書けないまま、何度も手紙を読み返した。


『サイグ共和国に着いた。

 一月ほど滞在したらロキア王国へ戻る。

 息災でいてくれ。

 ヴァルク』


たった三行。

それだけなのに、胸の奥が熱くなり、涙が溢れそうになった。


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