表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【最終章】侍女が王女に転生?!英雄と結婚して破滅の国を救います!  作者: カナタカエデ
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/36

二十九話 黄金の世界

アメリアは迷いなく動き出した。


ヴィータとシンシアもすぐに意図を汲み取り、手際よく作業に加わる。

子どもの手が届きそうな位置にあった道具や商品は、壁際や棚の上へ。

無造作に積まれていた木箱は向きを変え、自然と囲いになるよう配置された。


「ここなら……店の奥からも目が届きますね」


シンシアの言葉に、母親は小さく頷いた。


「ええ……本当に……」


作業が進むにつれ、ただの物置き場だった一角は、少しずつ姿を変えていく。

二階の住居から敷物やおもちゃを運び込み、やがてそこには、小さく可愛らしい“秘密の部屋”が出来上がった。


危ないものを遠ざけ、子どもの居場所を作る――ただそれだけのつもりだった。

けれど気づけば、三人の力作となり、アメリアたちは満足そうに頷き合っていた。


そのとき。


「……ん……」


小さな声とともに、フィーロが身じろぎをする。

長い睫毛を震わせ、ゆっくりと目を開いた。


「わあ……」


寝ぼけ眼のまま周囲を見回し、次の瞬間、ぱっと表情が明るくなる。


「フィーロのおへや……!」


「そうよ、フィーロ。

お兄ちゃんたちが作ってくれたのよ」


「ほんと……?」


抱き上げられ、囲いの中に下ろされると、フィーロは嬉しそうに床に手をついた。

人形を見つけると、すぐに這い寄り、夢中で遊び始める。


その様子を見て、母親は思わず口元を押さえた。


「……こんなふうに、安心して遊ばせられるなんて……」


声は、わずかに震えていた。


「本当にありがとうございます。

こんなものしか……お礼にお渡しできませんが……」


差し出されたのは、先ほど作られたばかりの革の腕輪だった。

そこには、ロキア王室の紋と氷狼騎士団の紋章が、丁寧に縫い込まれている。


「わあ! かっこいい!」


ヴィータが声を上げると、アメリアも目を細めた。


「まあ……。

こんな短い時間で、ここまで仕上げるなんて、素晴らしいわ」


「い、いえ……」


父親は気恥ずかしそうに視線を逸らす。


「もう、あなたってば。

いくらアメリア様がお美しいからって、ずっと顔を見ないのは、逆に失礼よ」


「えっ……」


慌てて顔を上げた父親と、アメリアの視線が一瞬だけ交わる。

彼は慌てたように頭を下げた。


「し、失礼しました……」


「ふふ、大丈夫ですわ」


そう微笑み返しながら、アメリアは静かに思う。


彼はもう、夫ではない。

そして、自分もまた、カリナではない。


そう思っても、寂しさは感じなかった。

彼は彼の人生を生き、私はアメリアとして、交わることのない道を歩んできた。

その選択に、後悔はない。


唯一心残りだった子どもたちも、こうして新しい未来を生きているのだから。



店を後にしたアメリアたちは、数歩進んだところで背後から声をかけられた。


「あの……アメリア様……!」


振り返ると、フィーロの母親が追いかけて来ていた。

両手を胸の前で握りしめ、息を整えてから、深く頭を下げる。


「本当に……本当に、ありがとうございました」


「大したことはしておりませんわ」


アメリアは首を横に振った。


「それに……私のほうこそ。

大切なことを、思い出させていただきましたので。

そのお礼ですわ」


「……大切な、こと……?」


母親は一瞬戸惑い、それから、ぽつりと語り始めた。


「私……夫とは、見合い結婚なんです。

だから、どこか……ずっと距離がある気がしていて……」


言葉を探すように、視線を落とす。


「でも今日、フィーロがいなくなったと聞いて……

あの人が、何も言わずに店を閉めて、必死で探しに走って来た姿を見て……」


そして、アメリアをまっすぐ見つめた。


「アメリア様の申し出を、迷わず受け入れた姿を見て……

この人と結婚して、本当に良かったって……そう、思えたんです」


最後の言葉は、ほとんど涙声だった。


「だから……ありがとうございます」


晴れやかで、少し照れたような笑顔。


その表情を胸に刻みながら、アメリアはゆっくりと頷いた。


「……どういたしまして」


***



店へ戻っていく彼女を見送りながら、アメリアは小さく息を吸う。

胸の奥で、曖昧だったものが、静かに形を成していくのを感じていた。


そして、隣に立つヴィータとシンシアに、そっと声をかける。


「ふたりに、お願いがあるのだけど……いいかしら?」


その声は穏やかだったが、確かな決意を帯びていた。










夕陽が落ちていく。


ロキア王都を見渡せる丘の上に立ち、アメリアは世界を見ていた。

屋根に反射した夕陽が、黄金色に染め上げていく。

小さく見える人々の影が、踊っているかのようだった。


この場所で、かつてヴァルクの心に初めて触れた日のことを思い出す。


あの日から、この人生は確かに動き出した。

ヴァルクと生きる未来へと。


微かに香る花の匂いに、アメリアは目を閉じる。

そこに重なる、懐かしい彼の香り。


ゆっくりと振り返ると、待ち侘びた人が立っていた。

少し怒った表情――それでも、少しも怖くはない。


これから話すことを、彼は受け入れられるだろうか。


それでも、心はもう決まっていた。

いつだって正直だった彼に、返せる唯一のものを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ