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【最終章】侍女が王女に転生?!英雄と結婚して破滅の国を救います!  作者: カナタカエデ
第三章

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十五話 回顧録 -喪失-

ヴァルク・ストーン伯爵が王都に着いたと連絡があったのは、それから数日後のことだった。

近隣の領主の仲裁を終え、国王へ謁見しに来たヴァルクを迎え入れる。


「ご苦労だったな、伯爵」


普段はいないアメリアも、カリオンとダリオンとともに並んでいることに警戒したのか、こちらを一瞬見た後、短く息を吐いた。


「いえ、想定より時間がかかってしまい、申し訳ありません」


「それはそうと……街で君のことが噂になっているのは知っているか」


「……噂とは……?」


「はっ、そんな惚けた言い方をしても無駄だ。鍛冶屋の娘を愛人にしているらしいじゃないか! 妹をなんだと思ってる!」


「ちょっ……お兄様! やめてください!」


こともあろうに、まだ役人たちがいる前で声を荒げるなんて……。

ダリオンの考えなしな行動に、カリオンも父も、明らかに不快感を露わにしていた。


「それは……なるほど、そういうことでしたか」


伯爵の視線が痛い。

彼女は無事なのだろうか。最後に会った時の悲痛な声を思い出し、胸が締め付けられた。


「ヘブラム国王陛下、私はあなたに全てをお返ししたく、本日ここに参りました」


ヴァルク・ストーン伯爵の声は落ち着いていた。

それとは反対に、父も、周囲で聞いていた側近たちも、皆動揺を隠せていなかった。


「どういう意味だ?」


「そのままの意味です。

陛下に頂いた領地も伯爵位も、団長職から騎士の称号に至るまで、すべてお返しいたします」


「ストーン伯爵! それは叛逆と捉えられてもおかしくない発言ですぞ!」


側近たちから上がる声に、伯爵はゆっくりと首を振った。


「叛逆だと仰るならば、甘んじてその処罰を受けるつもりです」


「……婚約を破棄するために、すべてを捨てるのか……?」


黙っていた父の言葉に、伯爵は再びゆっくりと首を振った。


「違います。その噂になったという女性は、私が懇意にしている鍛冶職人の娘です。

先日、事故に遭い、視力を失ったと聞きました」


「えっ」


思わず声を上げると、伯爵の鋭い視線に射抜かれる。

彼は知っているのだろうか……あの日、彼女が私の馬車を追ってきたことを。


「その噂が事故の原因である可能性があるのなら、それは私の責任です。

王都の医者でも治すことは難しいと言われたと…国外で腕の立つ医者を探すために全ての職を辞したいのです」


「伯爵……たかが町娘のために、爵位も領地も捨てるというのか!

貴様を慕う団員や領民を捨てるつもりか! なんと愚かな!」


「陛下!こんな無責任な者に爵位など相応しくありません!」


口々に上がる非難と侮辱の言葉。

父はそれを制するかのように立ち上がった。


「少し考えさせてくれ。

今日この場で起こったことは口外禁止だ。もし漏らした者がいれば……容赦なく罰する」


父から放たれる冷たい怒りに、その場にいる全員が息を呑んだ。

誰もが青ざめる中、その原因であるストーン伯爵だけは、素知らぬ顔をしていた。


彼の中では、すでに結論が出ているのだ。


散り散りに皆が立ち去った後、ストーン伯爵を私室へ招いた。


「来ていただき、感謝いたします」


「いえ……殿下には随分ご迷惑をおかけしたようで、申し訳ありません」


その言葉に感情が籠っていないことは、誰の目にも明らかだった。

それでも王女として仮面を外さぬよう努めた。


「実は……カリナさんと事故の前にお会いしました。

あなたとの誤解を解こうと私の乗る馬車を追って……その時に怪我をされたのだと思います。

だから、あなたが自責の念に囚われる必要はありません。

それは、私の過ちです」


「……申し訳ないが、もう決めたことだ。

どのような結論が出ようと、私はこの国を出る」


「ど、どうしてですか?

国王陛下は、あなたをとても高く評価しているのですよ」


「あの子とは……噂のような関係ではない。

だが、妹のように思っていたのは事実だ。

だから、どうしても助けたい」


「では、私も協力します!

このままでは、私も申し訳なくて……。

婚約破棄は仕方ありませんが、騎士ですらなくなるなど、あなたに相応しい結末ではありません」


「……相応しい、とは何だろうな。

そもそも、私に爵位や領主という地位こそが、相応しくなかったのかもしれない」


「ひとりで、この世界から彼女の目を治せる医者を探せるとお思いですか?

私やロキア王国の協力があった方が良いとは思いませんか?」


「……悪いが、殿下が思うほど、私は立派な人間ではない。

本音を言えば……ただ、この不条理な世界を投げ出したいだけだ」


「……それは、私のせいなのでしょう?

あなたの大切な人を傷つけた私と、この国が許せないのではないですか?」


初めて本音で向き合ったヴァルク・ストーンは、とても小さく見えた。

そして、フィリップの何倍も人間らしかった。


彼が哀しげな目でこちらを見た瞬間、悟るしかなかった。

もう彼を引き留めることはできないのだと。


あの子が傷ついたという現実は、この国で得たすべてを捨ててでも逃げたいほどのものだったのだ。






数日後、王命として、ヴァルク・ストーンの爵位返上、領地没収、騎士団長の解任、そして王女との婚約破棄が発表された。

ヴァルクは、その足で国を出た。


彼の騎士としての腕は、他国に渡すべきではないという声もあった。

だが、国王はそれを退けた。


そして、ロキア王国は――

もっとも忠実な騎士を失った。


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