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【最終章】侍女が王女に転生?!英雄と結婚して破滅の国を救います!  作者: カナタカエデ
第三章

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十二話 回顧録 -落ちる-

「……断れって……。私は、今日、あなたと結婚すると父の前で宣言したのですよ」


ヴァルク・ストーンにとって、国王への誓いはそんなに軽いものだったのか。

父が右腕にと言ったほどの人なのだから、よく知れば、もっと何か惹かれるものもあるかもしれない――そう思ったのが間違いだった。


「あなたが私を選んだのは、他に選択肢がなかったからでしょう。それは分かっています。

だから、無理をして結婚する必要はありません」


「無理してって……そんな簡単な話じゃ……」


「フィリップの女癖の悪さは、騎士団でも有名な話です。

ユーラシアの王子は外交には長けていますが、あの国の王子です。腹の内は読めない。

この中で私を選ぶ以外なかった――それも分かっています。王は、婚約者を決定したら最低でも三年は婚約期間を設けると言っていましたし、その間に、あなたは自分に相応しい相手を探せばいい」


淡々と語られた内容の中で、結局、頭に残ったのはフィリップのことだった。


みんな、フィリップの周りにいる女性の存在を知っていたのだろうか……。


いまだに頭の中を占めるのはフィリップ・モリスのことだというのに、相応しい相手など、探して見つかるはずがない。


そして最後は、婚約を破棄したいと思っているこの男に、頼み込んで結婚しなければならない。


その未来を想像すると、返答する気力さえ湧かなかった。


「……少し、考えさせてください」


小さな声を振り絞るように告げると、ストーン伯爵は頷き、

「あなたには、もっと相応しい相手がおります」と言い添えた。


今さらそんなことを言われたところで。

それは、価値のない女だと言われたような気がした。

彼が少しでも自分に興味を示していたらもっと心は救われたかもしれない。

だけど、そんな結果にはならなかった。

初恋を失い、父の期待を背負い、好かれてもいない男に結婚して貰うように動かなければいけない。


それは、考えるだけでも生活すべてを投げ出したくなるほどの衝撃だった。


それからの生活は王女として生きて来た十八年とは別物だった。

人目を避け、宮殿に引き篭るようになった。


そうして一年が過ぎようとしたとき、望まぬ訪問者によって、踏み込んではいけない領域へと落ちていくことになる。


「やあ、アメリア! 久しぶりだね」


「フィリップ……どうやって、この宮殿に入ったの?!」


「どうって……いつもどおり、面会の手続きを取っただけだよ」


何事もなかったかのように微笑むと、フィリップはローラに目配せをした。

彼女は一礼し、静かに席を外す。


「……ローラね。余計なことを」


「もうすぐ婚約の儀が行われるそうだね。なのに、この一年、君は宮殿に閉じ篭り…アメリア王女は神隠しにでもあったのかと皆噂しているよ」


「よくも、ぬけぬけとそんなことが言えるわよね……元はと言えば、あなたのせいなのに」


「僕? 何かしたっけ?」


「…あなたが、いろんな人と関係があるから…だから私は……」


そこまで言って、涙と嗚咽が込み上げ、歯を食いしばった。

いまだにフィリップを見ると胸が高鳴る――その現実が苦しかった。


「ふーん…だから、僕を選んでくれなかったんだね」


「当たり前よ……真面目に生きていたら、今頃あなたは私の夫になれたのにね」


強がってそれだけ言い、視線を逸らす。

すると、フィリップの長い指が、そっと頬に触れ、わかりたくないのに胸がときめくのを感じた。


「君と婚約したら、誰とも遊ぶつもりなんてなかったよ」


「嘘! この耳で聞いたもの!

“アメリアは王宮から出ないから、公爵領に来ればいい”って!」


「そんなの、適当に言っただけさ。

僕にとって、大事なもの以外は全部どうでもいいんだから」


フィリップは妖艶に笑った。

その美しさが、まやかしだとなぜ気づかなかったのか。

そう思っても、彼の瞳に見つめられると、何でも頷いてしまいそうになる。


「それはそうと、ストーン伯爵のことで、面白い話を聞いたんだ」


「面白いって……どんな?」


「一緒に見に行かないか。ちょうど今日、その現場を押さえられそうなんだ」


楽しそうに笑いながら、迷いなく手を差し出してくる。

この一年、彼への怒りはずっと募っていた。

一度も会いたいと連絡すら寄こさなかった――そう思っても、いつの間にか、その手を取っていた。


ふわりと体が浮き上がるような感覚で、久しぶりに宮殿の外へ出た。

ずっと真っ暗だった世界が、フィリップが隣にいるだけで色づいていく。


どうして、こんなにも彼がいいのだろう。

不思議だった。

再び隣を歩ける日が来るなんて。

彼と他の女性との関係など、すっかりどうでもよくなっていた。

よく考えれば、この国で彼に相応しい人間は、私しかいないはずなのに。

なぜ、あれほど絶望してしまったのだろう。


フィリップが、この一年の寂しさを物語のように語るだけで、怒りはするすると溶けていった。


そして、導かれるままに訪れた先で、その光景を目にする。


ヴァルク・ストーン伯爵もまた、人を裏切る男だという事実を。


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