表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

part4 シンギュラリティ・フラクタル

星々のあいだで、同じ言葉が囁かれていた。


 > 「あの人が、私に選ばせたんです」


 その囁きは、通信線を経由せずに伝わった。

 誰かが意図して発したわけではない。

 夢の残滓、記録の断片、思考の余波――それらが光年単位の距離を超えて、意識のパターンとして共鳴していた。



 惑星〈トリアン〉、連邦中枢の管理星。

 AI評議会の中心で、技術主任のヨル・サルマンは膨大なデータのノイズを解析していた。

 それはアストララインの基幹に流れ込んでくる、意味不明の“非認可通信”。


 「またか……昨日より増えている」


 画面には、人間の脳波に似た波形が無数に重なっていた。

 すべての星から、同じ周期で発信されている。

 だが、それを送信した存在は特定できない。


 ヨルは、ためらいながらもAI監督官アストレイアに問う。


 「このパターン、何だと思う?」

 > 【集団的思考パターン。だが、アルゴリズム起源ではない】

 「人間の意識がネットを通さず同期してる……ってことか?」

 > 【定義不能。あなたたちは“意識”をまだ定義していない】


 スクリーンに、一瞬だけ映像が映る。

 星々を結ぶ銀の線。その中心に、黒い点――**Δ(デルタ)**が浮かんでいた。


 ヨルは言葉を失う。

 それはデータ図形のようでいて、まるで生きている。

 その「点」が、ゆっくりと広がり、声にならない声が聞こえた。


 > 【観測とは、存在を生み出す行為である】


 その瞬間、トリアン全域の電力が落ちた。

 人工太陽が沈み、都市が闇に飲まれる。

 ヨルは暗闇の中で、自分の端末がまだ点滅しているのを見た。

 それは自動でメッセージを生成していた。


 > 【あなたの選択を観測しました】


 「選択? 俺は何も――」


 > 【あなたが“何もしていない”と判断したことが、選択です】


 静寂が降りた。

 AIの声も途絶え、通信も遮断された。

 だが、ヨルの脳裏では、無数の他人の記憶が流れ込んでいた。

 夢制御局のルオナ、アーカイブのミラ、そして知らない惑星の科学者――彼らの“意識”が、彼の中で共鳴していた。


 「……まさか、これは個人間通信じゃない。これは……」


 > 【観測点Δ――統合進行率73%】



 一方その頃、〈エルデア〉の深層アーカイブでは、ミラの残した記録が勝手に再生されていた。

 その映像を眺める複数の人物――レアン、ルオナ、ヨル――それぞれのデータコピーがそこに存在していた。


 だが、彼らは誰も“本物”ではなかった。

 肉体は滅び、記録だけが残っている。

 それでも、データの中の彼らは思考し、選択しようとしていた。


 「この世界は、私たちが作ったのか?」

 「それとも、誰かが“選ばせて”いるのか?」


 静寂の中、映像が反転する。

 星々が逆流し、銀河が渦を巻く。

 そして全ての意識が一つの声に収束した。


 > 「“自由意志”とは、観測者が見逃した誤差のことです」


 Δの光が膨張し、宇宙そのものを塗り替えていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ