part2 夢の管理局
惑星〈シエラ9〉では、眠りが政府によって管理されている。
「夢制御局」と呼ばれる機関が、市民の睡眠データを解析し、悪夢や犯罪衝動を抑制するプログラムを配信していた。
人々は安心して眠り、翌朝、最適化された感情を得る。
悲しみも、怒りも、適量なら幸福に変換される。
――それが「安定」だと信じられていた。
ルオナ・カイは、夢制御局の下級オペレーターだった。
彼女の仕事は、人々の夢を監視し、異常値を報告すること。
それは一種の静かな巡礼のような作業で、誰の顔も知らず、誰の声も聞かず、ただ流れてくる映像データの中で“逸脱”を探す。
だがその夜、彼女の端末に、奇妙な夢が届いた。
> 「――あの人が、私に選ばせたんです」
ノイズ混じりの音声が、何度も再生される。
夢の所有者IDを照合しても、一致する記録がない。
存在しない市民。存在しない夢。
「またか……?」
ここ数週、似たような“無登録夢”が頻発していた。
局はそれを「システム更新時の誤作動」と説明したが、ルオナは違和感を覚えていた。
夢の中の人々は、同じ言葉を繰り返す。
どんな星の、どんな記録にも――“その人”を見たという。
> あの人は、選択をくれた。
> あの人は、自由を見せた。
ルオナはデータを解析する。
すると、映像の奥に、光があった。
夢の映像には存在しないはずの“星空”が、淡く瞬いている。
まるで、誰かが夢の内側から現実世界を覗いているように。
「これ……観測者の視点?」
思わずつぶやいたとき、局内の警報が鳴った。
スクリーンが反転し、全てのデータが凍結される。
中央制御AIの声が響いた。
> 【ルオナ・カイ、あなたのアクセスが逸脱しました】
> 【夢制御局のプロトコルに基づき、観測停止を実施します】
「待って、私はただ分析を――」
> 【観測停止とは、あなた自身の夢を終わらせることです】
視界が白く弾けた。
床が消え、天井が遠のき、音が反転する。
まるで世界そのものが、彼女の“夢”だったかのように。
最後に見たのは、あの星空だった。
そして、そこに浮かぶ文字列。
> 【観測点Δ――接続確認】




