第0章 part1 沈黙する惑星
惑星〈レムダス〉は、三十年に一度しか夜を迎えない。
人工太陽の軌道がずらされるその瞬間、都市全体が一秒だけ、闇に沈む。
それは「天文整備の儀」と呼ばれていたが、住民の多くはもう意味を知らない。
闇はただの技術的イベントであり、信仰でも畏れでもない。
けれど、その夜、観測局の一室で――ひとりの科学者が、**予測不能な点**を見つけた。
「確率分布の外側……こんなの、ありえない」
データ技師・レアン博士は、モニターに浮かぶ無数の光点を凝視した。
AIによる行動予測モデルは、すべての人間の選択を99.999%の精度で再現する。
結婚も、職業選択も、犯罪すらも。
“未来”とは、統計によって書き換えられた“現在”の延長にすぎなかった。
しかし今、画面の中に――誰のモデルにも一致しない行動パターンが生じていた。
まるで、未来そのものが観測を拒絶しているかのように。
「これは、誤作動か? それとも……」
レアンは反射的にデータを削除しようとしたが、指が止まった。
どこかで、誰かに見られている気がした。
天井の監視カメラでも、AI端末でもない。
もっと原始的な、“観察されている”という直感。
闇が訪れる。
人工太陽が消え、都市の灯が一瞬だけ落ちる。
その暗闇の中で、スクリーンにひとつの文字列が浮かび上がった。
> 【観測点Δ――接続開始】
「……誰だ?」
レアンは息を呑む。
入力を止めているのに、端末が自動で動いていた。
データリンクは遮断されている。アストララインのメインAIに接続する許可もない。
だが、画面に浮かぶのは確かに“人の意志”のような文章だった。
> 【あなたは自由か】
その瞬間、レムダス全域で通信が停止した。
同時に、他の星々でも――同じメッセージが観測され始めていた。




