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「リーン。練習頑張ってるわね。お昼よみんなで食べましょ」
気がつけば太陽は真上に登り……お腹の空きも忘れていたらしい。
あれ?お父さんがふらふらしてる。
「大丈夫、お父さん?熱中症じゃないわよね。どうしよう。私、練習に夢中になりすぎて周りが見えてなかったわ」
駆け寄って聞いてみると。
きゅ〜ぎゅー。
お父さん。顔を赤らめている。
「その……だな……お腹が」
なるほど、お腹が空いていたのね。
その間に手際のいいお母さんは用意を済ませてしまっていた。
お父さん、お母さん、お兄ちゃん、私。ご飯の時は家にいる家族みんな揃う。
お兄ちゃんは普段、学園の寮にいていないのだけど夏休みということで帰ってきていた。
「「「「いただきます」」」」
色とりどりのサンドイッチをみんなでかぶりつく。なんて幸せだろう。
「ね、お兄ちゃん。学園ってどんなところなの?聞かせて!」
今年魔法科に通う兄に聞く。
学園は一年制で一年のみ通う。つまりお兄ちゃんは一つ年上だ。
「うん。そうだね、有名な話だとペア制ってのを取り入れた珍しい学園だよ」
たまごサンドを手に取る。
大好物だ。
まろやかな卵のソースに塩と胡椒が加えられていて塩気のバランスがとれている。パンにバターを多めに塗ってあるのが我が家の味。
「王都の学園は剣科と魔法科があるのは知ってるよね」
「うん。実技でどっちを専攻するかの違いだと聞いているわ」
「そうだね。二つの学科は同じ人数なんだけど、その強さごとに二人組のペアを作るんだ。初代校長が、剣と魔法の互いの特徴を知るのにって始めたそうだ」
へぇ〜。
平等になるように強さ順なのね。
ん?とすると私、かなり弱い人とペアなのでは?激弱な魔法しか放てないもの。
剣科に私ほど弱いものがいなければそうならないかもしれないが。
まぁ、いい子なら強かろうが弱かろうがいいのだけどね。
「ふふっ。ちなみにお母さんはお父さんのペアだったのよ」
「え、お母さんって魔法使えるよね。なら魔法科じゃないの?」
「ええ、昔は剣オンリーだったのだけどお父さんに教えてもらったのよ」
「エリの剣、かっこよかった」
顔を赤らめて話すお父さん。名前で呼ぶの、実はレアです。
これは結構照れてるわね。
「お母さん、剣士だったんだ」
剣士なのに魔法使うのはなんだか私みたい。
でも、魔法は使えないな、私。
「リーン、ところで前から気になってたんだけど、あなた本当は剣を扱えるのではない?」
「ギクっ!」
なんで分かったの?
驚いてサンドイッチの欠片が食道に詰まってしまった。
「心の声と言うことが逆になってるわよ」
バレてる?でも私はバレてても剣は嫌だよ?魔法がいいの。
「見てしまったのよ数年前。木の枝を振り回すあなたを。遊びかなって思ったけど遊びにしては姿勢が綺麗すぎだったから」
「……」
そんなこともありました。
前世を思い出しつつ、剣ごっこをした時が。
まさか見られていたとは……。
ツナマヨサンドをとって、視線を誤魔化すように食べる。
お父さん。こっちを訝しげに見るのやめよ?
「別に責めてないわよ?気になっただけなの。なんでそこまでして魔法に拘るのか聞いてみたかっただけ。魔法科に行くには、少しもったいないないような気がしたの。話しづらかったらいいのだけど……」
「私は、ただ(あの人を)守りたいだけ。(前世で)剣ではダメだ(った)から……」
大事なところは言ってないから伝わらなかったかもしれない。前世なんて到底信じられないだろうし、自分の娘が狂ったと思ってお母さんの心配症が勃発してしまうかもしれない。
だけど、これが私の気持ちだから言っておきたいことは言っておいた。
もう一つ、たまごサンドを。
お母さんは「そっか。頑張って」と、特にそれ以上深く問いただすことなく応援してくれた。
春にはこの家を離れなくてはならない。それは寂しいけど、大事なことを学ぶために。
ここでは教わらないことを精一杯学ぶつもりだ。
前世の二の舞にならないために。