蛇足 ???side 前編
僕には前世から後悔していることがある。
あの時にもっとできたことがあったのではないかと何度も自問自答してきた。
どうも、こんにちはっす。
僕の名前はキート改めフィータネ・グラファイ。一応こんなんでも第一王子という立場にあるんす。
だけど、僕よりも弟の方が国を治める者としての素質があるのは早い段階から分かってたんす。
僕はどちらかというと影から支えたりする方が得意っすから。
「第一王子は不真面目で、ちゃらんぽらん。町に出ては遊び呆け、勉学には励まず執務もしない」この印象は全部僕が操作したものだから何と言われても構わないっす。
統治者には向かないと、否、アルファイドよりは向いていないと自覚した時から自分を偽ると決めたっすからね。
つまりこの喋り方も偽り。
これは僕の独り言。なのでここからは普通に話させてもらいますね。
僕の偽りは何も一つではありません。
大きく分けて二つです。
印象操作はそのうちの一つに過ぎない。
あくまでも操作ですので事実は違いますよ?
町に出るのはありのままの町を知りアルファイドに知らせるため。王族という身分では見えないものがあったりしますから。
勉学だって彼と同じくらいには出来ます。そうでないと密偵の真似はできません。必要な情報を選別するのにも学がいるのです。
僕は統治以外なら彼と同じレベルでこなせます。
なんなら僕の方が得意なこともあります。これは二つ目の偽りにも関わってくるので後ほど言いますね。
もう一つは偽りというと語弊があるかもしれません。正しくは隠していることです。
それは僕が彼らと……アルファイドとリーンと同類であることです。
そう、僕にも前世の記憶がこの世界に生まれ落ちたときからありました。
彼らの近くにいた記憶が。
前世では志半ばで生を終えてしまったので大切な人たちの最期を知りませんでした。
今でも、行動一つでは過去が変わっていたのではないかと後悔しています。
僕の前世はリンの師匠……になれなかったものです。
かつて師匠をする前、私は近衛騎士団の団長をしていました。歴代最年少で団に入り数年で団長にまで上り詰め、少し奢っていたのを認めます。
そんな奢りを諌めるように現れた存在がリンでした。
最初は、どうせ女が剣を握るなんて遊びだろうと馬鹿にしてたしアルキオネ殿下に命じられて仕方なく剣を教えていた。だけど、ほんの僅かな時で強くなった。
教えたことを丸呑みして、さらに洗練されたものにしていったのです。
リンの振るう剣はとても美しいものでした。
それでいて剣を握っている間、ずっと楽しそうな顔をする。
あぁ、本当の天才とはこういう人を言うのだと思いました。
完敗です。
だから言ったのです。
「これ以上、僕に教えられることは何ひとつありません。もう、あなたの師匠はできません」
実際教えられることは何もなく、むしろ僕よりも強くなったのです。
教えるのには値しないでしょう。
リンはそれでも「師匠」と呼び慕ってくれました。
真っ直ぐで、素直で、優しい子でした。
彼女が近衛騎士にならず側近になったのは多分、配慮なのでしょう。師を越して上の職に就くのを躊躇ったのでしょう。従者も近衛騎士も王との距離は変わらない。
こんなことを元近衛騎士団長の僕が言うのもなんですが、騎士団長の方が部下がいるので便利です。
実力がある者が上に立つのは当たり前なのに。そんなことを気にしたりしないのに。
もしかすると本人も気づいていない優しさかもしれませんが。
彼女には剣でも中身でも敵いませんでした。
そんな素晴らしい人間が好きになるのはやはり素晴らしい人間だった。
アルキオネとリン。
二人が惹かれあっているのは誰よりも早くから知っていました。当の本人たちよりも早く。
いつか成就することを願いながら見守っていました。
そして僕はあの大陸との戦争で命を落としました。
作戦を組むのに失敗したのです。
敵に裏をかかれ挟み撃ちにされ、首に刃が触れたまでは覚えています。




