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エピローグ

「もう、後悔したくないんです」


言って視界が滲んでくる。

また、失敗したら。そして後悔するなんて、同じ道を辿るなんてごめんだ。守れないなら傍にいられない。


「守らないで、後悔なんてしないでよ」


その迫力で何も言葉を発せなかった。そんな私の手を取って彼は続ける。


「ねえ、リン。俺はそんなに弱く見える?いや、君がいないと心の方は確かに脆弱だけど。武力の面で、今世では更に鍛えたし、レベル10までの魔法までなら命に別状なく使える。そんな男が弱く見える?」


先程の戦闘を思い出して静かに首を振る。確かに前世よりも更に強く美しい魔法を使っていたな、と。


「ただ側にいてくれれば他にはなにも要らない。むしろ俺に守らせて。大体普通は男が守るものだ。なのにリーンは俺を身を挺して守ってくれた。今度は俺が守るからリーンは何も気にすることはない」


側にいるだけでいい。

それは私の中にあった鎖を断ち切る言葉だった。

今まで前世からずっと、守らないとって思ってた。もちろんはじめは自分からそう思ってた。

でも、いつからかそれは義務だと思い込んでいたのかもしれない。

守れなかったのは私のせいで私の責任だ。全部自分が悪いんだって。

そうだよね。義務じゃないのよ。


「分かったわ。でも……もしものときに守る権利は欲しい。それが私の生きがいだから」

「ああ、もちろん」


私は守りたいものを守ってきたんだもの。今までもこれからも。

だからこれからも権利としてアルを守ろう。守らないという選択は元から私の中にはないのだ。


「他は?」

「他……。身分、そうよ身分。私は平民なのよ」

「母上も父上も気にしないと言ってたが」

「あぁ、うん。それは聞いた」


つい先日、王妃様本人から聞いた。


「私みたいな平民じゃあ他の貴族令嬢が黙ってないって」

「舞踏会のとき歯向かってくる奴がいたか?」


思い出してみてそんな人が一人もいなかったことに気がつく。普通、平民と王子が一緒にいたら嫉妬だの妬みだのしないのかしら。


「あまりに俺が誰にも靡かなかったのでみんな諦めた」

「なるほど……」

「それに身分を気にすることはないと思うが。だってリーンは公爵令嬢じゃん。リーン・スレイブ嬢?」


へ?

驚きすぎて声もでなかった。

公爵令嬢って……私が??


「うそ、それとも冗談?」

「どっちでもない。リーンは紛れもなく公爵家の令嬢で、宰相の娘だよ」


うーん。なんか情報増えた。

私って魔術の名門に生まれた、魔法が下手な人間ではなかったろうか。そんな大それた肩書き持ってたろうか。


「疑うなら読んでみる?魔法で繋がってるから呼べば来る。なあ、スレイブ宰相殿?」

「ただいま参りました……ってリーン!!??」


光が出て現れたのはいかにも、お偉い方なオーラを漂わせるお父さんだった。

家ではゆるふわ感のあるあのお父さんだった。


「お父さん、なのよね」

「はい、ええと……。そうだ、リーン毒を盛られたと聞いたがもう大丈夫ですか?じゃなくて、大丈夫なのか?」


おお、敬語が混ざってて絶賛大混乱中だ。

そりゃあ職場に家族来たら混乱するよね。感覚としては学校に親が来たときのあれだよね。


「盛られたじゃなくて自分で盛ったのよ。ちょっと失敗しただけだから大丈夫よ」

「そ、そうか大丈夫ならよかった。ところでアルファイド殿下、いかようでございましょうか」


お仕事モードになった。

ゆるふわがガッシリに。

こんなお父さん見るのはじめてだ。


「いや、たいした用じゃないのだが。スレイブ殿は公爵だよな」

「はい。そうです」

「だってよ。リーン」


当然のようにお父さん頷いちゃったよ。


「お父さん、我が家は魔術の名門であれど、公爵家だなんて聞いたことないわよ?」

「だって言ってないから。まぁ、マナーもダンスも身に付けてあるから問題ない」

「それって毎週やってたアレ?」

「『躍りの日』を指してるならそれ。僕、公爵様とか呼ばれて周りに畏まられるの苦手でね、なのに陛下は僕に宰相をしろと言うんだ。ひどいよね。もっと裏方がしたいのに。ほんと、もうこの仕事辞めたい。だからまぁ、肩書きだけで名乗らなければいいやってなんとなく隠してたんだよね」


事情はなんとなくわかった。

お父さんは結構優秀な人材だった。で、目立ちたくも畏まられるのも嫌なのに王様に命を下され宰相をすることになった。自己紹介のとき肩書きを言わなければ良いことに気づいた。そしてそのまま公爵として表に出てくることもなく月日が経った。

なるほどね。


「単刀直入に申し上げます。スレイブ殿、リーンを私に下さい」


ストレートすぎてビックリした。

急に言ったね。


「難しいのは一旦置いといて、リーンはアルファイド殿下のことが好き?」

「ええ、好きよ」

「どれくらい」

「ずっとずっと昔から憧れてて、いつからか好きでした。アルより愛している人はいないわ」

「そっか、なら僕はあげても良いですよ。殿下」

「お、お父さん??」


そんなに早く決めていいのだろうか。

こういうとき、娘はやらん!!みたいなのが鉄板じゃなかったかしら。


「だってさ。リーン」

「うっ……外堀が埋められていく」

「俺を守る必要もない、身分も問題ない、公爵様から許可も貰った。お互いに互いを好いている他に憂うことは?」

「ない、です……」

「求婚は受け入れてくれる?」

「はい」


アルが満面の笑みを浮かべた瞬間だった。


「やったー!とうとうアルファイド殿下に春が来たわ」

「とうとうね」

「うおっしゃー。今晩は祝宴じゃ。腕によりをかけてご馳走を作るぞい」

「よかったっすね!!」

「おめでたいわ」


扉とか窓とかいろんな所が空いて人が雪崩れ込んできた。クラッカーとか太鼓とかが鳴り響いて、急すぎてもうなんのことやら。

ちなみに天井からぶら下がったフィータネさん。扉からフライパンを打ち鳴らすコックさん。窓からはメイドさん。


「お前たち騒がしいぞ。というかいつからいた」


もしやアルが私を口説く会話全て?

それは、私が恥ずかしいのだけれど。


「アルファイド、全部っすよ、全部」


やっぱりか……。

ちょっと布団に潜らせて貰ってもいいかしら?


「いいじゃないっすか。城の皆も王子がいつまで経っても相手を見つけないから。ほら、この城には華がないじゃないっすか!!」

「花なら庭にたくさんあるだろ」

「いや、その花じゃなくてっすね?」


求婚を受けたとはいえ不安だった。

だけど、なんだかこのお城の面子なら楽しく暮らせそうだと思った。フィータネさんのおかげね。

この人、おちゃらけたキャラを演じてるだけですごい人なのかも……。

「あっ、花嫁さん。ここまでアルにお姫様抱っこされて運ばれてきたんすけどね、とっても可愛かったっすよ!!」

布団に潜った。

前言撤回!!

やっぱり演技じゃなくてチャラ男だわ!!!






それから一年と少し後のこと。

快晴の青空の下、私は真っ白なドレスを身に付け教会に立っていた。その胸元を紅蓮の宝石が彩っている。

ステンドグラスの色とりどりの光に照らされて、ドレスも色づく。

その隣に立つのは胸元の石と同じ、赤い瞳をもつ愛しい人。

纏っていたベールがめくられその目と視線をかわす。


「俺は一生をかけて君を守り、来世もその先もずっと愛すことを誓う」

「私も貴方を愛します。というかもう愛しています。あなたは守らなくていいと言ったけれど、私は守りたい。だから私も一生貴方を守ります」


誓いの言葉を述べ、拍手が鳴り響いた。

今日はなかなか相手の決まらなかった王子の結婚式。

王都は賑わい、いつもお祭りみたいなのがよりいっそう大きなお祭りになっている。

なんとこれがこれから一年は続くらしい。

アルは守らなくていいと言ってくれた。

でも彼を守る役目はどうしても他に譲りたくないのだ。


ここは私の居場所。

そして、ずっと帰りたかった場所。

沢山の人に祝われているけれど、それはアルファイドとリーンへの祝福。もう一つの物語は私とアルだけの知るものだ。

叶うまでにかなり時間をかけた初恋。

それがやっと実を結んだのだ。






帝国年4575年。

かつて、一つの大陸が滅びた日からちょうど500年後のその日。式を挙げる一組の夫婦がいた。

白いタキシードと白いドレスを身に付けた新郎新婦の腰には、二人とも白銀の剣が下げられていたらしい。

双剣を片方ずつもつ意味は理解されていないが。

その後、この夫婦が一生を終えるまで仲睦まじくいたことから、帝国の結婚式では白い正装に白銀の双剣が慣例となったそうだ。


最後まで読んで下さった皆様へ、心より感謝申し上げます。拙い文章だったにも関わらずここまで見届けて下さりありがとうございますm(*_ _)m


もしよろしければ、評価やブクマをして下さると作者が飛び跳ねて喜びます!


次ページに、別視点の蛇足(番外編)を投稿しております。良ければそちらもお読みください。

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