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私、リーン•スレイブは十六歳になった。



今とても焦っている。とても。

前世を思い出した日から「いつか彼にあったら今度こそ守る」、そう決意して剣の腕を磨く、ということはなく魔法を練習してきた。それなのにどうにも上手くいかないのだ。

なぜ剣でないか?

だって剣では彼を守れなかった。魔法なら間に合ったかもしれない。その後悔が半分。もう半分は、アルキオネ様の使う魔法に憧れたから。


それに、スレイブ家って魔術の名家だよ!?

っていうのはつい最近になって知ったのだけど……。

お父さんは仕事の話をあまり家ではしないから詳しい内容までは不明。

だけど時々王宮に出仕しているのでそこそこ偉いんじゃないかな。あと、貴族かそれに準じた立場であろうことは知っている。役職すら黙っているので大したことはないのか、大したことあるのかも不明。家は一般的な平民のものよりは大きいし、池のある庭付きだからお金持ちなのかしら?

池では異国のものらしいコイという魚が優雅に泳いでいた。白とオレンジのコントラストが夕陽みたいで美しい。

お父さんについて気になるけど知りたいとは思わない。

仮に高い地位にいてもお父さんならあまり自慢しないだろうし、本人が言いたくないことを知ろうとは思わない。ここには娘に甘いお父さんがいて、厳しいながらに優しさに満ちたお母さんがいて、たまに意地悪もしてくるけど仲の良いお兄ちゃんもいる。それだけで十分、むしろ知ることで変わってしまうなら一生知らなくていい。知らなくていい真実だってあるのだ。

知ってしまうことで厄介になることは多い。だから、このままでいい。

そして、魔術の名家=強い魔術師がいる=教えてもらいやすい。

楽観的すぎるイコール関係で、魔法をお兄ちゃんに倣って私もやってみたけど……。なんだか思い通りにいかない。

名家というだけあってお父さんもお兄ちゃんも、みんな魔法が得意。

なのに、なのにどうして私だけ不得手なの!?

測定したら、魔力は十分。むしろ平均より高かったのに!!


「お父さん、もう一度だけ教えて!!」

「ああ、リーンのためなら何度だって説明するよ。えっとまずはだな……こう、なんてか手に魔力を集めるだろ」


うんうん。説明はざっくりだけどここまでは出来る。

手に暖かい光が集まる感じで……。


「次はどうするの?」


そこからなのよね。

いつもこの次から成功しない。

毎回ちゃんと説明は聞いてるのに。


「で、目の前の標的に風の刃を当てる感じでこうスパッと。イメージが大切だ。あとはスッとしたら適当でもなんとかなる」


なるほど、よく分からないわね。

擬音語だらけじゃないの。

アレだ。天才は感覚で物事をやりとげてしまうから他の人に教えようとしても伝わらないというよくあるやつだ。

まあ、やってみましょう。

刃……剣でいいよね。ニアリーイコールよね。

剣を持つ時の動作は確か、前世でしてたように。この角度でこの力で……。

かつてはよく人を斬ったな。てかよく出来たよね。

気持ち悪い……。人の肉を断ち切るのも返り血を浴びるのも。

それとも平和ボケしたのかしら。

剣ってことはスパっとじゃなくて、正確にはゲシュって方が多かったな。

よし、イメージ出来たわ!!的を人の首だと考えると、大体こんな感じの角度だとよく切れるはず!!


「えいっ」


けれど、いつものように的はそのまま。

ああ〜……。また上手くいかない……。

そこにはごくごく小さな傷のつけられた的が佇んでいた。

傷が入っただけなんて情けなすぎる。剣だったら、きっと綺麗な切れ目を入れるのだって簡単なのに。

落ち込んでる私の頭を撫でる手。


「お父さん……なんで私、出来ないのかな……」

「心配するな。学園に入ったら先生にも教えてもらえる。僕より上手いかも」


そう。来年からは王都にある学園に行く。

希望して合格すれば誰でも入れる。

貴族でも平民でも男女も関係なく。昔は差別があったらしいけど良い時代に生まれてよかった。

剣科と魔法科があって、私は魔法を選んだ。  

人数合わせもあるから希望通りになるか不安だったけど、杞憂に終わったみたいだ。

そして、入る頃にはそれなりに魔法を使える子が多いと聞くから私もそれに準じて魔術師として一流のお父さんに習っているところなのだけど上手くいかない。何故?

毎日、頑張ってるのに!!


「リーン。今日はもうやめにするか?」

「いえ、まだよ。さっき始めたばかりだもの。お父さん今日お休みでしょう?日が暮れるまで付き合ってくれる約束をしたわ」

「頑張り屋だね。それでこそ我が娘。リーンのためなら僕はいくらでも付き合うよ。よしっもう一度しよっか」

「ええ、望むところよ」


頑張り屋?

いいえ。前世の数年の剣士修行に比べればずっとましだわ。

応援してくれる家族もいる。

これでも成長はしてる。一年前なんて魔法の発動することすら出来なかった。

だから、あと数ヶ月、学園が始まるまで精一杯頑張ってみせる。


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