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しばらく何も言葉が出なかった。
戦うのは止まらないけど。
なんで?なんでそんなことのために彼は自らをも犠牲に?
レベル11の己も焼くとはそう言うことだ。
私のために自死したようなものじゃないか。
「戦争が終わってからから……」
「20年後」
だとしたら彼は40代で亡くなったことになる。
あまりに早い死だ。
歴史ではもっと長く生きたことになっていたんじゃなかったかしら。まぁ、歴史は都合よく書き換えられるみたいだと今世で分かったけれど。
「それまであの地に行くことすらなかったが、いざ慰問に訪れると感情が押さえられなくなった。決してお前のためにならないと分かりながらも無意識に唱えてた。自らを滅ぼす呪文を」
「どうして、せっかく生き延びたのに。もっと自分の好きなことしたら良かったじゃない」
「リンの……お前のいない世界に価値なんてなかった。何をしても楽しくなかったし、景色は白黒になった。唯一の信じられる奴もいなくなった。人間不信だったのにお前を失ってどう生きればいい」
そうだ。
彼はもともと死を望まれて育ったと言ってたっけ。
だから出会ったときもあんな辺境にいた。
それで王権争いとか関係ない私に出会って、 やっと信じられると安心してた。
なのに、私はそんなアルキオネ様を置いていったんだ。
「俺はね、リン。君がいないと全然完璧なんかじゃなかったんだ。あの日、君と出会ってからとっくに限界だったんだ」
とても、寂しそうな笑顔で胸が締め付けられる。結局のところ、私が死んだ後のことは実際に見ていないから想像しかできない。けれど。
「あの日、心を折る寸前で君は『生きてほしい』と願って支えてくれた。だから、なんとか立ち上がれただけで、独りだと駄目なんだ」
「アルキオネ様……」
「君は俺の唯一であり生きる理由そのもの。これまでもこれからも。だから、今回は絶対に負けるわけにはいかない。【レベル9 ファイアバーン】」
咄嗟に剣を構える。
それだけ大事だと思うなら、そんな危ない魔法ぶっ放すなんてとんでもないと他の人は思うだろう。けれど、これが私たちの普通で互いの力を信頼している証なのだ。
だけど、ちょっとレベル9は強いな。
押されてるし。これ耐えられるかな。
「あっ」
僅かに剣の角度がぶれてしまった。
「【レベル10 ウォータ】」
焼かれる。
目をつぶったけど、いつまでも熱くはなくて。
代わりに相殺されて威力の弱まった水がかかった。
相殺されたとはいえ、レベル10はかなり痛い。それでも高レベルの魔法をまじかに感じて致命傷を負っていないことから、魔法がいかに精密な操作をされているか読み取ることができる。
ファイアが当たってたら死んでたし、身体中の擦り傷ですんだなら良かった。
さて、まだ戦おう。
そして踏み込んだけど足場がぬかるんでて、後ろ向きに盛大にこける。尖った石が頭が落ちそうな所にあるのが見える。
あれが当たったら戦いとかの前に死ぬよね。今度こそ終わった……。
「あれ。痛く、ない?」
アルに抱きしめられて二人で地面に転がっていた。
結構な距離があったのに助けてくれた。
起きあがろうとしたら腕の力が強くなって阻まれた。
「ちょっと……」
「今は顔を見られたくない」
仕方ないので諦めよう。剣の使えない物理では勝てない。例え水たまりの中に寝転んでいる状況でも。
「リン、お前は罪なき人を殺した人間をまだ嫌いになれずにいられるか?」
どんな表情かは抱きしめられて見えない。
だけど声が震えている。




