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「……ごめんなさい。それは無理です」
つい数時間前にも聞かれたような。
前世なら喜んでオッケーした。もう、あの頃とは違うから。そんな資格ないから。
さっきからの言葉って私を好いてくれているから出た言葉だったのね。
「そこは断る流れじゃないよね。俺が嫌いなの?」
「あなたに私は釣り合いませんよ。守れなかったのですから。嘘つきなんですよ?私」
「守れなかったのは俺もだ」
「それに、身分差もあるし」
「気にしなくてもいい。どうしても気にするなら王族から抜けても」
「ちょっと待った!!!ぜぇーぜぇー」
なんか走ってきた。
えぇっと、誰だっけ。ダンスの後にあった人……キースさんだ。
「雰囲気くらい読めよ。隠密のくせして走るのは遅いのかよ」
「いやー、王族抜けられると困るんすよねー」
「にしても嬢ちゃん走り早いっすね。追い付けねーわ」
アルがそっと私とキースの間に立つ。
背中大きいな。
完全に隠れちゃってるな。
あ、そっか。泣いてたんだった。
涙を隠してくれたんだ、ありがとう。
急いで服の袖で拭う。
「話が拗れてきた時は力で語り会うのが一番すよ。というわけで、嬢ちゃんにこれ」
飛んできたものを受け取る。
「これ……」
見覚えのある剣だった。
柄の部分を握ると手に馴染む。かつて愛用した白銀の双剣、の片割れ。武器屋で再会した物の番となる剣だ。
「宝物庫で眠ってたんす。たまには本気でぶつかってみたらどうっすかね。んじゃ、これ以上邪魔しても悪いんで」
どこかに消えた。
飛んだのか落ちたのか。
気配を感じないのでここにはいないのだろう。
そういえば、なぜ剣が使えることを知っているのか。側近だから情報共有してるのかしら。
「あいつ。……せっかくだし、久しぶりにやるか。場所的にもいいし」
「剣はもう……」
「俺のことで引きずってるなら止めろ。お前の剣技が好きだから。敵を捌くのも、魔法を跳ね返すのも。……そうだな、俺も久しぶりに魔法を使いたい。剣士でないリンに魔法を使うのは不平等すぎるだろ。俺のために剣を使ってくれないか?」
「……そう言われてしまっては、仕方ありません。私の最優先事項はあなたの願いですから。アルキオネ様、私が勝ったらまた側にいさせてください」
戦いの前は勝ったときの条件をそえる。
これもかつてのルール。
彼に勝てたらきっと、守るだけの力があると思うから。負けたらそれだけの力量しかないので側にいるべきではない。
「では俺が勝ったら願いを一つだけ聞いて」
「「よーい」」
互いに地面を蹴って戦いの火蓋が落ちた。
とりあえず、まずは様子を見よう。
「【レベル6 ウィンドカッター】」
上から風の刃が落ちてくる。
細く光のような速度、全て同じ大きさのカッター、シンメトリーに弧を描く形状。
あぁ、この魔法の美しさ。やっぱり彼はアルキオネ様だ。
避けるのは時間が足りないので、鞘を抜いてそれを両断した。
魔法は真っ二つに割れて再度に落ちる。
地面を抉った。
それからいくつか同じのが飛んでくる。
「ははっ。やはり、懐かしい。また、こうして全力を出して戦えるなんて。このまま前みたいに一緒にいれたらいいな」
「私にあなたの側にいる資格などないのです!」
同じように剣で無効化したり、避けたり。
「だから、資格とかどうでもいい。それに俺の魔法を切る奴なんて他にいない。お前以上に強い奴なんていない」
「それでもあなたを置いていった。また同じことになるかも」
「【レベル7 ウォータ】」
避けたが魔法は地面を抉り、多量の岩石が威力をもってこちらに振りかかろうとする。
本気で武力をぶつけ合うのは憎み合ってるからじゃない。互いの強さを信頼してるからこそ出来ること。
「リン、俺が完璧な人間だと思い込んでないか。だから、側にいるなら自分も完璧でいないとならないと思っているのではないか?」
「あなた以上の人などいないでしょう」
剣を凪いで風を起こし、岩も石も跳ね返す。
ああ、残念ながら避けられてしまった。
「俺はお前が思うほどの人間じゃない。醜い人間だ」
「そんなことありません!あなたが何をしてもそれは私にとっては正義なのです」
「俺はお前が一番嫌うことをしたから」
「じゃあ何をしたと」
「…………できれば言いたくなかったのだが」
何故かいい淀む。それほど難しい内容だったのかしら。
彼のすることなら、理由が必ずあるはずだ。
それは前世から彼をずっと見ていたから分かっている。でも、私が嫌うことって?
「海のなかに大陸があったとされるおとぎ話があるだろ」
「ええ、絵本でよんだことあるかも。でもおとぎ話とされていたけど遺跡が見つかったのよ、ねっ」
授業でも習った、今は跡形もない幻の大陸。
というか、多分前世では存在していたもう一つの大陸のことを御伽噺にしたものが幻の大陸のと呼ばれているのだろうけど。その遺跡が先日見つかったらしい。
急所を狙って踏み込むも失敗した。
次は風魔法で剣を押して力を上げてみるか。前世ではなかった戦い方。魔法と剣の組み合わせ。
「学園でも教えられたわね。話によるとレベル11の魔法で滅ぼされたと」
衝動的に距離を詰めたのがいけなかった。
左肩に攻撃魔法がかする。
「【レベル3 毒 麻痺】」
授業で習った毒魔法。
毒をもって毒を制す。痛みを感じなければ問題ない。
ただし怪我は怪我。そして切り傷は出血量が多いので肩からだらだらと生温かな液体が流れる。
残念なことに回復魔法は苦手すぎて使えない。
それにアルは眉間にシワを作ったけど私はお構いなしだ。これこそ戦い。戦いに情けはいらない。
レベル11 大陸を一つ消す代わりに己の身をも焼き尽くす。
それを使えるのが可能な人はたった一人しか思い当たらない。
「その魔法を使った人は、使った人の名は?」
「アルキオネ……アルキオネ・グラファイ。前世の俺だ。最後の戦争の後、彼の国を訪問したのだが……その時大陸を滅ぼした。復讐のために」




