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「アルキオネ様、なのですね」

「ああ」


その一言だけで、視界が滲んでしまってどうしたって彼の顔が見えなくなってしまう。


「戦乱時代を生きて、美しい魔法を使っていた」

「ああ、美しいかは分からないが」

「本物ですか?」

「ああ、転生してはいるが確かにアルキオネだったよ」


顔を上げられない。

なにより謝らなければならない。


「アルキオネ様、あなたを守りきることができませんでした。どうか、どうか御許しを。私の方こそ守りきれず先に死んでしまって、大変ご迷惑を……」 

「やっと会えた。ずっと探していたんだ。君がリンなのかもしれない、そう疑ってから何度も鎌をかけたのに引っ掛かってくれなかったし」


これまでの色んな会話を思い出す。振り返ってみれば前世に関する質問をされていた。あれはそういう意味だったのか。

そんな鎌をかけられても普通は前世を暴露したりしない。


「顔を上げてくれないか」


目の前で膝をつく音がした。


「嫌です。会わせる顔がありません。それにあなたが膝をついてはなりません」


それに目が大洪水でこんなの初恋の人に見せられる訳がない。せめて、顔を洗って目を冷やして一晩経って気持ちを整理してからにしてほしい。


「俺も守れなかった。本当にごめん」

「謝らないで下さい。あなたは全く悪くはないのですから。私の方こそ」


さっきから会話が堂々巡り。


「リーンはリンだった、ってことで合ってるよね」

「はいっ。アルファイドはアルキオネ様、ですよね」

「うん、そうだよ。ねぇ、顔見せてよ」


ブンブンと横に頭を降る。

本当に見せたくないのだ。


「いつも見てるじゃないですか。私の顔なんて」

「お互いに前世を知ってからは見てない」

「今、ほんとぐちゃぐちゃですよ?」

「それでも。見てもいい?」


ゆっくり頷いたけどなかなか顔を上げることができない。そんな私の顎に優しく手が触れる。

暖かいそれに動かされ、徐々に視界が上を向く。

そこには見慣れたアルがいた。

アルだけどアルじゃない。

急にアルの顔が近づいてきた。ボーッと見とれてたら口唇に暖かいものが重なった。

静かになった空間に夏風が吹く。

一泊遅れてこれがキスという行為であることに気がついた。

顔が熱くなり、慌ててアルの肩を叩く。それでも止めてくれないので離れようとしたら抱き締められてしまった。

マズイ。息ができないわ。

アルー!酸素が足りないわ。

さらに肩を強くペチペチ叩いてなんとか離してもらった。


「急に何するのですか。女の子にいきなりこんなことしてはダメです。あなたの立場なら勘違いされると厄介でしょう」

「リンになら勘違いされてもいいよ。舞踏会に恋人探しに来ようとしたくせに今さらじゃないか」

「だからそれは冗談ですと前にも言いましたよね」


まだ覚えていたのか。

でもそもそもその時は告白すらされてないし私が何しててもいいのでは?


「ファーストキスでしたのに」


全く怒ってない。初恋の人にファーストキスを奪って貰えるのはむしろ嬉しい。


「初めてだったのか」


深く頷いた。


「すまない。恋人探しなんて言うくらいだからもう誰かとしたことあると思ってた。恋愛には慣れているのかと嫉妬したんだ」

「あやまらなくて結構です」


ところで、さっきから勘違いされていいとか嫉妬とかおかしな単語が連発されているような。


「そういえば、五百年前ここに帰ってきたら話したいことがあるって言ってたよね。遅くなったけど、俺から言ってもいいか?」


確かにそんな話もしたな。

それと、アルのときよりアルキオネとしての言葉遣いの方が若干優しい気がする。


「ええ、どうぞ?」

「俺と婚約して下さい」




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