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だから、帰ってきたらしようと思っていた告白は不発に終わった。
まあ、どっちみち振られてたか。
私と彼じゃあ釣り合いが取れないもの。夢を夢のままにしておけて良かったのかもしれないわね。
巨木の真下まで来た。
幹にそっと手を触れる。
「強化魔法まだかかってるんだ」
実は周りが不自然なくらい開けているのは私のせいだったりする。ここで彼とよく手合わせをした。
魔法と剣をぶつけ合い、休みの日は日が暮れるまで力比べをして。
彼には叶わなかったけれど、それでも二人ともほとんど同等レベルの強さだったし、他に釣り合う人がいなかったから全力で戦える時間は楽しかった。
そしたらその場の植物達が破壊力に耐えきれず、あるいは私たちの気迫に負けたのか生き絶えてしまって……。
原因不明だがそれからしばらくしても何もはえてこなくなった。種を蒔いて、肥料をあげて、水も与えたのに。
じゃあ、せめて大切な木だけは守ろうってアルキオネ様に魔法をかけて貰った。
まさか、未だにはげ山のままだなんて。
私たちの戦闘は呪術か何かなのだろうか。
「お前は誰だ。なぜここに来た」
突然喉元に金属を突きつけられる。
声は木の上から。
驚きはしたけど安堵が勝る。
木に座っていたのは探している人だったから。
「ひどい鳥目ね。こんな月明かりでも見えてないの?私よ、リーンよ」
ついでに突きつけられた剣を手を切らないように掴んで奪い、腰にある鞘に向かって投げた。
それは見事にあるべき場所に収まる。
「アル。パーティーの主役なのにこんな誰も見つけられないような所にいていいの?」
手を差し出されたので素直に手を伸ばす。
触れた途端、強い力で引き上げられ枝に座らせられた。
「すぐに戻るつもりだったんだ。にしてもどうしてここだと思った?」
口調がいつもよりキツい。
いつもだって強くはあるけど、これは問いたい事があって明確に聞き出そうとしてる。王城ではこんなじゃなかったのに。追いかけててきたのがそれほど逆鱗にふれたのか。
夏に近づき生ぬるくなった風が頬を撫でる。
「なんとなくここかなと」
「なんとなく、ね。リーンは時々質問をはぐらかすよね」
時々って多分、野外実習のこととか、寝ぼけたときの事とか、今の事とかなのだろう。
全て前世に関わること。
だけど、だからって「前世の記憶があるからです」なんて言っても信じてくれるわけないし。
「それはアルも同じじゃない。例えばすごく魔法ができるのに剣を習う理由。ここにいた理由。教えてって言われて答えてくれるの?」
どうせあなたもはぐらかす。
そう思ってたのに、「別に答えるくらい構わない」と。
「剣を習うのは好きだった人を探すため」
好きだった?過去形?
「それに同じものを同じ視線で見たかったから。彼女がすることを俺もしてみたいと思った。上手くはできないけどね」
皮肉げな笑い声がして隣にあった気配がなくなる。私が登ってきたのと反対に降りたのだと気づく。
今度は下から手を差し出してきたけど無視して自分で降りた。軽く自分の身長を越える高さだったが綺麗に着地できた。
今はアルの手を掴む気にはなれなかったから。
「これは、お墓?」
文字が刻まれた墓石が一つ。
こんなの昔はなかったのだけど、誰のかしら。
だけど、アルが好きだった人というものにしては古すぎるものに見える。
所々かけていて苔だって生えてる。とても最近建てられたものではなさそうだ。
「そうだ。彼女はもういない、守れなかった」
『せめて手の届く範囲にいるなら守りたい』出会ってすぐの頃、アルから聞いたこと。少し繋がった。
「俺は情けない男だったよ。彼女は俺を守って死んだ。俺も守ると約束したのに果たせなかった。……唯一の生きる理由だったのに」
しゃがみこんで文字を読もうとするが暗くて読めない。
「あとはここに来た理由だったか。ここが彼女との思い出だからだよ」
ここは私の思い出の地でもある。
でもどうやら数百年の間に私たち以外の思い出の地にもなったようだ。
「気を悪くしたらすまないけど……リーンは、彼女に似てるんだ。ここまで話すつもりはなかったんだけどな」
さっきと違って弱々しい声だった。
そしてやっぱり暗くて見えないな。
相手を知らなくても、と思って腰を上げようとしたときアルは魔法をくれた。
「【レベル2 ライト】」
「ありがとう」
「……」
光の玉がふよふよと寄ってきて墓石を照らしてくれる。
辿って、名前のところで指が止まる。
しばらく息を吸うのを忘れた。
墓石に彫られていたのはリレイン・ユール。
前世の私を表すとされる名前だった。
「もし、俺が変人と思ったならここから去れ。そして今見聞きしたことは全て忘れてなかったことにしろ」
「あのさ、好きってファン的な意味ではなく?」
「恋愛的な意味で好きだったし、好きだよ」
「それは……前世の記憶?」
確かアルに前世について聞かれたこともあったわね。
「前世……。まあそういうことになるな。俺は彼女本人を知っていて、生まれ変わっても覚えている。リレイン・ユールを」
墓石に書かれていた名前。
前世の私を好きだった人。いやいや、ないない。
前世の私といえばアルキオネ様を守ることに尽力していて、恋だのを彼以外にしたこともない。
とすればアルキオネ様かもと思ったけど、そんな都合のよい話なんてないだろう。
第一に私の名はリレイン・ユールではないし。
しかし、このまま私関連でおかしくなりそうな人を放ってもおけない。
「あなたは前世の誰?少なくとも私はあなたを知らない。彼女が好いたのはたった一人だけ。その人がくれたのはリレイン・ユールなんて名前じゃない。歴史が間違ってるだけで、リレイン・ユールじゃない」
「それは彼女がずっと名前の短さに不満を持っていたから、死後に改名しただけだ」
そんなの信じられるわけ……。
でも、不満を持っていたのをどうして?
「約束を破ってすまなかった。死なせないと誓ったのに。……リン」
墓に向き合って呟かれた名前。
それは、その名は……私のだ。
瞬間、目から熱いものがこぼれていて。
だって、その名前は彼しか知らないはずだもの。
どうしようとか、何を言おうとか考える前に身体が勝手に彼の前に跪いていた。
「アルキオネ様、なのですね」




