30
既に集まっている会場の人が一斉にこちらを見る。
今まで連れを伴わなかったアルが急に私のようなポッと出の女と入場してきたらそりゃあね。
おそらく嫉妬まみれの貴族令嬢に恨まれたり……してない?
一瞬睨まれはするけど、秒にも満たない時間でその表情はどちらかというと諦めに近い。地位があるアルに言い寄る令嬢がいないはずない。どれだけ無下に扱えば、こんなに令嬢達の戦力を削げるのだろう。今まで何してきたのだろう。
アルが胸に手を当てて頭を下げ、こちらに手を差し出してくる。
「お相手願えますか」
ん?これ、知っているわ。次にどうすれば良いのか。だって……。
「ええ、喜んで。あなた様と踊れることを光栄に思いますわ」
差し出された手に自分の手を重ねた。
だって、これ家にいる時毎週やってたもの。
週末にお父さんとお母さん。それと私とお兄ちゃんでペアになり踊る時間があった。
その誘い文句と同じだったのだ。
アルは少々驚いた顔をしながらも動じず、私の手を取り腰に手を回した。
そして合わせたようにオーケストラが演奏を始めてダンスが始まる。
やっぱりだわ。
これはいつも家族でやるものと同じだわ。
あれは貴族の踊りだったのね。でもどうして、魔法方面に強いだけの一般家庭な我が家がこんな踊りを毎週しているのかしら。
私が踊れると気がついたらしく、アルは少しテンポを上げた。
お母さんが言っていた「踊りが早くなったら相手に試されていると思って速度を相手に合わせるのよ」という言葉を思い出す。なるほど、了解よ。
私もテンポを上げる。
そして徐々に加速して周りも加速した。なんだか合わせてもらっていたみたいで申し訳ないとよりテンポを上げていった。
もちろん、間違えることも足を踏むこともない。こちとら十数年毎週してきたのだから。
二曲目は曲自体がリズミカルなものだったのでより早く踊った。周りに迷惑をかけないようにもっと早く、まだまだいけるわ。
なんならいつもは着ないドレスを着ているため、裾が広がったりするのが楽しい。
三曲目はもっと早くなった。
実は周りは合わせていたのではなく、かなり限界の速度で踊っていた。けれど、それに気づく私でもなく。
故に三曲目が終わる頃にはみんな隅にはけて、踊っているのは私とアルのみになっていた。
なんだか不思議だ。
前の人生では守る立場として、踊る人を見たことしかなかったから。その場所に自分が立っているのが不思議で、高揚感に包まれ無意識に微笑んでいた。
天井から吊るされたシャンデリアが煌めいている。
最後の一音が鳴りポーズを取ったところで拍手喝采を浴びた。
「あ、あれ?私たちだけ!??」
「ああそうだ。途中から誰もいなくなっていた」
「踊るのに夢中で気が付かなかったわ」
三曲分の踊りは達成感がある。
三曲というのには理由があって、自分の特別なものだというアピールの意味があったりする。
ああ、夢中になりすぎて敬語を忘れていた。
「なあ、役じゃなくて婚約者にならないか?」
その声は小さいもので聞こえるか聞こえないか曖昧なものだったけど、内容はしっかり聞こえて。
かなり動揺した。だけど……。
「お断りします」
「真面目に断るな。冗談だよ。リーンを困らせることは言わない」
冗談なんて分かってた。
王族が庶民に本気になることなんてないもの。だからこそきっぱり断ったのだ。
なのに胸がモヤモヤするのはどうしてなのか。
誤字報告と感想ありがとうございます(*ˊᵕˋ*)
とっても助かります!
感想すごく嬉しいです!!




