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アルファイド side

俺は、両親とある約束をしている。


期間内に婚約者候補を見つける。見つからなければ、その時は決められた人と政略結婚でもなんでもしよう。だから、あと一年待ってくれと。

なかなか婚約者候補さえ決めない俺に痺れを切らした両親は仕方なしにこの要求を呑んだ。半ばキレて、平民でもなんでもいいから婚約しろよと遠回しに。《夏の舞踏会》も間接的な催促だろう。約束の期限までもう半分を過ぎたぞと。


この約束を結んだ理由は探している人がいるから。最愛の人。最期まで俺を守って俺のために死んだ人。なのに、その気持ちを伝えることも出来なかった。

悔やんだまま生涯を終えて気がつくと、記憶はそのままにこの身体に生まれていた。転生というものなのだろう。


なら彼女も同じように転生しているかもしれない。そんな不確かな可能性に賭けている。

そして限りなく似た人を見つけた。

初めて会った時は何も感じなかった。認識など前世の俺をやたら好いている人間、その程度だ。「前世を信じるか」と問うたのもたまたまで、それに対する返答を聞いた後も少し疑ったくらいだ。

学園で再びあった時でもそれは変わらなかった。

だが、あの剣捌きには既視感があった。そこでやっと思ったのだ。もしかして彼女は、と。


剣の扱いだけでは不確定だったが彼女は言ったのだ。「やっぱり瞳、綺麗」と。今も昔も、この血のように赤い目を綺麗だと言う人間を俺は他には知らない。

いや、思い違いかもしれない。

自信などない。

俺がよく似た別人と見間違えているのかもしれないし、彼女に記憶がないのかもしれない。 それでも、やっとだ。

剣を扱う前もそこそこ長く一緒にいたのに全くの別人と認識していた。今も疑ってはいるが。

これまでそれらしき人すら見つけられなかったのだから大きな進歩だ。

何故、剣科ではなくて魔法科にいるのかは分からない。だが、おかげでペアにもなれた。

ちなみに俺が苦手な剣科にいたのは婚約を避けるためだった。魔法科を修了してから入り直した。学園には寮があるため両親から逃げるには最適であるからだ。

彼女らしい人を見つけた。その喜びで笑いを抑え切れないところに側近がやってきた。


「殿下、いきなり婚約者候補はないっしょ。それに彼女、怖がってましたよ。殺気が半端なかったっす」


書類整理をしているところに天井から降りて来たのは側近のキート。幼い頃から一緒のために色々と遠慮のない奴。まあ遠慮されても困るが。この気楽な関係がわりと結構気に入っている。


「うるさいぞ。そういうお前こそ天井とか壁から現れるのいい加減やめろよ」

「いやー、趣味なもんで」


どんな趣味だ。いっそ、側近から隠密に転職したらどうだろう。

天井から降って来るのも、壁紙に擬態したりも側近はしないことばかり。

こいつは一日中気配を消して俺らのことをつけていたからな。問い正しても護衛だったと誤魔化すだろうが。こいつはそういうやつだ。誤魔化すも何も確かに護衛なのだろう。内心の八割に興味が混じっているだけで。


「にしても大人げないっすね。そりゃあ、年頃の娘さんですし、恋の一つや二つや三つくらいするでしょうよ。恋人探しの言葉だけでにイラつくって、大人げないっすよ。まだ相手もいないんすからそこまできにしなくても大丈夫っすよ」


こめかみ辺りがピクつく。

リンに、いやリーンに男ができると思うと居ても立っても居られない。もちろん俺が介入できる事でもないと分かっている。

イラついてキートを睨むと束の間静かになる。


「んな睨まなくても。にしても殿下はヘタレですか。せっかくのチャンスなのに婚約者候補役って、どうせならいっそ婚約者候補と言い切ればいいものを。候補でもまだ足りないくらいっすよ」

「そんなことをしたら嫌われるかもしれないだろう」

「まだ、お探しの人が彼女と決まった訳でもないんしょ?仮に彼女だとしても記憶があるとも限らない」


キートは改まった口調も使わない(必要なときは使える)。使う必要がないからだ。ふざけた奴だが仕事は出来る、そこそこ信頼もしている。

だから、キートには大まかに前世について説明している。この世界でただ一人の俺の事情を知る人間だ。


「本人だったとしても記憶がなければ殿下は変人なだけっすよ」


我ながら事を急ぎすぎたかもしれないとは後悔していなくもない。

だが、もし彼女が本当にリンで自分以外に恋人といるところを想像したらどうだろう。

胸の内側が熱湯をかけたようになり、無意識のうちに爪が食い込むほど手を握り締めていた。

それはだめだ。

それだけは許せない。


「変人だろうな。だから、間違えていないかは確かめる」

「間違えでなくても、合っていたとしても記憶がなければ解放してあげられるんすか?彼女には彼女の人生ってもんがあるんすよ?」


解放。

彼女の人生は彼女自身のものだ。

ましてや、守ることもできなかった俺が関与する余地などあるはずがない。

だが。


「……」


すぐに返事を返せなかった。


「んで、彼女がそうだと思った根拠は?剣を振れる者は他にもいるし、アルキオネのファンなら寝ぼけて瞳のことを夢に見ることもあるでしょう」


分からない。自分でも分からないのだ。

それでも、彼女に惹きつけられる。

彼女の言葉、言動、仕草。その一つ一つに。


「もしも人違いだったらもう時間が足りないんすよ。どうするんすか」

「もし違ったら」


そこで俺はキートを見て含み笑いをする。


「まさかっ殿下!?」


何を考えたかまで読めないが、多分正解だ。

もしもリーンを見つけられなかったとしても王や王妃の選んだ奴と婚約なんてする気は毛頭ない。

期限切れになれば俺は迷わず王位継承権を捨ててリーンを探す旅に出る。もともとこの地位を欲してはいない。ただ、第二王子のこの地位は人を探すのに便利だから捨てていないというだけ。邪魔なら躊躇いなく捨てる。


「ふっ、俺がいなくてもフィータネがいる」


兄である第一王子の名を挙げた。

彼は面倒臭いという理由のみで王位継承権第一位を押し付けて来たが、それをあるべき所に戻すだけ。


「だろ?キート。いや、フィータネ」


名前を呼べばギクッとしてこちらを涙目で見てくる。


「か、勘弁してくれよ。アルファイド、僕が王とかに向いていないのは百も承知だろ?」

「自分を抑えてまで統治者になるのはもうこりごりだ。それにお前に向いていないとは思わない。町人の人望はあるだろう」


慌てて口調を間違えたキート。

そう、この側近は第一王子だ。こんなのでも兄だ。

俺の近くにいるのは俺を王にさせるため。

そして、王族としての仕事が苦手で自由が好きなため。

そうでなければ隠密も側近もしていないだろう。彼は書類業務よりも人と関わる方が得意だから。

だから、俺を王にするためにもリン探しを手伝ってくれている。


「仕方ねえ。彼女がリンだったときのためにこっちも頑張るっす。他に一人もリンらしき人も見つかっていないっすし」


何を頑張るのかは知らないが、次に視線をキートにやると消えていた。


彼女用に書いた舞踏会の招待状を渡しそびれたかと机を確認すれば既にない。仕事が早いことはすごいが、第一王子が郵便配達していていいのか。

第一王子に、側近。郵便配達と隠密。何処を目指しているのか。

隠密っぽい雑用係っぽい王さま。意外といけるんじゃないかな。

玉座からパッと消えたり、天井から出てくる王様…………。

窓から学校のある方向をに目を向ける。


「リン……」


かつて愛した者の名を口にする。

君は俺を好いていると伝えることもできず、守ることすらできなかった俺をどう思うだろうか。

守ることもできず、守られてばかりだった俺の側にもう一度いてくれるだろうか。







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