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帰り道、学園と寮のあるところまで続く階段を永遠と登る。
通称、天国への階段。
地獄への階段のほうが合っていると思うのは決して私だけではないはずだ。
王都に出掛けるのが面倒な理由の一つがこれ。
「大丈夫か?」
「ええ、なんとか。パンケーキを食べた身としてはいい運動になるし」
パンケーキにはクリスマスのツリーみたいにホイップがかけられていた。高カロリーなものを摂取したなら消費せねば。
「先に行ってていいよ。私はゆっくり行こうかな。えっ、ちょっと?」
無言で手を取られ歩く。
ちょうどいい加減で引いてくれるので階段を楽に登れる。
少し恥ずかしいし。これではまるで恋人ではないか。
「俺が女性を置いていくような男に見えるか?」
「……見えないです」
「なんならまた横抱きにしてもいいが」
「け、結構よ。気持ちだけもらっておくわ」
変な冗談は言ってくるけど、アルって面倒見がいいわよね。
この前はドラゴンに噛みつかれそうになったとこ助けてもらったし。今日は剣をくれようとして、受け取らなかったら不機嫌だったけど表に出して怒こりはしなかったし、パンケーキ屋でも失礼な間違いをしたのに責めてこなかった。今だって手を引いてくれている。
あれれ?私は何か返せたっけ。
してもらってばかりだわ。
階段を登っている途中にポスターが目に入った。
こんなところにも学園は掲示物を張るのか。
「舞踏会?」
おおよそ学生には関係無さそうだと思いながらも足を止める。
《夏の舞踏会》
この学園の剣科・魔法科それぞれより参加出来ることとなりました。
応募資格 成績が上位10以内にあること。
応募方法 担当の先生に志願書の提出。
募集人数 4名(ペア参加のため男女2名ずつ)
場所 王城の広間。
《以上》
見なかったことにした。
最下位には全く関係のない掲示物だった。下から数えてなら余裕なのに、なんて。
あれは貴族や王族の要望なのかもしれない。
平民であろうが成績優秀ならと。
学園には平民なのに天才な子が多くいるし。 だって、お城でドレス着て踊るとか憧れじゃない?
あ、そもそもドレスもってないから、はなっから関係ないじゃない。
「舞踏会に興味があるのか?」
前で手を引いてくれていたアルに、振り向いて聞かれた。
「まあ、女子なら誰でも憧れるんじゃない?あわよくば、恋人探しとか」
はっきり言うと、そんなの興味ない。舞踏会自体への憧れはあるけど。
探すまでもなく私の忠誠心はたった一人の為にあるのだから。
「恋人探し……?本気で?」
声に迫力があって、少し怖いくらいだった。
こんなところで迫力出さなくても良くない?
うーん。アルの怒りポイントが分からん。手違いとはいえ勝手に恋人にしたことには全く怒らなかったのに何故怒ったのかしら。
「い、いえ冗談です。舞踏会そのものに憧れてるだけ、です」
「ふーん。そうなんだ」
そして私にはこの時、正面から差す夕日が逆光となってアルの表情が見えなかった。だから、その目に昏い光が宿っていたことなど知るはずもない。
「でも、リーンは騙されやすいよね。今日も噂を素直に踊らされるくらい。そんなので舞踏会に行って、踊るだけで済むかな?」
またなのか。
また、キャラがおかしくなったのか?
このキャラの時、ちょっと怖いんだよね。早く帰りたい。あと、踊るで上手いこと掛けるのも止めて欲しい。
行こうと手を離して進もうとしたけど、離してくれなかったのでそのまま進む。進もうとしたけど進めなかった。
「それでも舞踏会に行きたい?」
「行きたいわよ。行けないけどね」
というか正直もうどっちでもいいから手を離して欲しい。
「俺が連れて行こうか?」
「どうやって」
「別に成績上位者じゃなくても貴族ならいけるのだが」
そう言ってポケットから取り出したのは……舞踏会の招待状!?
なんで、いやまあアルが貴族だからなのだろう。
家名を聞いていないから、いくらでも可能性はある。
でもしかし、だ。いくらペアでも貴族が理由もなく舞踏会に誘うわけがない。なにか代わりに求めるものがあるはずだ。
「対価として私に何を求めるの」
「話が早くて結構。そうだね対価は」
───俺の婚約者候補役を演じること。




