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古い鍛冶屋の隣に並ぶ、パステルカラーなパンケーキ屋さん。若者感溢れるこのお店が噂になっているらしい。
ベルのなる扉を開いて中に入る。
「何名様でしょう」
「二名です」
「ああ!では、噂を聞いて来たんですね?」
「はい」
「やっぱりですか!最近、カップルのお客さんに人気なんですよ。このお店」
ん?んん???
カップル?アップル、カップ、……コップ。カップとコップは何が違うのだろう。コップとはなんぞ。飲み物を飲むときに液体を入れて使う陶器、またはガラス製などの器。
現実逃避にい勤しんでいる場合ではない。
ペア。そういうことか!!
「カ、カップ……。あのっ」
「店長ー!恋人の幸せパンケーキ、オーダー入ります!!」
タイミングが合わず書き消された。
「こっこいび……あの違」
「ええ、ええ分かっていますよ」
おお!分かってくれたか。
そうよ。私たちは学校ではペアだけど間違えてもカップルなどという仲ではないのよ。
「照れなくても大丈夫でございますよ」
全然分かってくれてなかったわ!
全然通じていなかったわ!
「席はこちらになります。ご注文の品ができあがるまで少々お待ちください」
そして抵抗も虚しく二人席を案内され、案内した店員は笑顔で颯爽と去っていってしまった。邪魔をしてはいけないと謎の気を遣われた。
お願いだから人の話を聞いてくれ。
私とアルはそのまま座る。私は気まずすぎてアルの顔が見れなかった。
にしてもなんてタイミングの悪いことだ。
もうポカーンとする他にない。
自分から行きたいと言い出したのに、よりによって他人も巻き込んでしまった。
アルは絶対あきれてるよね、怒ってるかも……。
ええい!ここは思いきって顔を上げて謝ろう。
あれ、怒ってないのかしら。
あれれ、しかも笑われているわ。怒りを通り越すと笑いに変わる人もいるらしい。これははもしかするとそちらかもしれない。どちらにしても早く謝った方が身のためだ。
「えっとアルごめんなさい。その、恋び……恋人とかあつかましい存在を押し付けるつもりは塵ほどもなくて。怒ったよね、当たり前だよね」
「俺は怒っていないから謝る必要はない」
「ほんと?」
「ああ。リーン噂話は疑ってかかれと教わったことはない?」
どうやら怒ってないのは本当のようで変わりにクツクツと喉を鳴らしている。
そんなの教科書には載ってなかったけどな。
読み落としたのかしら。
それによく考えれば女子のしていた噂には嘘はなかった。嘘は。私が勝手に解釈を勘違いしただけで。
周囲を見渡すとすべての客が男女のペアだった。
この場にいるのが恥ずかしいし、すごくアルに申し訳ない。
そして私はテンパっているのにアルは平然としている。
「ホント私と付き合ってるなんて勘違いさせて申し訳無さすぎるわ」
「謝る必要ないって。むしろ幸運かな」
「幸運?あっそっか。パンケーキお得に食べられるもんね」
不幸中の幸い。ああ、でも今度は店員さんにも申し訳なくなってきた。騙すってことよね。
「そうじゃないんだけどな。まぁ、俺は問題ないよ。慣れてるから」
慣れてる??
アルって、素っ気ないけど女の子にモテるのかしら。或いは隠れ女たらしだったり……。
「考えてることは外れだ」
失礼なこと考えててすみません。
読心術でも使ったのかしら。それとも魔法?
「心を読む魔法なんて使ってないよ。顔に全部出てる」
「魔法なしで読めるなんてすごい」
称賛したのにアルは不機嫌そうになる。
「読心魔法なんて存在しない。あったら便利だろうけどね。これくらい読めても大したことないし、単に読めないと立場的に危ないから」
「立場ってアルは何者なのよ……」
私は心を読まれているのにアルのことは何も読めない。
それがなぜだか悔しい。
クラスメイトの様子から彼らの方がアルのことに詳しそうでそれも悔しい。
先日も実習から帰ってきたときに同じ感情を抱いた。
ペアだから知りたいとはきっと違う。
ならどうして知りたいと思うのか。
深く関わると面倒事になりそうなのも勘から分かるのだけど、それでも。
悶々としていると二皿のパンケーキが届けられた。何枚か重ねられたパンケーキの上にクリームが盛られ、その頂上から黄金の蜂蜜がふんだんにかけられていた。
そこではっと気がつく。
アルは、私が恋人の勘違いをして感じていた申し訳ないと縮こまっていたのを見て、さりげなく話をそらしてくれたのだ。
「美味しいな、このパンケーキ。しかも半値で食べられるなんて得しかない」
「ありがとう」
「礼を言うのは俺だ。ほんとはこのパンケーキが目的ではなく俺に付き合ってくれただけだろう」
気づかれてたか。
「話題のパンケーキを食べたかったってのもあるけどね」
二人で食べたパンケーキはほんのり甘く、とても美味しかった。




