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そして数日の授業を挟んで休日。


「着いたー!!ここよっ」


古めかしい木の看板に彫られた《武器屋ロシュベル》の文字。五百年も前から建っているその建物は、まだ当時のまま。

無くなってたらどうしようかと心配だったけど、まだあってよかった。


「ここなのか?表通りにも店はあるだろう」


人気のない店を見て呟かれた。

確かに表通りにも店はある。人がたくさん来て、雰囲気も明るくて、今どきな音楽を流している店が。


「ここの方が品質は優れてるの。新しいから優れている、人気があるから良い品が揃っているとは限らないわ」


一番肝心なのはそこだから。

武器屋の看板を掲げながら剣しか売っていないこの店は、それだけ品質が高いと知っている。

今世は初めてだから技術が受け継がれていればだけど、見た感じ衰えていない。

店主は客の私たちには目もくれず刃をといでいる。 

適当に手にした剣の刃に曇りはなく、冷たく光っていた。

アルは中に入り商品を見比べている。床から壁、展示に至るまで商品でびっしりで異界に迷い込んだみたい。

同じ剣でも種類は細かく分かれる。

袖に隠せるような小さいもの、両手でないと持てない大きなもの、馬ごと倒すための特大のもの。

それから。


「なあリーンこれはどんな剣だ」

双剣……の片割れだった。

双剣とは両方の手にそれぞれ一本ずつ持つものだ。だから普通の剣よりも細身で、片手でも扱いやすいよう軽量だ。その刃を白銀の鞘が封じている。よく観察すると銀で繊細な模様の描かれていて、とても古いデザインだ。今どき鞘なんてすぐ痛むから意匠を凝らさないものの方が多い。

店の隅に追いやられたそれが、白銀のそれがアルは気になったらしい。

それはすごく見覚えのあるものだった。見覚えというか正確には左右対称だけど。


「元双剣だ」


ずっと黙っていた店主が気配もなくすぐ後ろにいた。ちょっと怖かった。


「店主、元とはどういうことだ」

「それは双剣の左側の剣よ」

「おぅ!嬢ちゃんよく左と分かったな」

「双剣の左なら右もあるはずだな。もう片方はどうしたんだ?」

「売れた。もうずっと昔にな。その剣は、この店に残る一等古いもんだ。手入れはしているがな」


アルが抜いてみると、まるで作られたばかりのように刀身は光っている。


「伝えられてる話じゃあ、そのお客は片方だけ買っていったらしい」


店主のおじさんは、それまでの沈黙が嘘のように饒舌に説明をしてくれた。


昔、何代も前の鍛冶職人が店をしていた時のこと。そこに一人の女の子が一人でふらりとやってきた。

当時は女は武器なんて持たないし、ましてや成人もしていないような子供が買いに来たもんだから店主はたいそう驚いた。店主は親のお使いにでも来たのかと、剣とはお使いで買われる代物だったかと驚いたらしい。が客は客、注文を取った。

そして二重に驚いたらしい。何しろそのお客はお使いではなく自分の剣を作りに来たのだから。

しかも注文は独特だ。双剣を作ってくれ、右だけ買おう。あぁ、両方の値段を払うからそれは安心して、と。

なぜ、一本だけ要しているのにわざわざ双剣なのか先祖は聞かなかったらしいが。

で、出来上がった剣をとても嬉しそうに受け取って帰っていった。お金を払いながらも片方だけを受け取らず。

もちろん双剣の片方だけを買う物好きが、そんなにいる訳もなく。名前までは伝わらなかったが、その剣の持ち主となった少女はその時代でそこそこ有名になったらしい。

まぁ、ちょっとした言い伝えで曖昧だし、その少女の名前すら伝えられていないし、どこまで合ってるかは知らん。



「で、忘れ去られたかのようにそれからずっと店の隅の方に置かれて、誰にも買われず誰の目にも止まらずにいた。俺の代まで」


すごく身に覚えがある上に、すごく伝説みたいになっていた。

なんでそんな話を子孫代々受け継いできたのか。もっと他に鍛冶屋として受け継ぐべきことがあるだろう。


「それを買ったのはどんな奴だったんだ?」

「これも合ってるかは知らねーが、銀糸のような髪をもつ華麗な人だったらしい」


ほら、やっぱりね!

歴史は良くも悪くも盛られるものなのよね。銅像だってそうだしね。

銀糸とか華麗とか……。

ない、ないない。絶対ないわー。


「ちょうど嬢ちゃんのような髪じゃないか?」

「へ……?」


急に例えにされて困惑する私。

二人してこちらを見ないでほしい。

私は銀糸の髪でもない普通の銀髪だし、華麗でもない。

いや、色は同じだけどほんとマジマジと見ないでくれないかしら?


「なるほど。店主が言うのならそうなのだろうな」


アルもなんで納得してしまうの?


「ぜってーそうだな。鞘の色とそっくりだ」


なにゆえに?それ、何基準?何をもって?


「だから鞘だって」


考えが表に飛び出してたみたい。

鞘で判断したところは、さすが武器屋と言うべきか。


「店主、俺は左利きだがこれを使うのは可能か?」

「左利きなら問題ないだろ。そいつ、連れて帰るか?」


伝説のごとく自慢げに双剣の物語を話していたのにあっさりと問われた。

連れて帰る。

まるで人のような言い方をする。


「いいの?だって大事にしてたんじゃないの?」


アルも頷いて肯定している。


「武器は使わねぇと置物にしかならねぇ。それじゃあ生きてないってことになる。剣は生き物だ。使ってやってこそ剣冥利に尽きるってもんだ」

「店主、これはいくらだ」

「代金はその少女にもらった。だから貰うわけにはいかねぇ」

「それは流石に!」

「いや、意地でも受け取らねぇ。先代もそれを作った先々々々々代もきっと同じことをするだろうからな。それに嬉しかったんだよ」


満面の笑顔を私に向けてくる。


「お前さんのような若もんが、しかも銀髪の女の子がわざわざ俺の店を選んでくれた。若もんはすぐ表通りの流行っている方に行くからな」

「質の良いものが必ずしも目立つ場所にあるわけではないもの」


人気な店が悪い訳じゃない。人気なのには必ず利点もある。でもだからすぐに飛び付くのは間違っている。

こうして自分に合うものを見つけるには他者に流されていては出会えない。


「ガハハ、店の前でも似たことを言ってたな。物事をよく分かってる嬢ちゃんだ。兄ちゃんの方も、嬢ちゃんの連れならそいつも上手く利用してくれそうだしな」


その剣とお前たちが出会ったのもきっと理由がある。これは運命だ。

言い切ってまたガハハと笑う店主。

まさか店に入る前から見られていたとはね。刃を研ぐのに夢中だったから外のことなんて意識していないのかと思ってたのに。

そして、対価を払わないのが性に合わないのだろうアルは悶々としていた。まだ言い返そうと口を開こうとしている。

そんなアルを見て、店主はさっさと私たちを追い出した。


「その剣がお前達の未来をも切り開いてくれますように」


それが聞き覚えのある文言だった気がして振り向いたけど扉が閉められたところだった。

なんだか嵐のような店主だった。

残ったのはアルの手に剣が一振り。

アルは今まで腰にささっていた右利き用の黒い剣を抜き取った。そして新しく手に入れた白銀のそれを代わりに取り付ける。

それはとても似合っていて、なんの因果か数百年ぶり近くにやってきた片割れは陽を受けて眩しい。


「これお前にやる」


差し出されたのは元々アルが使っていた黒い剣。鞘を見るだけで品質の高いものであることが分かる。

「ええっ!貰えないわよ、高そうだし」

「北国の商人が持ってきた一級品だ。三日三晩焔を絶やさず、何度も叩いて鍛え、地金にはオリハルコンを使っているらしい。が、俺は左利きだから使いにくい」

差し出したまま戻そうとはしない。

さっきの店主の強引さが移ってしまったのだろうか。

なんて感染力のつよい。


「ダメなの。驕り高ぶって過信するの。だから、もう二度と剣は持たないと決めているの。この前持ってしまったけど例外だから」

「どうせこれは俺には使えない。飾りにしかならない」


それでも受け取らない私に痺れを切らして、押し付けた。と思ったらそのまま手を離した。

「危ないっ!」


咄嗟に掴んでしまった。

剣が傷む。なんて考えるのは前世で身に付いた剣士道のせいか。

剣は使えない。それに筋力が足りないからこんなに重いものは……あれ?全く重くない。

非常に使い勝手の良さそうな……。


「攻撃力を損なわない程度に軽量化魔法をかけておいた。……いざという時に身を守るための手段はあった方がいい」

「気遣ってくれてありがたいし、心配してくれるのもありがたいわ」


だけど、


「ごめんなさい。この剣に私は釣り合えないわ」


先日剣を持った時に守り切れたら受け取っていたかもしれない。だが何一つ成長できていないのに受け取る資格などないのだ。

表情をどれほど読めない人でもわかるほどの不機嫌さを顔に浮かべる。

分からないな。

どうして不機嫌になるのかも、おせっかいをやいてくれるのかも。

少し前まで「足引っ張るな」とか嫌味ばかりだったのに。そんな私が怪我をしたところでどうだって良いだろうに。

まぁ答えのないことを深く考えるのは得意ではない。ここは楽観的に本命のパンケーキ屋さんに向かうとしよう。



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