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「あ、そろそろ制限時間だし帰ろっか」


けれど歩けなかった。

膝から崩れ落ちたため石が当たって膝が痛い。

視界が揺れた、ではなく私が揺れたんだ。

力が抜けて膝を地についていた。


「その、少しだけ待って。ただの貧血。少ししたら良くなるから」


 待てばすぐ良くなる。

だけど、アルは近づいてきて膝裏と背中に手をそっと差し入れ抱き上げた。

これってお姫さま抱っこというやつでは?


「ア、アル!待ってよ。横抱きは恥ずかしいわ。他の女子生徒に見られたら絶対に、お姫様抱っこだとかからかわれるわ。あなたは確かに王子様みたいだけど私は違うし。……いや、今の最後だけ忘れてなんか変なこと言った」


気が動転して言っていることが支離滅裂だ。王子様って……彼はほんの少しアルキオネ様に似てるよ?彼は王子様だったよ?でもアルと重ねちゃだめだ。


「待たないし、忘れない。変じゃないよ、まんざら間違いでもない」

「???最後の方聞こえなかったんだけど。というかほんとに恥ずかしいから。このまま学園までとか言わないよね」

「……」


どんどん歩いて学校に向かっている。このままだとまずいのでは。噂とか、恋バナとかあの年頃はすぐ食いつくものだよ。

勘違いされたら申し訳なさすぎる。


「言わないよね?」

「さぁな。これに懲りたらもう危ないことはしないことだな」


キャラが短時間に変わってしまったような。人ってこんなすぐ変わる?

だとしたら、キャラ変されたなら確実に私のせいだ。

キャラどころか様子がおかしい。このままこの話題はまずいのかもしれない。

そうだ話題転換しよう。


「レベル6 特攻撃級。使えるひとがほとんどいない。使えたら出世間違いなし。大抵の魔物はやっつけられる」


いつか読んだ教書のひと文を暗誦する。


「……魔法使えたんだ。しかも結構上位の」


剣を学んでいるから魔法が使えないなんてことはないけれど。魔法が使えるならそっちの方が便利だとら考える人の方が大多数だ。しかも、強力な魔法が使えるならなおさら。


「これを聞くのは無粋かもしれないけれど。ねぇ、どうして剣科に入ったの?」


アルが眉を寄せた。

あ、転換の方向性を間違えたかも。


「別に剣科だけではない。魔法科にも行った」

「……?もしかして」


年上?

同い年だと思ってたけど。剣科と魔法科、どちらかしか入れないという訳でもない。望めば両方卒業出来る。

その場合は年上になる。だが、手続きなど手間がかかるので両方入ろうとする者は滅多にいない。


「さぁな。どのみち学生なことに変わりはない」


本日二度目のさぁな。

便利だな、さぁな。今度誤魔化したい時に使おう。


「ところでアルって呼ぶようになったんだ?」

「あっ、そういえば戦いのとき長くて略しちゃってた。アルファイドの方がいい?」

「いや、たまには略称も新鮮で悪くない」


なんとなくの呼び方が公認になった。戦いのとき短い方が呼びやすかったからそうしてたけど、あとから怒られそうとかビビってたんだよね。よかったわ。

あと、素っ気ないアルに戻ってきたかも。


「今更だけど重いでしょう。もういいよ立てるから」

「嫌だ」


駄々っ子か!とつっこまなかったのをどうか褒めてもらいたい。

そして戻ってなかった!

むしろ悪化した。アルの頭にしゅんとなった犬耳の幻覚が見える。


「お前は貧血に加えて腰が抜けている」


腰が抜けてる?

言われてみれば貧血ならあのとき頑張れば立てただろう。でも力が入らなかったのはそういうことか。


「俺の大切な人は剣が強かった。誰も勝てないなと周りに苦笑されるほどに。だけど、そんな奴でも一瞬でいなくなった。俺が、油断して……近くにいたのに、俺のせいで……」

「アル?」


以前言っていた守りたい人。もしかすると、その人の話なのかもしれない。


「入学式の前日お前が言ったように、もうやり直すことはできない。もうどこにもいないけど、俺は絶対に忘れない」

「そう、なんだ。きっとその人もあなたを大事に思ってた。だから俺のせいとか言わないで」


似ているのかも知れない。

大切なものを守れなかったの部分が特に。だから、踏み込み過ぎてしまった。


「お前には分からない」


いつかの私の言葉を返された。

そうだ。その人のことは私には分からない。

でも、それでも、置いていった方も彼を責めて欲しくはないはずだ。


「だが、お前に言われると救われた気がする」


ずっと固い表情だったのが、僅かに笑った。本人も気づいていないかもしれないが。


「俺は救われてはいけないのだがな。ありがとう」


彼……アルキオネ様もやはり私が目の前で死んで自分を責めただろうか。

一介の従者に過ぎない私の死を少しでも悲しんだならそれはすごく申し訳ない。

私には彼の気持ちは知りようがない。

どうか自分を責めないでいてくれるとありがたい。彼にはそれ以上のものをもらった。

むしろ私を責めなければならないのだから。

そこからは特に話さず黙々と、だが横抱きのまま進んでいった。







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